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ある野良魔導士の書斎

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リューン侵略の前に、観光・・・ではありません (ベイジル、一人含み笑い)


 ルーラルまでの旅路は、本当に穏やかなものだった。特に何事も無く途中で親父さんが作ってくれたお弁当を食べつつ進み、あっという間に到着した。

カードワースシナリオ『ヘイトマシーン』(作:a-system)より
『俺らとヒゲと殺戮兵器』:2(著:天空 仁)

「早速捜索開始だね」
「それじゃあ、あの立派な教会から行ってみようぜ」
プネウマの言葉に、ハッカが頷く。一同がそこへ入ると町の規模にしてはとても立派で、搭もかなり高かった。中に入るなり、ジンジャーは瞳を輝かせる。
「こんな教会にめぐり合えるなんてな!この構造なんか実に…」
「はいはい、興味があるのは十分にいいことだけど先ずはカーターさんを探さなきゃ」
マルパッチョが彼を宥め、一人祈りを捧げる司祭に声をかけた。
「おや、こんにちは。冒険者の方ですか…ようこそ、ルーラルへ」
「突然ですいませんが、この町の近況を教えていただけませんか?」
一同を代表し、カモミールが問いかける。司祭は不思議そうな顔をし、理由を求めてきた。言葉に詰まった彼をプネウマが「最近良くない噂を聞いたもので」と助け舟を出す。司祭はそうですか、と小さく微笑んだ。
「他の街に比べて、特に酷いということはないですね。一つだけあるとすれば…」
「すれば?」
不意に表情が曇る司祭。ジンジャーが問うと彼は酷く心配そうな顔で呟いた。
「あるとするならば…街が主催で行うイベントですね」
「…ど、どんな?」
「毎年、象と戦うというイベントをやっているのです。毎年ハプニングが起こってしま
 うんですよね…」
一瞬、カモミール小隊の目がきらーんっ!と輝く。
「ど、どうしたんですか!?」
「い、いや…象と聞いて少し心が躍ったもので」
驚く司祭に対し、若干興奮が抑えきれないといった様子で答えるハッカ。傍らのミントはそんなのがあるんだぁ、と頬をほんのりと桃色に染めてわくわくしている。
「…なぜそこに反応する」
首をかしげたプネウマに、ベイジルはくすくす笑うだけ。それに肩をすくめていると今度は二人でカーターについて聞いた。プネウマ曰くヒゲが特徴らしいが、それが切欠で司祭も何か思い出したらしい。
「あ、ああ…あのヒゲの!確かにいますが今どこにいるかは…」
「ありがとうございます(ひ、ヒゲか…。要するにヒゲの人なのか)」
マルパッチョはお礼を言いつつも脳裏に青々としたヒゲを生やしたおっさんを脳裏に描いた。

 一同はとりあえず教会を後にし、今度は町長の家へ向かった町長は珍しくやって来た冒険者に興味を示してくれた。一同はちょっとだけお世話になります、と頭を下げる。
「リューンからとは…。さぞかし大変だったでしょう。さぁ、お茶ですよ。これでも飲んで疲れを癒してください」
「うわぁ、有り難うございます!」
「丁度喉が渇いていたんです。うれしいなぁ!」
マルパッチョとハッカはそういってカップを手にする。他の面々もそれぞれカップを手にし、早速飲み始めた。
………が。
「な、なんだこりゃぁああああっ!?」
「ど、どうなさいましたか?」
思わず叫ぶカモミール。町長はその大声に眼を丸くする。
「こ、これは一体何なんですか!?」
思わず聞いてしまうジンジャー。町長はああ、これですかとにっこりした。
「ルーラル名産の林檎をつかった『極北茶』だ。健康にはいいぞ」
(酷い…。こんなまずい茶なんて飲んだことない!)
マルパッチョは若干意識が飛びかけた。ジンジャーがふとベイジルをみると……彼女は涼しい顔で笑っている。と、いうかあまり飲んでいない。
(つか…知っていたとしか思えない。あの顔は知っていたとしか…)
プネウマたちが一人涼しい顔の彼女を見つめていると
「あら、口に合わなかったみたいですね……ふふふ」
なんて言ったので内心なんかむっ、とした。彼女は手にした情報を口にせず、混乱を楽しむ癖がある。その事を忘れていた、とカモミールは頭を抱えた。
(それにしても…林檎からこんな味が出るんだろう。ある意味凄いかも)
まじまじとカップの中身を見つめ、マルパッチョは思う。密かにカモミールに渡し、リューン侵略の兵器に出来ないかとか相談してみようと思った。
「お、お茶ご馳走様です…町長。実はお聞きしたいことが。ちょっと噂に聞きましたが
 最近、北部地方の治安が良くないというのは本当ですか?」
今まで黙っていたプネウマが問いかける。
「いえ、そんなことはないと思うが。確かに事件はあるが、国の方で調査もしているし問題ないはずです。君たちは…それを調べにきたのかな?」
「いえ、そういうわけじゃなくて、ルーラルに滞在しているはずの人を探しに来ただけです」
それでこの辺りの治安も気になっている、とマルパッチョが理由を説明すると町長はそうか、なるほど…と朗らかに笑う。
「ルーラルにいたっては大丈夫ですよ。むしろリューンの方が治安は悪いんじゃないんですか?」
「ははは、それはそうかもしれませんね」
それにジンジャーは思わず苦笑した。町長はふむふむと頷き、机から住所録を取りつつ口を開く。
「で、お探しの人はルーラルに住んでいるのかな?住所がわかれば教えたいんだが」
「いえ、なんでも全国各地を旅して回っているという人なんで、決まった住所はないらしいんです」
ジンジャーの言葉に、町長はふむ、と住所録を弄りながら考え…思い出す。
「それなら多分、市の中心から離れた川沿いに宿が集まっている所があるから、案外そこにいるかもしれないな」
「ありがとうございます、町長さん」
カモミールたちは彼に頭を下げる。そしてそこへ行こうとしたがミントがまって、と止める。
「ところで…さっきのお茶に使われている『極北』って林檎は…」
「き、聞きたいかね!」
「えっ!?」
町長の目が、ぎらん、と光る。
「聞きたいかね!聴いてくれるかね?あの林檎は開発するのに随分と手間隙が掛かったものなんだ。ルーラルの農家としては自慢の一品で、今でも更なる品質改良を手がけているんだよ」
「は、はぁ…」
「とりあえず先を急いでますから、また後ほどゆっくりとうかがわせていただきますわ」
ベイジルは涼しい笑顔で会釈し、呆けているメンバー全員を軽くどついて町長の家から退出した。その短い間にもジンジャーは『第52回ルーラル祭り・象と一緒にバトルロワイヤル(純情編)参加者募集』のチラシを見、内容を記憶していた。

 一行は川辺の宿へ行く前に果物屋へ立ち寄った。あのお茶の秘密を探るために『極北』を買いに来たのである。店員は500spです、と言っていた。
「普通の林檎にしては高いな」
値段を聞き、ハッカが苦笑する。その間にもミントとプネウマは店員からこの辺りの事を聞いていた。
「ええ、何もありません。平和そのものですよ」
「ふぅん。本当に?」
プネウマは胡散臭そうに問うものの、店員は笑顔でええ、と答える。動じていないようだ。とりあえずお茶を濁すように店の事を聞いてみる。と、店員は意味深に笑って見せた。
「このお店は林檎しかないわけじゃないんですよ」
「他にどんなのがあるの?」
ベイジルの問いに、店員は少し口を閉ざす。が、すぐに微笑んで
「…いえ。でも、ここはユニバーサル・フルーツの直営店なんですよ」
と答えた。この名前は冒険者たちも知っている。果物を好物とするミントはああ、と頷いた。
「それなら聞いたことがある!ってことは『極北』って結構有名なのね」
「ですね。そうそう、ここで取れた林檎はこの店を通して全国に送られます。一つ500spとちょっと高いんですけどね」
そこで苦笑しつつもリューンだと800spはするんじゃないか、と感想を漏らす。た
めしに食べてみるともの凄く美味しかった。
「よし、買って行こう」
カモミールは決断し、一個買ってみることにした。支払っている傍でジンジャーとプネウマは真横の張り紙に目を留める。
「…貴方の健康のために、一日五杯の『極北茶』(株)ユニバーサル・フルーツ…」
「極北茶…本気だな……恐ろしい」
二人はその張り紙を見、思わず眉を顰めた。

(続く)

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【後書き】と書いて【はんせいぶん】と読む

 まだまだ続きますが、とりあえず、このリプレイが終わったら別の話を書くのでよろしく。雰囲気的に『月○』っぽいシナリオとかあるからねぇ。
by jin-109-mineyuki | 2008-10-07 12:54 | 札世界図書館