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ある野良魔導士の書斎

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第四夜:蒼海の水編


-蒼海の

紺碧の流動を模りし、激流の竜の騎士。
その鎧受け継ぎしは、二種の血が結した命。
踏み出した道は長く険しくも、足を止めることは無い。

 遠い、遠い歌が聞こえた。自分が幼かった頃に聞いた歌だった。そのメロディは儚くも暖かく、優しい物だった。けれど、誰が歌っていたかは思い出せなかった。だから少年は、思い出すためにそれを歌っていた。
「プラチナ」
名を呼ばれ、少年は顔を上げる。養母が彼を手招きしていた。なんだろう、と思い駆け寄る。と、養母は優しい顔で彼を出迎え、抱きしめた。

 赤い目が、開かれる。旅姿の少年は身を起こし、立ち上がった。大きな鎌を持った、十歳ぐらいの少年だ。名をプラチナといい、そこいらでは有名な傭兵であった。
(最近、不穏な空気が漂っているなぁ)
と、言うのも異常現象の所為である。彼方此方で起こっているために、人々は困り果てていた。そんな人たちの為に自称『正義の天使』を名乗る少年は戦っている。
「おいらには、おいらの正義がある。よぉし、今日も頑張るぞ!」
包帯の巻かれた左腕に右手を置き、にっ、と太陽に向かって笑う。これが、何時もの始まり。彼は一度体を伸ばすと大鎌を持って歩き始めた。口ずさむのは、幼い頃に聞いた歌。お気に入りの歌だ。1人で旅をする時、時々歌っている。
(メル母さんも、歌ってくれた、大切な歌だ。おいらの見えない宝物だよ)
こうしていると、勇気が沸いてくるようだった。口ずさむだけで、元気になれる。だから今日も歌っていた。

 プラチナは幼い頃に放火で両親を亡くしている。その時、左腕が焼け爛れたが故に包帯を巻いて隠している。何故、両親が殺されたのか。それは悲しい事に、父親が有翼人であったが為だった。そう、この少年は人間と有翼人の混血だ。両親の友達であったメルという女性が、プラチナを育ててくれた。彼女は息子がドナウから発つ際、一通の手紙を託した。渡す相手はダートとシェーナという夫婦で、母の古い友人らしい。母はこの手紙を渡したとき、真剣な目で息子にこう言った。
「頼んだよ、プラチナ。これは本当に大切な手紙だからね」
中身を見るわけには行かない。けれど、母親の表情からその内容がとても重要な事というのは解かった。だから早く届けたかった。それなのに、街道には沢山の魔物がいる。異常気象も起っていて、何がなんだか解からない。異常を母も感じていた。
「解かってる。早く届けるよ」
彼の口から、頷きが零れる。母からの手紙を、早くセレスにいる夫婦の元へ行きたかった。

 ドナウからセレスまでの間に、関所がある。そこを通って一路ベールへ向かう。母が一度ベールという街に行ってみるといい、と言われていたのだ。
「母さんの友達が、ここにもいるって聞いているんだけれど…」
そう、呟いていたとき…。嫌な予感がした。ベール方面をみると、大きな魔物に襲われている。三人とも自分の得物で戦っているようだが、どうやら苦戦しているらしい。
「おっ、困ったヒト発見!…どうやら、手ごわそうだね」
そう呟くと、プラチナは懐から宝珠を取り出した。母親から譲り受けた、青い宝珠。そして、これには秘密があった。
「力を貸してください、母さん」
彼が宝珠に囁く。と、次の瞬間には青い光が彼を包む。水がざわめき、彼を抱きしめ、弾ける。と、そこには美しい鎧を纏ったプラチナの姿があった。彼は背中に生えた美しくも逞しい翼を広げ、そこへと躍り出た。
「えっ、な、何なの!?」
赤いリボンを額にまいた女の子が、大鎌を持った少年を見上げる。一緒にいた男の子二人も、驚いたようだ。
「蒼海竜のドラグーンにして正義の天使、プラチナ参上!」

 この後、彼は助けた相手も色違いの宝珠を持っている事を知る。そして、それを意味する事を知った時、すんなりと全てを受け入れた。仲間たちよりも早く覚醒したプラチナ。彼は仲間に微笑む。
「…魔眼がおいらたちを導いているんだ。母さんたちの時のように」

(完)

お題:いまだにレジェドラが好きだという、小粋な人へ捧ぐお題
   出題者は三角 勇気さま。HP『碧緑翠』にお題はあります。
著:天空 仁(フーレイ)

 …なんだか、ダートと同じような事を言っているなぁ、プラチナ。しかもロゼ姐さんの如くドラグーン化して主人公一行を助けるとは。最初はそんな設定にするつもりはなかったのですが、何気なくこうなってしまいました。既に一度ドラグーンとなっているレニとディオなんですが、自分の意志では在りません。ちゃんとこの後にハルモニア共々本格的な覚醒の時を迎えますんで…。

※第一夜を除き金曜日に更新しておりますね。…今回は土曜日に泊りがけでボランティアへ行く為に更新が出来ないので一日早めに…。
by jin-109-mineyuki | 2006-03-03 16:33 | 閑人閑話図書館