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ある野良魔導士の書斎

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『むげファン参加者に30のお題』より 28:ばーか


その日は雨が降っていて。
約束は果たされなかった。
少年は、頬を膨らませて窓を見つめた。

『ばー

煩い雨の音に苛々した翼。
白く、細く、ふわふわとした翼がばたばたと動く。
…相当不機嫌らしい。
「ディート、いい加減機嫌を直しなさい」
母親がそういうも、少年はぷいっ、とそっぽを向いてソファに寝転ぶ。そして小さく呟くのだ。
「パパのばーかっ。約束してくれたのにっ…」
フワリンの縫い包みを抱きしめ、ふてくされた顔のまま蹲る。母親は困ったような顔で歩み寄り、少年の白い髪を撫でる。
「仕方ないでしょう?自警団のお仕事なんだから…」
「でも、約束だったんだよ!非番だから、一緒に遊ぼうって!」
飛び起き、縫い包みをソファに叩きつけて少年が叫ぶ。が、母親はだめよ、と嗜める。
「大雨の日は集落を回って安全を確かめなきゃいけないの。
ディートも知っているでしょう?」
「でも…」
その優しくも真剣な言葉に、少年もまた勢いを無くす。確かにそうだ。自警団は村の皆を護るために大雨の中安全点検をしているのだ。わがままを言ってはいけない。けれど、約束を守ってくれなかった父親に対して、どうしてもむかむかしてしまう。
「むぅ……」
暖かい部屋の中、少年は不機嫌なまま窓を見る。雨の所為だ。この大雨が降らなかったら父親と一緒に遊べたのだ。一緒にお昼寝して、一緒におやつを食べて…。
ばーか、ばーか、雨のばーかっ!!
少年は、空を睨みつける。恨めしい雨を、そんな風になった今日を。
(解ってる。パパやおじいちゃんは皆のためにがんばってるんだもの)
ぎゅっ、と縫い包みを抱きしめる。そして、力なくソファに寝転がった。
ばーか、ばーか……
そんな言葉が、胸の中に渦巻いた。

雨がやみ、雲が消え、空が晴れる。
待ちくたびれて眠る少年の頬を、やさしい春の風が撫でていく。
「ただいまー。用水路が詰まらなくてよかったよ」
そんな事を言いながら、黒い制服を着た父親が戻ってくる。母親はおかえりなさい、とタオルを持って出迎えた。
「…それにしても、ディートには悪いことをしちゃったな。
 とっても楽しみにしていたみたいだし…」
父親はタオルで髪を拭きながらそういい、すまなそうに息子の頭を撫でる。冷たい指がすり抜けた刹那、少年は寝返りを打って背を向ける。僅かに動いた小さな翼に、父親は思わず溜息をついた。
「相当機嫌が悪いみたいだな……」
「まだ子供なのよ」
くすくす笑いながら、母親は息子にかけたブランケットをただす。縫い包みを抱きしめて眠る小さなエンジェルは、ちょっとだけ悲しそうな顔で眠っていた。

(終)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今よりさらに幼い頃のディートがふてくされたときのお話です。
いや、もっとほのぼのさせたかったけれど力不足(汗)。
縫い包みを抱きしめて眠っているちっちゃい子はかわいいです。
まぁ、幼子の愛らしさと幼いが故のわがままさえ表現されていたら…。
因みに、この時外見年齢3歳、実年齢は5歳です。

使用お題
『むげファン参加者に30のお題』(すみません、製作者は誰ですか:汗)
by jin-109-mineyuki | 2008-02-07 11:43 | 無限銀雨図書館