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ある野良魔導士の書斎

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即興で (ユズハとリーガルト、親戚だったりします)


―天界

 人間の住む世界の上空にあり、天使たちが神々の手伝いをしつつ過ごす場所。
 故に下界とは違う、独特な静けさと厳かな雰囲気が漂っていた。

 その一角を、1人の天使が歩いていた。やや窶れてはいるもののその横顔は美しく、天界であっても誰もが振り返る。しかし、その日…彼を見た天使たちは同情の目を向けていた。
(誤解は解けましたが、厄介なことになりましたね)
彼は手にした紙を広げ、その文章にため息を突いた。そこには「ほとぼりが冷めるまで下界で修行せよ」とのお達しが書かれていた。

 リーガルトは元々聖北があがめる神に仕える天使で、助言や厳罰を神官に届けるメッセンジャー的な仕事についていた。彼は幼い頃に親をなくしていた為、祖父母の家で厳しく育てられ、その甲斐あってか礼儀正しい青年へと成長した。仕事も祖父の下で鍛え上げられ、若手の中では一番の仕事振りであった。
 しかし、幼馴染であった夫人と仲良くしていたのを不倫とかんぐられ、何者かに告げ口されたが故に騒動となり、審問官に呼ばれることになった。リーガルトとその夫人との間には友好しかなく、誤解は解くことができたのだが、元々リーガルトをよく思わない者達が彼の追放を求めたのである。審問官たちは話し合い、結局彼を少しの間下界へ行かせることにした。

 天使たちにとって、仕事でもなく修行でもなくただ「下界へ行く」というのはあまりいいものではない。追放されるということは翼を失い、力を失うことである。それがないとしても、下界は猥雑で、どうも好きではない。そう思う天使たちがたくさんいた。リーガルトはどちらかといえば下界へ仕事へ行くことを好んでいたくちだが、この結果には聊か不満だった。

「リー兄さん!」
不意に、リーガルトは足を止めた。急に名前を呼ばれ、不思議に思って振り返ると、ユズハがいた。リーガルトの親戚で、幼い頃から一緒に過ごしている。家も向かいにあり、二人はとても仲がよかった。
「なんだ、ユズハではありませんか。どうしたのです?」
「いや、その…リー兄さん、下界勤務になったのですか?」
ユズハの問いに、リーガルトは首を横に振る。
「勤務ではありません。ただ、下界ですごしなさいと。それだけです。
 天使としての仕事はできませんよ」
「……仕事だったらよかったのに、ね」
ユズハの言葉に、リーガルトは苦笑する。が、彼は小さく微笑んだ。
「でも、仕事ができなくても修行はできます。
 私は、人間界で冒険者になってみるつもりです」
彼はそういい、手紙をぎゅっ、と握り締める。修行だったら別にいつやったってかまわない。それにしてはいけない、というルールもないわけだ。ユズハは小さくため息を吐く。
「最近、人間界へ修行へいく天使って減っているんですよね。
 罪深い世界だからって…」
「そういう考えが傲慢だということに、きづいていないのでしょうね。
 人間たちの生き方が、私たちの力を高めるかもしれないのに」
そういいながら歩き出す。リーガルトは今夜にでも下界へ行くつもりでいた。こんなまどろんでいるような場所から離れ、刺激の強い人間界での修行をしたかった。ユズハもまた、彼に合わせて歩き出す。
「私も行きます」
リーガルトはその言葉を聞き、小さく首を振る。
「魔術のためにですか?」
「ええ」
答える彼女に、リーガルトの表情が僅かに曇り…それでも歩き続ける。
「行くとしたら、少し間をあけなさい。変な噂が立たないように」
リーガルトはそういうと、小さくウインクした。

 その夜、リーガルトは夜闇にまぎれて人間界へ降り立った。そしてその足で冒険者の宿へ駆け込み、そのまま冒険者になった。その時一羽の鳥と1人の小柄な少女と出会うのだが、それはまた別の話。そして、ユズハも直ぐに下界へ降り、そこで1人の青年を助けるのだがそれもまた別の話。

(終わり)

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【スズキ組】のリーガルトと【ドルチェーズ】のユズハの話。
二人は親戚同士で、幼馴染。
……ま、こんなかんじ。
by jin-109-mineyuki | 2008-12-15 23:57 | 札世界図書館