ある野良魔導士の書斎

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カテゴリ:無限銀雨図書館( 36 )

プライベートテイル:黄昏の役(後編)


 ドラゴン特務部隊が命を懸けて持ってきた命の石。
 そして、もたらされた……あらたなる力。

 『ニルギン……』
 ふと、声がした。優しい、聞き覚えのあるテノールだ。それにニルギンはおもわずきょとん、となった。
「お父さん……ですか?」
小さく問いかける。戦いの最中なのに、なぜ父親の声が聞こえるのだろう。ああ、そうか。自分はドラゴンとの戦いに敗れ、今から死ぬんだな。そう思い、僅かに眼を開く。閉ざしていたから、まぶしくて仕方が無かったが、慣れてくると、目の前に死んだはずの父親が目の前にたたずんでいた。
『そうだよ、ニルギン。顔を上げてごらん』
エルフの老人、ジークは優しく微笑み、ニルギンに手を伸ばす。変わらない優しい笑顔で、歌うように言葉を続ける。
『君はまだ生きるんだ。この力で、ドラゴンたちから同盟の仲間を…生きる者たちを守っていくんだ』
ニルギンは、眼を見開く。そして、自分の中で、何かが外れる音がした。体から不意に『ユラヴィカ』の気配が消える。いや、光の粒子となって彼の体へと溶け込んでいく。
「これが、お父さんが言っていた『新しい力』……」
身長と手足が若干伸び、青い髪はさらに深い青…コバルトブルーへ変色する。そして耳がエルフのように長くなり、両の頬骨上には竜の翼のような青い石。外したはずの縁なし丸眼鏡も現れる。槍は溶け込み、両の手を覆う青いガントレットへと変化した。衣服も拘束衣のような黒いロングコートと黒いアーミーパンツだ。よくみると、左目だけが白銀へと変色している。
「ああ……」
体に力が満ちていく。そして、それは……共に戦う仲間たちにも現れていた。
「いけますっ!これならば……っ!!」
ニルギンは顔を上げる。そして、もう一度ドラゴンを見据え…突撃。高々と舞い上がるとドラゴンの真上で叫ぶ。
「これが、俺の存在証明だ!」

 ギーエルの眼が、うっすらと開かれる。さっきまでぼろぼろだったからだが、少しはましになったらしい。錫杖を支えに立ち上がる。と、まだやれる気がした。いや、体に力がみなぎり、しっかりと大地にたつことが出来る。
「パパ、ママ……ごめんなぁ~ん。弱気になってたなぁ~ん」
身構える。そして、思いっきり息を吸った。そのとき、何故かふわんっ、と光の粒子があたりを漂う。
「!!?」
きょとん、としている間に、それはギーエルの肢体へと溶け込み、全身が一瞬だけかあっ、と熱くなる。一度目を閉ざしたが、瞳を開けると……メイド帽から毀れた髪はいつの間にか鮮やかな紅に、左目は麗しい蒼に、衣服は普段よりも華やかで色香が漂うデザインのメイド服へと代わっていた。錫杖ではなく、なぜかモップを構え、彼女はそれを一振りする。
―ヒーリングウェーブ奥義、開放。
全身の骨が呻いた。けれど、それすらも新たな力への喝采に聞こえる。力が、魂の奥からみなぎっていく。これならば、まだやれる。自分は生き抜ける。だから、彼女は三度顔を上げる。風がメイド服のスカートを揺らし、スリットから滑らかな白い脚がすこし見える。艶やかな唇が不敵に微笑み、普段以上の色気があった。ギーエルは気づいていないが、思わず見入る男性冒険者もいたぐらいだ。ノソリンの尻尾を一振りし、彼女はきっ、とドラゴンを睨みつける。
「さあ、いくなぁ~んっ!」
遠くを見ると、幾人もの仲間たちがドラゴンへ猛攻をかける。その中にはあの眼鏡を掛けたセイレーンの姿もあった。彼の十八番である斬鉄蹴をぶちかますその姿に、思わず笑みがこぼれ、俄然、やる気が出る。そして、別のところには風に煽られつつも大地を踏む少年の姿も。
「あいつらには、負けてられないなぁ~んっ!」
もう一度笑顔で仲間に会うために、ギーエルはモップを振るった。

 体が、風に煽られる。ぼんやりとした眼が、沈みかけた夕日に鈍く光る。ドラゴンの咆哮で高く舞い、地面へ降り立ったときには、鋭い眼光をたたえていた。アビリティは使い果たし、満身創痍の状態だ。けれど、手にしたランスはまだ、力強く握ることができた。
「あはは、まだやれるみたいだ……」
ふと、顔を上げる。と、不意に体がびくんっ、と痙攣した。あわせるように、光の粒子か舞い上がる。くるくるとまわって、少年へと向かっていく。
「!」
光が胸にに突き刺さったその刹那、身長が伸び、髪がざわめいて優雅な金色へと変色する。麗しい、空を覆うような、黄昏の色に。そして左目だけが夜闇よりも深い黒へ変色する。体がむずむずし、なんだか物凄く力がみなぎっていく。
「はぁ……っ」
その大きさに思わず溜息が漏れ、同時に純白の翼が背中からもう一対生える。衣服は純白の、詰襟コートとロングパンツへと代わり、手にしたランスは一瞬にして無色透明な水晶の刃を持つクレイモア(大型の両手剣)へと姿を変える。そして、少年いや、青年は一つの事を核心し、顔を上げる。その瞳にドラゴンをしっかりと捕らえて。
「まだまだっ!」
走り出す。そして、クレイモアをランスと同じように構えてそのまま突撃する。
「いっけぇええええっ!」
深々と突き刺し、刃がドラゴンの肉を鱗ごと押しつぶす。はじかれても、踊るように戦い続ける。
それが、ディート・マシロイの戦い方。
「だああああっ!」
叫び、突き刺し、叫び、突き刺す。跳ね飛ばされても、止めないのは、未来のために。
手にした武器を握り締め、未来を掴み取るために。
たとえその体に、幾度と無く傷を刻まれたとしても!
「これで、どうだぁあっ!」
真横に薙いだクレイモアが、ドラゴンの喉仏を捕らえる。ディートは、歯を食いしばって全身の力を振り絞った。

「私には、愛しい人たちがいる。だから、戦う!!」
ニルギンが叫び、瞬く足を振り上げる。

「俺の選択は、これだなぁ~んっ!!」
ギーエルが叫び、夕闇の空に飛び上がる。

「僕はまだ、遊び足りないんだよっ!!」
ディートが叫び、クレイモアを三度突き刺す。

全ての冒険者たちが、ドラゴンへと立ち向かっていく。
その姿に、新たな力を宿して………。


 気が付いたとき、悠々と存在していたドラゴン12体は、地面に崩れていた。
 冒険者たちは、ドラゴンに勝利した。
 しかし、ドラゴンはまだほかにもいる。同盟へと向かってきている。
 こうして、新たなる時代……ドラゴン戦争を迎えた。

 ―冒険者たちの勝鬨が、黄昏の空に響く。

 その黄昏は誰が黄昏か。冒険者か、はたまたドラゴンか…。

 それは今の彼らには、わからないことだった。


 2日後。
「うーん、なんかまだしっくりこないなぁ」
そう言ったのは、ディート。白い髪をなびかせ、少々熱っぽい顔のまま町を歩く。その影からは時々つぶらな瞳とかが出たりしている。
「そうなぁ~ん。ちょっとだけふらふらなぁ~ん」
こちらはギーエル。黒いノソリン耳をパタパタ動かしつつベンチに腰掛ける。傍らには愛らしい少女がふわふわと付いてくる。
「どうしても、慣れるまで大変ですからね」
眼鏡を正しつつ、ニルギンがいう。彼は先日の戦いの前に召還獣をつけていたので、大分慣れているらしい。傍らには狼が寝そべっている。

ディートは防御力を高める『ダークネスクローク』
名前はモノローグ。

ギーエルは心攻撃を高める『ミレナリィドール』
名前はエルスティン。

ニルギンは攻撃力を高める『キルドレットブルー』
名前はユラヴィカ。

三人はそれぞれの相棒と共に瓦礫と化した街を見る。今も、多くの人たちが復興作業を始めていた。人間はたくましいなぁ、と思いつつ、三人とも瞳を細める。
「がんばりましょうね」
ニルギンの言葉に、ギーエルとディートは頷きあった。

(とりあえず、終わり。けれど、時折修正はいります)

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by jin-109-mineyuki | 2007-08-19 16:26 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)

プライベートテイル:黄昏の役(中編)


-7月 30日:決戦。

風が鋭く走り、空気は激しく震える。
しかし、それは恐怖からだけではない。
むしろ……戦う覚悟、熱意で震えているのだろう。

「始まる…」
ニルギンは走り出す。手にした槍は戦いの前に友達から貰ったものだ。眼鏡はすでに外されている。ぼやけた視界のなか、確かにドラゴンの体ははっきりと見えた。呼吸を整え、勢いのままに斬鉄蹴をぶちかますものの、効果は無に等しい。舌打ち一つ、攻撃をかわし、今度は牽制に回る。少しでも隙をつくり、攻撃しやすくするのだ。
(くぅっ、しぶとい…)
次々と襲い掛かるドラゴンの猛攻に耐えつつも、隙を探す。この作戦では斬鉄蹴に全てをかけるつもりだ。冒険者となり、磨きをかけてきたこの技に…。
「はぁあああああっ!」
掛け声と共に閃く足。眩い光を放ち、ドラゴンの首根っこに吸い込まれるも、相手には何も意味を持たない。爪が来る前に法則のままに落ち、受身を取った。
(足りない。まだ…)
眼の鋭さはそのままに、彼は再びドラゴンへと向かっていく。

 夕暮れを掻き毟るドラゴンの咆哮。それに負けじと響き渡るアルト。勇ましい旋律は気流にのって戦場を舞い、聞こえた冒険者たちの士気を高める。
(いける、なぁ~んっ!)
ギーエルは両手でしっかり握った錫杖を振りかざし、ヒーリングウェーブ奥義を放つ。邪竜導士としての力を使わず、この戦いでは武器に宿ったこの力を使っていた。一人でも治癒を施すものが多い方がいいに決まっている。
―ドラゴンを睨む。
巨大な影が、12体も地面に降りている。彼らはここに生きるものたちなど、玩具の様にしか思っていないのだろう。しかし、冒険者たちは立て続けに突っ込んできた2体のドラゴンを倒してしまったのだ。だから、12体だってどうってこともない。彼女はそう思いながらノソリンの尻尾を振りながら再び錫杖を振りかざした。

 ぐっ、と……足元の砂が鳴く。手にしたランスの重みごと、全体重をかけて突貫する。しかし、痩せた少年のそれは、ドラゴンの肉体に僅かな傷しか与えなかった。
「ちぃっ!」
ディートの額には玉のような汗がいくつも浮かんでいる。頬を、顎を、首筋を伝い、シャツの襟をぬらした。手には激戦続きで肉刺ができ、テーピングはこの戦いで剥げてきた。それでもディートの手はランスを離さない。呼吸を整え、勢いよく踊り始める。ランスと共に踊り、熱気のままに突き刺そうという魂胆なのだ。鎧聖降臨は、使い果たした。全て、共に戦う仲間たちのために使った。だから、後は鼓舞激励の舞と、攻撃しかない。
「まだ、いける!」
エンジェルの羽が、確かに空をたたく。ぼんやりとしないと飛べないが、駆出すさまは、まるで飛んでいるようにみえた。

…一進一退。
ドラゴンたちの攻撃は留まる事を知らず、冒険者たちは傷ついていく。それでも彼らは生き抜くために戦う事を選んだ。絶望し、全てを彼らに任せる事だって選べたはずだ。しかし、彼らはそれを良しとしなかったのだ。

ある者は、愛する人と生きるために。またある者は幼い頃に抱いた夢のために。そして…ある者は欲望のために。またある者は冒険者となった時に抱いた信念のために。

―希望は、自分たちの中にある。

 その叫び。それが、彼らの行動に現れていた。たとえ何度倒されようと、起き上がり、地面を踏みしめて戦いに赴く。

―それが、グリモアに誓いをたてた冒険者の意地。

「あきらめるな!」
誰かが叫ぶ。冒険者たちは皆、己の武器を力いっぱい握り締め、顔を上げた。
そして、あの瞬間が訪れる。

(続く)

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by jin-109-mineyuki | 2007-08-10 23:44 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)

プライベートテイル:黄昏の役(前編)


―7月 30日。
 ランドアースに、淑やかな終焉が、訪れようとしていた。十二匹のドラゴンが、【希望のグリモア】目掛け、ドラゴン界から突き進んできていた。28日には『蒼き光流』ザムザグリード、29日には『波濤さかまく』ヴァーゼルゼという二頭のドラゴンと死闘を繰り広げた同盟の冒険者たちであったが、この出来事には、誰もが目を見開いただろう。

しかし、同盟の冒険者たちは真実を飲み込んだ。
そして、立ち上がることを決意する。

決戦の前日。
ある者は家族の元に戻り、いつもどおりの生活を送る。
またある者は恋人と共に夜を過ごし、互いに生き残ることを誓う。
ある者は一人亡き戦友の墓に訪れ、ある者は仲間と共に羽目を外して大騒ぎ。
こうして、英気を養っているのだった。

 エンジェルのディート・マシロイは漸くなれた旅団の自室で一人手紙を書いていた。ホワイトガーデンにいる両親に向かって、である。
「うん、書けた!」
ディートは灰色の瞳を楽しげに細め、便箋を真っ白な封筒に入れた。そして、にっこり笑って机にしまう。この手紙は、生き残ったら送るのだ。その為にも生き残ろう。小さな決意を胸に、部屋を後にしようとする。ヴァーゼルゼを倒した祝勝会の会場ではまだ多くの冒険者たちが残っているだろう。ちょっとばかし食べ物をつまみに行こう、と思っていたのだ。
「行って来るよ、父上、母上」
ディートはそういい、白い髪を揺らして部屋を後にした。

 ヒトノソリンのギーエル・カンツバキはその夜、入浴を済ませるとすぐさま寝台に向かった。ヴァーゼルゼ戦では思いのほか精神力を消費した。邪竜導士である彼女はアイテムが持っていた『ヒーリングウェーブ奥義』を使用して仲間の治癒を行っていた。同時に士気を上げる為に歌も歌っていた。それが、さらに疲労の度合いを強めている。しかし、明日の夕方…黄昏時には十二頭のドラゴンが襲い掛かってくるのだ。
「十二頭。ちょうど一ダースなぁ~ん」
ギーエルはくすり、と笑う。同盟は死者を幾人か出しつつも二頭のドラゴンを倒しているのだ。それを考えると……正直、絶望する冒険者などいないのではないか、とすら思える。口元に艶やかな微笑が浮かんだ。
(死ぬ気はないなぁ~ん。ご主人様のために……この魂の全てを解き放つなぁ~ん)

 セイレーンのニルギン・シェイドは祝勝会の会場にいた。そこでオカリナを奏でていた冒険者に合わせ、オルガンを奏でていた。ピアノは養父が好きで弾いていたのを見よう見まねで覚え、今ではなかなかの腕前になっていた。鍵盤楽器ならば、多少はできると自負している。元々音楽が大好きな彼はオルガンを奏でつつ瞳を細めた。
(居心地がいい…)
明日の戦は、負けることができない。だからこそ、こうして決意を強めていく。死ねば、仲間と音をつむぐことができなくなる。そして、片思いの女性に歌を捧げることも、冒険者になるきっかけをくれた女性へお礼をする事もできなくなる。
「また、奏で合うためにも」
小さく呟いた言葉は音色にかき消される。けれど、思いを確かめるのには十分すぎるものだった。

 思い思い夜を過ごし、当日を迎える。その日は見事に晴れ、何事も無いような気がした。しかし、二頭のドラゴンが刻んだ爪あとが痛々しいほどに刻み込まれている。
「あーあ、お気に入りのパティスリーが瓦礫に埋もれてるよぉ」
ディートが不満げに呟き、ため息をつく。いつものようにキャスケットをかぶり、手にはランスを持っている。傍らのギーエルはメイド帽を被り直すと同意するように肩をすくめた。
「でも、町の人たちは避難できたからいいなぁ~ん。復興すれば、またできるなぁ~ん」
「生きていれば、またできますからね」
ニルギンも眼鏡を正して相槌を打つ。彼は小さく欠伸を噛み殺しつつもあたりを見渡した。一見平和を取り戻したように見える町。しかし、今日の夕方にはドラゴン十二頭との最終決戦が待っている。彼自身も昨夜、想い人に手紙を書き、決して絶望しないでほしい、と願っている。
(…貴女には、特に…笑顔でいてほしいから)
そう思いながら空を見上げていると、やわらかい感触が背中に押し付けられた。
「うわぁっ!」
「何暗い顔してるなぁ~ん?こういう時こそ笑うなぁ~ん」
ギーエルが背後から抱きつき、ノソリンの尻尾を楽しげに振っている。
「お姉さんが元気を分けてあげるなぁ~ん♪」
「や、止めてください!!」
背後から頬を寄せるギーエル。より押し付けられる彼女の胸に、ニルギンの頬が赤くなる。そして、前からはディートがぴょん、と楽しげに抱きついていた。
「そーだよ!ニル兄、笑ってよ!!」
二人には、ニルギンの顔が曇って見えていたらしい。弾ける様な笑顔を向けられ、ニルギンは小さく苦笑した。
「確かに、死ぬのは怖いよ?でも、生き抜けばまた冒険できるでしょ?だよね?」
ディートの言葉に、ニルギンとギーエルは頷き、微笑んだ。
決戦まで残り数時間。それでも、仲間との時間を……大切にしたかった。

(つづく)

※ちょいミス発覚で変更です。
ま、気づいても比べないで!些細なことだから!
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by jin-109-mineyuki | 2007-08-02 18:50 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)

久方ぶりにニルギンのプラテっす(フーレイ、ぺこり)


0.75:ニルギン、生きる道を見出したること

 人か来ないであろう、寂しい場所。そこには嘗て一人のエルフと六人のセイレーンが暮していた。けれど、今は一人しかいない。残ったのか、残されたのか、その少年はずっと夕日を見つめていた。
「これから、どうすればいいんでしょう?」
泣きそうな顔で、少年は呟いた。

 ニルギン・シェイド。それが彼の名前だ。エルフに育てられたセイレーン六兄弟の五番目で、家事は彼がやっていた。父親が死んで、他の兄弟たちが冒険者として旅立った今でも、一人家事を続けていた。
「とうとう、私だけが残ってしまいました。どうして、兄さんたちは旅立てるのでしょう?お父さんが寂しい思いをするといけないのに…」
そう呟いて辺りを見渡し、ふと顔を上げる。そして、また考え出した。僅かに目を伏せ、首を傾げる。
「…私がここに居続ける事を、父さんは喜ばないのでしょうか?私も、旅立った方がいいのでしょうか?」
彼は迷っていた。この場所を守る事が父の幸せか、旅立つほうがいいのか…。そんな時に、一人の客がやってきた。緑色の髪に金木犀の花を咲かせた、知的な女性だ。
「…誰もいないのか?」
家を訪ねた女性には見覚えがあった。彼女はドリアッドの冒険者で、名をミネルヴァ・クリフォード。ジークの友人に当たる。ニルギンが父の死を知らせると、彼女は沈痛な面持ちで墓を案内して欲しい、と言った。その時、彼女が父と何を話したかは何も知らないが、少しだけ、嬉しかった。

少年は温かいお茶とできたてのスープを客人に振る舞い、是までの経緯を簡単に語った。それをミネルヴァは熱心に聴いてくれた。
「それで、他の兄弟たちはどうしたんだ」
「兄と弟は、みんな冒険者となりました」
ニルギンは彼女の目を見ながら、ゆっくり答えた。そして、眼鏡の奥で少し目を伏せ…僅かに躊躇って口を再び開く。自然と、肩が落ちた。
「私は、迷っています。ここで父の墓を守りながら生きたい反面、旅に出てみたいのも本心です。父は、私達が世を知らないこと、世間へと見送れなかった事を悔いていました。けれど、父は…何か特別な理由があって世間から離れていたんだと思うんです。…だから」
「ニルギン…、君は、どうしたい?」
泣きそうになりながら言葉を紡ぐニルギンに、ミネルヴァは問う。彼女は金木犀ごとくすんだ緑の髪を揺らし、しっかりとニルギンの目を見る。
「私は…」
ニルギンは少し考える。確かに、外の世界に憧れていた。父やミネルヴァが語る、外の世界に。そして、冒険者としての旅にも憧れていた。その一方、このままこの場に残りたい気持ちが会った。この場は、父親と、兄弟たちと過ごした場所だ。また帰れるように、誰かが残っておいたほうがいい。その誰かとは……自分だ。少年は少し考える。深く眼を閉ざす彼に、ミネルヴァは苦笑した。けれど、彼女はそっと、問いかける。その顔は穏やかで、嘗ての父を見ているような気がする。彼女は優しくも、しっかりとした声で問いかけた。
「冒険者に、なってみないか?」
その言葉に、ニルギンは酷く驚く。けれど次の瞬間には、笑っていた。
「私が、冒険者に…ですか?」
「そうだ」
ミネルヴァが頷く。……と、少年は眼鏡がずれ落ちそうになるのも構わず、ゆったりとした笑顔を零していた。
「なんだか、光が差したみたいです。……今まで悩んでいたのが馬鹿らしいぐらいに…」
そして、少年は、一つ、頷いた。

 夜も深けてきた。ミネルヴァは用意された寝床に横になり、少し考えていた。ニルギンは迷っている、と言っていた。何を、迷っているんだろう。家事を一手に引き受けていた少年は、何を思って、この夜を過ごしているのだろうか。
(アイツが死んで、三ヶ月か)
ニルギンの話によると、ジークが死んだのは三ヶ月前だという。そして、兄弟たちは冒険者となって旅立った。少年だけが、ここに残っている。けれど、明日には旅立つのだ。
「ジーク、お前の子ども達はみんな……お前や俺の轍を踏んでいくらしい」
楽しげに……そして、優しく笑い、天井を見上げる。あの少年はあの後養父の墓へ行き、花を供えていた。その時に何を話したのか、彼女は知らない。
(一体、あの子たちはどんな事に出会っていくんだろう)
先に旅立った兄弟たちの事を考えているとノック音がした。他でもない。ニルギンが暖かいお茶を持ってやってきた。
「明日は早い。きちんと眠っていないと体力が持たないぞ」
「はい。でも、言いたい事があったので」
ニルギンは戸をあけてもらったことに会釈し、テーブルにお茶を置く。彼はきょとんとするミネルヴァと眼を合わせ、頭を下げる。
「どうした、ニルギン」
「いえ、そ、その…ありがとうございます。……誘ってくれて」
顔を上げたニルギンの顔は、やはりあの男にそっくりだった。
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ミネルヴァ姉さんはニルギンと仲良しで養父の友人でした。
アップがおそくなってすみません。読んだらよろしくです。

時間があったらギーエルとかのも。
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by jin-109-mineyuki | 2007-01-23 19:30 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)

あれ?一応…兄弟ですが(ニルギン、実は5番目。フーレイは一人っ子)


0.5:セイレーンの六兄弟、すくすくと育つこと

 エルフの世捨て人に拾われたセイレーンの六兄弟。
 一人は無口で力持ち、一人は賢こい美少年。
 一人は身軽でイタズラ好き、一人は甘えん坊で心配性。
 一人は献身家で生真面目、一人は食いしん坊でマイペース。

 一番目のクッレルボは多少アマノジャク。
 けれど腕っ節はよく、樵仕事は彼の十八番。
 二番目のミオは好奇心旺盛。
 面倒見がいい兄さん、畑と弟達の世話をする。
 三番目のラルクは手先が器用ですばしっこい。
 イタズラで壊したものは、特技の大工で直します。
 四番目のハルゥは人形のように寂しがり。
 森の木の実と薪を集め、危険がないか見回る目を持つ。
 五番目のニルギンは真面目が取り得。
 料理に洗濯、掃除に裁縫、家事は彼にお任せ。
 六番目のヘジュウルはおっとりさん。
 大好きな家畜たちのお世話、笑顔で引き受けます。

 時々喧嘩もするけれど、仲良く育った六兄弟。
 穏やかで、優しくて、暖かい毎日を送っていた。
いつまでもこんな日々が続くと信じていた。
 けれど別れはやってきた。
 大好きだった父親が、死んでしまった。

 父親の墓を作ったあと、ミオはグリモアに誓いを立てた。
 そして、彼は邪竜導士(ウロボロス)となった。
 次の日、ラルクが誓いを立て、忍び(シャドウ)となった。
 二日後にはヘジュウルが翔剣士(フェンサー)に、
 四日後にはクッレルボが狂戦士(デストロイヤー)になった。
 七日後、ハルゥが医術士(ナースウィッチ)になった。
 しかし、ニルギンだけが一ヶ月経っても家を出なかった。

 そんなニルギンが旅立ったのは、父の死から三ヵ月後だった。
 一人の女性に導かれ、彼は顔を上げて誓いを立てた。
 小さな音を立てて、再び歯車は動き出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 余裕があれば、全員登録したいですが無理ですよ(汗)。データーだけ作ってみようかな、と思いつつも二人作ってみました。しかも登録させておりません。をいをい。
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by jin-109-mineyuki | 2006-09-30 22:24 | 無限銀雨図書館 | Trackback | Comments(0)

ニルギンのプライベートテイルです(フーレイ、第一弾なのに0.25話)


0.25:世捨て人、六人のセイレーンを授かり、育てること

 それは、昔の事だった。
 あるエルフの重騎士は戦いに疲れ、一人で世を離れて暮す事にした。
 しかし、何故だろう?
 彼の元に、1人の赤ん坊が流れ着いてきた。
 青い髪、青い瞳、青い石。
 セイレーンの赤ん坊だった。
 彼はこれも運命、とその赤ん坊を拾い上げ育てる事にした。

 それから一年がたった。
 彼が出かけると聞きなれた声を聞いた。
 また、セイレーンの赤ん坊だった。
 これも運命、とまた拾い上げ、育てる事にした。

 一年ごとに、赤ん坊は増えて行った。
 それは皆、セイレーンの男の子だった。
 気が付いたとき、男の家には六人のセイレーンが住んでいた。
 これも運命だ、とエルフは頷き、大切に息子たちを育てていった。

 セイレーンの息子たちはすくすくと育っていく。
 ある者は力に優れ、ある者は知恵に優れた。
 ある者はすばしっこく、ある者は心優しかった。
 ある者は愛嬌がよく、ある者は生真面目だった。
 個性豊かに育った息子たちを見て、エルフは心から喜んだ。

 しかし、歳を重ねるごとに、男は不安に陥った。
 息子たちは世間を知らないまま育っている。
 はたして、是は幸せなことだろうか?
 世間には、教えたくないような事も溢れている。
 けれど、本当にこれが『幸せ』なのだろうか?
 気が付いたとき、彼は病に犯されていた。

 時が経ち、エルフの元重騎士は永遠の眠りについた。
 息子たちは三日三晩泣き明かし、家の近くに墓を作った。
 そして、一人、また一人とグリモアに誓いを立てて旅立った。
 ただ一人、迷う者を残して。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とりあえず、ニルギンの養父、ジークの物語。
…彼も彼なりに悩んでいたのでした。

ちなみに本日冒険に旅立ちました。らんじぇりー泥棒を退治しに。
帰宅は20日前後…。
そして、その次はおそらく巨大鰹狩りです(汗)。
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by jin-109-mineyuki | 2006-09-13 14:44 | 無限銀雨図書館 | Trackback | Comments(0)