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ある野良魔導士の書斎

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そういやぁ、何故タイトル・・・これにしたんだろう、俺(汗:バル、がんばってる)


『朔爛漫』【6】

 その夜は、新月で真っ暗だった。いつのまにか、新月の夜に逢瀬を重ねるようになっていた。今宵もその約束だった。
(さて……)
バルディッシュはいつものように待ち合わせの川原で佇んでいた。そして、懐から手紙を取り出し、カンテラで照らす。そこには短く
“聖闇教会 聖騎士団・第3小隊長及び第1中隊長に命じ、碧落の森勤務とする”
とだけ書かれている。つまりは、本拠地の都市を護るためにそこへ戻らなければならなくなっていた。これを切欠に、彼はキィフェに求婚しようと考えていたのだ。そうこうしていると、馬の蹄の音が、彼の耳に入ってきた。
(おかしい。いつも歩いてきているのに)
不思議に思い、バルディッシュはカンテラを掲げてその方向を見る。と、キィフェが愛馬に乗ってやってきた。彼女は馬を下りるなりバルディッシュのもとへ駆け出した。
「キィフェ!?」
「バルディッシュ…私…どうすればいいの?こんな選択だなんて…」
彼女はわあ、と泣き出し、バルディッシュは驚いたもののそっと、キィフェを抱きしめてそっと頭を撫でた。
「一体何があったんだ?」
問いかけるものの、キィフェは嗚咽を漏らしたままで何も答えない。しょうがなく思いながら彼はそっとキィフェを抱え、彼女の愛馬に跨る。そして、滞在しているエルフの村へと急いだ。誰かに聞かれたら拙い気がしたからだ。
(それに、これは……求婚どころじゃなくなるかもしれないからな)

 キィフェが我に帰ると、そこは川原ではなくバルディッシュの部屋だった。寝台に横たえられ、服が少しだけ緩めてある。ゆっくり起き上がると部屋の主が紅茶を注いでくれた。
「…ありがとう。あと、取り乱してごめんなさい」
「いや、相当嫌な事があったんだろう?おちついてからでいいよ。言いたくなかったら言わなくてもいいし」
バルディッシュはそういい、自分の紅茶に口をつける。良く見ると、彼もゆったりとした部屋着を纏っている。ふと、色々勘繰ってしまったがそれよりも先に言わなければならないことがあった。カンテラの光だけが広がる中、キィフェは紅茶をちょっとだけ飲んで口を開く。
「気遣い、ありがとう。でも……言うよ。これは君と私に関わる重大なことだし」
バルディッシュの表情が、少しだけ研ぎ澄まされる。それを確認しつつも、頭ではどう説明しようかと必死になっていた。けれど結局はそのまま出ていた。
「実は、見合い話が持ち上がっている。そして父はこんな事を言ったんだ。見合い相手と結婚するならば、引退して私に領主の座を譲る…とね」
「なっ……!?」
バルディッシュの赤い眼が見開かれ、感情の揺らぎが見えた。少し俯き、軽く唇を噛む。キィフェの夢を知っているから、酷く胸が痛む。
(予想はしていたが、そう来たか……)
溜息が漏れ、しばらくの間二人とも何も言わなかった。闇夜を焦がすカンテラの光に照らされ、湯気が踊る。その中漏れ出るのは、溜息ばかりだった。が、バルディッシュは顔を上げる。
「俺も、お前に言わなくちゃならんことがある。聖闇教会の聖騎士団本部から手紙が来てな。本部勤務になったんだ」
「えっ!? じゃあ…昇進したんじゃない!おめでとう!!」
これにはキィフェも嬉しくなる。が、バルディッシュは苦笑した。
「んー、本部勤務ったって本拠地の警備が主だぜ?それに…ここから離れることになる」
「あっ……」
キィフェはしゅん、となるものの……バルディッシュは毅然とした表情で彼女と目を合わせる。
「だから、俺と行かないか?碧落の森へ」
「でも…私には…皆が…」
確かに、バルディッシュの言葉は嬉しい。すぐにでも頷き、この場所から…いや、父親の手から逃れたい。愛する人と共に暮らしたい。しかし、それだと夢を捨てることになる。この土地を再び昔のように、人間もエルフも楽しく暮らせる場所にする、という夢を。
「俺は、おまえじゃないと駄目なんだ。だけど、お前にも夢があるんだよな。困ったな……。俺はどっちも選べないんだ」
「そ、そんな…」
バルディッシュの表情は、悪戯を思いついた子供のような顔だった。それにキィフェは少し呆れてしまう。が、その時、彼は決断していた。
「お前と一緒になれるなら、まず俺が幸せになれる。あと…これを切欠に、この村を元に戻せるかもしれない…」
「何か策でもあるの?」
「皆に協力してもらうのさ…俺たちの駆け落ちを」
その言葉に、キィフェの目が丸くなった。
「な、何言ってるのよ!」
「そして、俺たちの脱走を合図に……作戦を始めるのさ」
バルディッシュは任せておけ、というとキィフェをそっ、と抱き上げる。
「バルディッシュ……本気なの?」
「ああ。本気さ。俺と、お前と…この地に暮らすみんなの幸せの為に…」
頬が赤くなるキィフェにくすくす笑いつつも、バルディッシュは寝台に腰掛けて愛する人を膝に乗せる。そのままぎゅっ、と抱きしめる。
「そのために、がんばらせてくれよ…キィフェ」
不意に、カンテラの炎が消える。その刹那、影が重なって崩れた。

(続く)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
えー、ラスト。「その刹那、影が重なって崩れた」ってどうなったかわかる人には解りますよね。いや、そういうシーンがストレートすぎる、と友人に言われ…むしろそういうシーンが多いといわれ(過去に主催したPBMにて)、うーん、と頭をひねった挙句友人から提示された例をそのままだったりする(をい)。
次回、遂にラスト。うわぉ。無計画!!
いや、バルディッシュの旦那がいかに暴走したかが丸解りのよーな。
by jin-109-mineyuki | 2008-01-25 21:55 | 札世界図書館