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ある野良魔導士の書斎

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『むげファン参加者に30のお題』より17:指先から


―血に混じる熱は全てを火照らせ、思考を鈍らせる

そんな事を思いながらギーエルは愛する人の髪を撫でた。先ほど塗った軟膏の匂いが鼻孔を擽り、それに表情を曇らせながら。
(全く……)
ため息をつきながら、もう一度髪を撫でる。そして頬を撫で、上唇を人差し指で擽る。無邪気な頬笑みを浮かべる彼に、ギーエルの眼も優しくなった。

先から」

 先日、最後の戦いが終わった。傷ついた体のまま祈り続け、冒険者たちはこの地上に戻る事が出来た。が、弟のように可愛がっていた友達は帰ってこなかった。愛らしい声の友達も散った。多くの仲間が命を捧げ、今はただ眠っている。
(命を託されたのかな)
ふと、そう思う。生きた者たちに、全てが託された。そう思ったのは終戦直後の事だった。

 ギーエルは多くの遺体の瞳を閉ざして回っていた。インフィニティマインドに魂の力を捧げ、散った者達の幾人かは、眼を見開いていたからだ。いつも明るいノリで過ごしている彼女ではあったが、流石にこの時ばかりは真面目な顔だった。瞳を閉ざし、化粧を施し、手を組ませる。黙々とそういう作業をしていくうちに、表情が穏やかになって行くのを、「彼」は見逃さなかった。
―優しいんだな。
彼はそう言った。
―ううん。違うなぁ~んよ。
ギーエルは「彼」にそう言った。静寂が広がり、2人はしばし見つめ合う。その刹那、どこか彼女の眼に宿るものを覚え、「彼」の表情が引き締まった。
―彼らの指が言うなぁ~んよ。≪たのむ≫って……。
唇から零れる言霊。ギーエルはそう答えるとまた作業に戻った。「彼」は遺体と静かな会話をするギーエルを黙って見つめ、胸元を掴んだ。その苦しそうな顔を見ないようにし、ギーエルは作業を進めていった。やがて、「彼」はその場を去った。

―おつかれ。
―待たせてごめんなぁ~ん。あ、あの子と一緒だったなぁ~んか。
ギーエルが戻ってきた頃、既に夜も更けていた。「彼」は手に包みを持って現れ、ギーエルは小さく笑う。どっちかと言えば「あの子」の方を選ぶ事を、ギーエルは知っている。が、年上故にそれを許し、かつ、あきらめはしない。決して「彼」を放さない、と心に決めている。
―いや、その…。
―別にいいなぁ~んよ? 俺は諦めないけどなぁ~ん。
どう答えようか迷う「彼」に、ギーエルは苦笑する。そして、そっと一歩踏み出すとやや強引に「彼」の唇を奪う。
―ぎ、ギーエル!
―ふふ、言っただろ、なぁ~ん。
ギーエルはそういうと両手で「彼」の頬を包み、ゆっくりと微笑んだ。

 滑らかな指が、逞しい肩をなぞる。細かい傷を覚えながらそっと、唇を寄せる。鼓動が跳ね、熱は血に混じって全てにめぐり、末端の指までも火照らせる。
「――」
ギーエルは愛しい人の名を紡ぎ、顎のラインをなぞる。優しい目でその寝顔を見つめ、前髪を払う。
(俺の指先は、いつでも貴方を癒すから。言葉なき愛の囁きも、ちゃんと聞いてほしいなぁ~ん)
―指先は踊る。愛しい貴方を喜ばせる為に。

(終わり)

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使用お題
『むげファン参加者に30のお題』(すみません、製作者は誰ですか:汗)

後書き
どもー。フーレイです。現在星の海へと行ってるギーエルの話です。
えーっと、「彼」や「あの子」については過去のSSなど参照。特に「彼」についてはステータスみれば一発で分かります。思いついたがままに書いたけどゆるしてーね。

ちなみに。俺としてはいっそ一生トライアングラーで子孫繁栄すればまず少子化対策になると思うんだよね。
by jin-109-mineyuki | 2009-10-17 18:57 | 無限銀雨図書館