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ある野良魔導士の書斎

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本気バトルは難しい (咲乱、修羅色の舞)


―ヒュンッ!
研ぎ澄まされた一撃が、咲乱の前髪を散らす。風が裂かれ、その一遍が頬を掠めて血が滲む。同時に酷く冷たい力の存在を感じ、背筋に鳥肌が立つ。必死に避け続けていたらいつのまにか来た道を戻っている。
(魔力が濃い。……でも、これは亜夜羽のじゃない。じゃあ、一体……)
何度も閃く銀色を、ただ只管かわしながら咲乱は亜夜羽を観察する。と、彼女の手には一本の刀が握られていた。一見普通の刀だ。でも、咲乱には、それが普通のものではないことが、直ぐにわかったのだった。

シルバーレイン プライベートテイル
『17.4』 第五閃

「ちっ、そういうことかよ!」
咲乱は一撃一撃を的確に避けながら亜夜羽の様子を伺っていた。彼の記憶が正しければ、亜夜羽の手に収まっているのは妖刀だったはずだ。幼い頃父親が傷だらけになりながら成敗し、大人しくなるまで封印を施したのを覚えている。
(何者かが蔵の扉を開け、態と封印を弱めた。そして、妖刀は亜夜羽を何らかの方法で誘い出し、封印を解かせた)
また、銀の光が体を襲う。思わず懐から扇子を取り出し、それを庇う。鉄の骨を持つ扇はいやな音を立てて攻撃を殺ぎ、ぐっ、と刀と噛み合った。
「うふふ、さっちゃん……たたかうの、にがてだもんねぇ?」
亜夜羽が笑う。彼女の言うとおり、咲乱は戦闘が得意ではない。一応体術の心得はあるが、幼少の頃より鍛えている亜夜羽の足元にも及ばない。
「そんなことで、とうしゅなんてつとまんないよ?」
踊るようにすべる刀。幼稚な笑い声と相容れない、純粋な漆黒の殺気。銀の閃きは的確に咲乱の急所をとらえる。反応が遅かったら確実に赤い花が咲いていた。それと鉄扇のお陰でどうにか傷は浅かったり少なかったりするが、防ぎきれない分はやはり吸い込まれて傷になる。普通の人間には聞こえないが、確かに、殺気や魔力が犇めき合っては耳障りな音を放っていた。
(あいつにも、この嫌な音は聞こえている筈だ。正気ならば)
足のうらに確かな砂利の感触を覚え、肌に焼けるほどの悪意を覚え、それでも尚咲乱はにやり、と笑う。頭の中がすっきりしていくような感触を覚え、彼は瞳を細める。一瞬、それに亜夜羽が動きを止めた。
「しかし、俺より出来のいいお前が…そんなもんに精神を乗っ取られるなんざ…様ぁねぇぜ」
咲乱がぽそっ、と呟く。と、一拍の静けさ。
「……そんなもん?」
亜夜羽がきょとんとする。が、咲乱は全身の毛穴が音もなく開いていくのを感じた。
―さらに澄んでいく、殺気。
「そんなもの…じゃ…ないっ!!」
ばっ、と紅が散った。タイミングがずれたら確実に死んでいた。けれど咲乱は運良く浅く胸を切られただけで済んだ。出血量にしては傷が浅い。それも咲乱は感じていた。
「馬鹿野郎!俺より魔力が強くて精神力もあるはずのお前が何妖刀なんかに乗っ取られてやがるんだよっ!」
全身の体温が、掌に集まる。能力者として覚醒してから覚えた力が黄昏の薄闇に紅蓮の花びらを散らす。
―炎の魔弾。
それを目くらましにすると距離をとり、さらに集中する。魔力を整えて能力者の力ではなく本来持っている魔法を使うために。…が、それは途切れた。
「っ!」
背後に魔力を覚え、思わず左へと転がる。同時に茨の蔓が鋭い棘を生やして襲いかかってきた。水繰家の血を引く人間は、生まれながらにして植物の性(さが。本性)を持つ。水繰家の血をひくものは例外もなく己の魔力を植物の姿へと具現化させ、使役することができる。咲乱の記憶が正しければ、彼女の本性は茨で、その能力は……
(相手のプライドを打ち砕く!)
思い出したとたん、咲乱の体が硬直した。もう一度炎の魔弾を放とうとしたが、体温の移動は起こらない。鋭い痛みが左腕に絡みついている。身を起こすことはできたが、僅かに眩暈が起こった。どうやら、よけた際に棘が腕を掠めたらしい。
(くそっ、魔力が……)
焦った。亜夜羽の魔力が、咲乱の神経を通り、興奮させる。体が動かない。なぜだろう、その場には二人しかいない筈なのに、幾つもの視線を体全体に覚えた。
(これは幻覚だ。まやかしだ!)
そう言い聞かせ、動こうとしたとき、体から力が抜けていくのを感じた。砂利の感触が袴を通して膝に伝わる。

―『種』は『種』らしく大人しくしていればよいものを

不意に、そんな言葉が聞こえた。聞き覚えのある言葉に、形の良い耳が動いた。

―そうそう。幸い、容姿はほどほど良い。上質の『種』として嫁ぐ準備をすればいいのに
―『種』のくせに当主になろうとは、おこがましいんだよ


(!? だから、これは……幻聴だ…っ)
咲乱がぐっ、と歯をくいしばっても、そのねっとりとした言葉は拭えない。いつの間にか、鼓動が激しくなっている事に気づいた。
「……違う……」
強く息を吐き、もう一度立ち上がろうとする。が、なにかに押しつぶされたように砂利へと倒れこむ。息がつまり、目を白黒させている間もその声は止まらなかった。

―ただの『種』め、くたばっちまえよ
―『種』の役目だけを果たせばいいというのに…
―『種』のくせに


(だから……違うっ、これは幻聴だ!亜夜羽の魔力の所為だっ!)
何度も何度も首を横にふる。声を無視しようと。それなのに何故、聞こえるんだろう?それでも起き上がろうと、咲乱は身をじたばたさせた。どうにか、動くようになると深呼吸。
(亜夜羽を、正気にもどさねぇと……っ)
そして、ぐっ、と起き上ったとき……確かな冷たさを覚えた。
「たねのくせに、あらがっちゃって……」
「……えっ?!」
咲乱の目が、見開かれる。浅かった筈の刀傷が、より深くなっている。目の前の亜夜羽は、あからさまな、されど、王者を思わせる嘲笑で従兄弟を見ていた。

―意識が、に、染まる。

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久方ぶりにこのシリーズを更新。 まぁ、いろいろあってね。
とりあえずこの話はちゃんと書きあげます。

縁先輩、またストーリーに登場させてくださいね。
考えているネタがあるんで。
by jin-109-mineyuki | 2009-07-24 16:35 | 無限銀雨図書館