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ある野良魔導士の書斎

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第四話:惹かれ合う力、交じり合う思惑(1)


 漸く東の空が白くなり始めた頃、エルデルグたちは漸く海辺の町へたどり着いた。小さいが活気のある港町、ヒス・レシェレは今日も穏やかで、多くの船と人で賑わっている。沖合いではまだ何艘かの船が漁を行っていた。
「いい景色だ。…そうだな、ちょっとメシでも喰うかな~。朝市に隣接する定食屋の朝飯は美味いんだぜ?」
「…その前に、俺は人を探さなくちゃいけないんだ」
ハィロゥの提案に、エルデルグは首を振る。しかし、ウタカタ族の青年はバンッ、と力強く肩を叩き、ヒトの青年は思いっきり前へつんのめる。
「だったら尚更飯が必要だ。体力、もたへんぜ?」
ハィロゥが問答無用、というような笑顔を向け、むんずと彼の首根っこを掴む。そのまま引きずって食堂へと彼を引き込むさまは、何かが違うような気がした。
「だからって、そこを、掴むな!」
エルデルグは身を捩って手を外すし、一つ、荒く息を吐いた。

 食堂に入ると多くの人が食事を取っていた。競が始まる前に軽く食事を取ろう、という人々だろう。その証拠に首には薄緑色の金属タグが下がっている。
「あのタグが無いと競には参加できないのか?」
エルデルグはそれらを見てふと疑問を持ち、ハィロゥは頷く。
「まーな。所によっては帽子につけてるところもある。…あー、これこれ。朝食250ギロンでいいよな」
ハィロゥは解説しつつもメニューを見せ、エルデルグは頷く。そして二人はカウンターに空いている席を見つけ、座ることにした。
「あ…」
ふと、ハィロゥの表情が曇る。
「どうしたんだ。変な顔をしてさ」
「いや、今まで西北の都市に居たから…イェンしかもっていないんだ。だからギロン硬貨…持っていないんだ」
ギロンは中央から南の都市で使用されている通貨単位だ。イェンは中央から北の都市で使われている。因みに1ギロンが1イェンなので料金的には問題が無いのだが、ギロン硬貨は黄水晶で出来た円形チップ、イェン硬貨は円形の金属製であった。ヒス・レシェレは南地方なので金属の硬貨は扱っていない。
「…あの街ではどっちでも大丈夫だから、両替を忘れていたんよ。どないしよ~」
がっくりと項垂れるハィロウだが。エルデルグは肩をすくめた。彼はちゃんとガロン硬貨も持っていたのだ。それをハィロゥの目の前に突き出す。そしてにぃ、と笑う。
「おお、こ、これはギロン硬貨!…という事は…奢ってくれるのか!」
「いーや、貸すんだ。あとで返してもらう」
エルデルグはそういうと店主に朝食二人前を注文し、改めて席に着いた。美味しそうな匂いが辺りに漂っている。新鮮な海産物を使った料理が自慢なので、その匂いが主だ。それにエルデルグの顔が綻び、ルポライター『フォルディア・ファラウェイ』としての顔がにじみ出ていく。その事を彼は実感しながら料理を作る人々を眺めていた。
「あ…」
そんな彼が客のほうを見た時、違和感を覚えた。何故だろう、ここにいること自体がおかしいような、けれど合っているような、そんな不安定な気配を覚えたのだ。その存在は黒髪のエルフで、どこか知り合いに似ているような気がした。そして、どこかで会っているような気も。
「どうした、エルデルグ?」
ハィロゥの言葉で、我に帰る。彼のほうを見ると、お茶を注いでくれた。ここの場合、お茶はセルフサービスらしい。長閑な匂いが鼻を掠めた。
「いや、なんもないよ。ちょっと…」
お茶を受け取りつつエルデルグは答えるが、やっぱり気になる。どこかであっているような気がする。それがちょっと引っかかってしょうがない。
「なら、メシにしよう」
ハィロゥはそういい、運ばれてきた朝食をエルデルグに渡す。
(まぁ、いいか)
彼も気にしないことにして、とりあえずは食事に専念することにした。

 一方、黒髪のエルフは一人辺りを見渡した。
(のんきに食事を取るのも、たまにはいいものだな)
彼はそう思いつつも眼を閉ざす。そして脳裏に浮かぶ様々な魔力の波長を探り、求める存在のそれを探した。
(竜の関係者は信者を除き皆無か。当てか外れたと見える)
食事を終えたらすぐに出て行こう、と思った。
(ユエフィの気配を覚えたから後を辿ったが、どこへ消えたのだ。無事に、候補者を捕らえていると良いのだが)
彼は使者が今どんな状態になっているかも知らず、少し考え込んだ。
by jin-109-mineyuki | 2006-11-04 23:25 | 小説:竜の娘(仮)