ある野良魔導士の書斎

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カテゴリ:札世界図書館( 58 )

対面(フーレイ、手を抜けませんぞ)


『朔爛漫』:【3】

 バルディッシュ・ルー。黒い髪と紅い瞳のエルフは100年ほど前に碧落の森で生を受けた。幼少期をアレトゥーザで過ごした彼は実年齢で15の時に森へ戻り『聖闇』の聖職者としての道を歩き始めたという。そんな話を聞きながらキィフェは彼に捕まっていた。エルフの村を降り、人間たちの町へ行く、と言ってたときは止めたものの、彼はそのエルフを嫌う領主に興味を持ったらしい。キィフェは仕方なく案内することにし、馬を貸した。
(馬を貸したのはいいけど…本当に上手いのね…)
巧みに愛馬ペルセポネを操るバルディッシュにキィフェは驚く。彼女でさえ愛馬と仲良くなるのに3日は掛かったというのに。
「どれぐらいで、つくかな?」
「普通だったら馬を走らせて1時間ほどよ。でも、気をつけて…領主の兵士たちがいるかも」
バルディッシュはふむ、と少し考えて一つ頷く。そして更にスピードを上げる。彼は小さく唇を噛むと僅かに瞳を細めた。
「領主の兵士、ね」
「領民はエルフを仲のよい隣人って見ているから、あれこれ言ってエルフたちを庇っている。余計にそれが、領主には面白くないみたい」
キィフェは溜息混じりにそういいつつ、ちらり、とバルディッシュを見た。精悍な顔つきだが、何処か親しみやすそうな目つき。「よろしく」と言って手を握ったときの優しい顔。脳裏にそれが蘇り、頬骨が急にむず痒くなる。
(やだ、私ったら何を…)
思わず少し俯いていると、バルディッシュの声がした。
「標識が見えてきたんだが、どっちへ行けばいい?…ん、酔ったのか?」
キィフェは首を横に振り、左へ行くように言った。

 1時間後、無事に二人は町に到着した。馬を降り、今度は歩いていく。石畳の綺麗な町並みだ。人間に混じってハーフエルフやエルフの姿もある。それを眺めながら二人は肩を並べて歩いていた。
「へぇ……。いい雰囲気じゃねぇか」
バルディッシュは街の様子にほっとしたような顔をする。が、キィフェは少しだけ表情を曇らせた。兵士たちがいないという事はいい事だが。
「今は、ね。兵士たちが来たら皆…」
そういっている傍から、銀色の鎧を来た兵士の影が見えた。エルフたちは町の人に助けられて物陰に隠れていく。その様子をエルフの聖騎士は内心嫌そうに見つめていた。
「ふん、エルフを何だと思っていやが……おい、何でお前まで逃げるんだよ?」
隣を見ると、キィフェが何処かへ逃げようとしている。それを引き止めようと手を握る。
「ちょ、ちょっと!離してよ!!私は領主が嫌いなんだから!」
「でも隠れる必要は無いだろ?」
バルディッシュは苦笑するが、キィフェは酷く焦っていた。そして、1人の男がバルディッシュにどこかへ隠れろ、とジェスチャーを向ける。
「彼に従って。おねがい、バルディッシュ!」
キィフェが小声でそういうも、彼は首を横に振った。
「俺の目的は、その男に会うことだ」
そういうと、彼はキィフェと彼女の愛馬を物陰へ隠れさせると一人道の真ん中に立った。視線の先には馬に乗った壮年の男と幾人かの騎士の姿が見える。バルディッシュの紅い瞳がゆっくりと細くなった。人々が見守る中、エルフの聖騎士は領主が来るのを静かに待った。
(さあ、みてやろうじゃないか……。そのエルフ嫌いな領主さまとやらを)

【4】へと続く
・・・・・・・・・・・・
実を言うと、タイトルは勢いだったりするが、まぁ、ちゃんと…。
果たしてバルディッシュはどんな感じで御舅さんとわたりあったか…。
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-25 23:50 | 札世界図書館 | Comments(0)

しかし、奴を愛したって相当…(フーレイ、キィフェが凄い人に見えてきた)


『朔爛漫』 【2】

 現在のアレトゥーザからほど近い、ヘイルダム領。その昔、多くの『不浄なるもの』を討伐した功績から【侯爵】の位を貰った騎士がいた。その土地は日当たりがよく、森の恵みにも恵まれた穏やかな場所であった。尚且つ、治める人間も温厚で人柄がいい、との評判であった。
――しかし、それも先代までの事。
5代目の領主、オズバーン・シャナ・ヘイルダムは人間以外の種族を嫌い、特にエルフを嫌っていた。そして、聖北教会を厚く敬うのは良かったが森に暮らすエルフたちにも『改宗』を迫ったのである。当然、エルフたちはそれを断った。が、オズバーンはどうにかして、森のエルフたちを自分の領地から追い出したい、と常日頃思っていた。何故彼がエルフを酷く嫌っていたのか。それは彼が死んだ今も明らかにされてはいない。

 そんなオズバーンには1人だけ娘がいた。本来ならば6代目の領主となるはずだった、キィフェ・シャナ・ヘイルダムである。キィフェは美しい歌声の持ち主でもあり、人々はその優しい歌声に惚れていた。領民たちは皆『キィフェは歌の精霊の申し子だ』と言い合っていた。また、キィフェは利発的且つ健康的な娘で、多くの民に好かれていた。右に困っている人があれば駆けつけ、左に困っている人がいれば駆けつける。そんな娘で、病弱な母を時々はらはらさせてしまっていた(これには申し訳ないと思っていた)。それは森に住むエルフたちへも同様だったため、父親とはあまり仲が良くなかった。

その日も、キィフェは1人野山を黒毛の愛馬・ペルセポネと共に駆けていた。籠には山で取れた新鮮な野苺。そして、前に乗せていたのは幼いエルフの子である。脚には包帯が巻かれていた。
「大丈夫?傷は痛まない?」
「うん、大丈夫。ありがとう、キィ…」
エルフの女の子は小さく微笑んで答える。キィフェはもうすぐだから、と言って馬を走らせる。早く、この少女を村に返してやりたい一身で馬を急かす。少女の怪我はそんなに酷くは無い。血も止まっているようだったが、父や兵士に見つかったら何をされるかわからない。
「でも、不思議だよね。村の皆とかキィはやさしいのに…領主はエルフを追い出そうとする」
子供が不思議そうに問う。が、キィフェもまたその理由を知らない。聞こうとしても、答えてくれないのだ。
(理由はどうあれ私は…)
彼女は形のよい唇を噛み締め、一心不乱に馬を走らせた。
 暫くして、馬はエルフたちが暮らす村に到着した。若者たちがキィフェの姿を見るなり歓迎し、キィフェは馬から下りて歩き出した。エルフの子もまた馬を降り、父親らしき男に抱きついた。
「カゲロウ、どこへ行っていたんだ!」
「あたしね、人間の町に行ってたの。エミーとお人形遊びをしてたの…」
その子は父親にそういうものの、父親は厳しい顔で人間の町に行くな、と叱る。その姿を見ると自分の父親の所為だな、と胸が痛くなる。1人立ち尽くしているとその父親は顔を上げ、気まずそうにキィフェに頭を下げる。
「すいません、キィフェ。この子が世話になったようで」
「森を歩いていて、怪我をしたようで…。大した怪我でなくてよかった」
安堵の息をつきながら、助けた少女の頭を撫でていると…ふと、見覚えの無いエルフの姿を捉えた。この村にはいない黒髪のエルフだ。外見では自分より5つほど年上に見えるが、実際にはどれぐらい生きているかわからないのがエルフ族である。助けた少女も外見は10歳ぐらいだがもっと生きているらしい。
「あの人は?」
「そいつは『聖闇教会』の聖騎士さまさ」
父親は親しげに答え、言葉を続ける。
「つい最近ここへ来たんだ。なんでも長老様が頼んでいた本を届けに来たらしい」
説明を聞きながら、キィフェの目は黒髪のエルフを捉える。『聖闇教会』は彼女も知っていた。この大陸でもちらほらと聞く多神教信仰で、中心は闇と命の神だったかと思う。『聖北』やら『聖央』やらは異端として見ているらしいが、『聖闇』は彼らが祭っている神も信仰対象であった。『聖闇』にとって、彼らの神は光の秩序の神なのである。その聖騎士が、目の前にいる。キィフェは興味を持った。
(不思議ね。エルフなのにエルフ独特の雰囲気が少ないし…)
彼女は動き出していた。目に映る滑らかな黒髪と、それ以上に魅入られそうな深紅の瞳。そして小麦色に焼けた健康そうな肌。細いが鍛え上げられた体を黒い衣服で包んだ、長身の男。
(野性味のある空気を纏っている)
少し近づいて見ていると、男と目が合った。瞬間、何故か息が詰まるような感覚に陥るが、男はにこっ、と笑いかける。
「見かけない顔だな。…しかも人間…。へぇ、ここは人間とのやり取りがあるんだな」
「今は愚かな領主がエルフを追い出そうとしていて、町の人々はどうにか邪魔しているけどね」
キィフェは苦笑して肩をすくめる。男はどこも大変だよな、と苦笑すると手を差し伸べる。そして、こう言った。
「俺はバルディッシュ・ルーという。よろしく」
キィフェは一瞬ぽかん、としたものの慌てて手を握り返す。
「私はキィフェ・ヘイルダムよ。こちらこそよろしくね」
バルディッシュの手の大きさと肉刺を確かに感じていた。彼女は知っている。その手は細身の剣を扱っている、と。腕までは解らないが……。手から伝わる暖かさがキィフェにはなんとなくくすぐったく思え、頬が赤くなる。
「じゃあ、キィフェ…すまないが人間の町を案内してくれないか?」
その言葉に、キィフェの目が丸くなった。

【3】に続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
前・中・後の予定が、どうやら5、6まで行きそうな予感。
3では遂に濃いが動き出しますよっ!
しかしバルディッシュは何故人間の町に興味を持ったのか。
…物語にそんなに関係しないことがひとにとっちゃきになるかもしれないけど。
親父とのやり取りは考え中。
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-18 13:40 | 札世界図書館 | Comments(0)

つづいて、おっさんの…若気の至り?話(フーレイ、色々考えた)


『朔爛漫』 【1】

 その夜は、見事な満月だった。墨色の空に浮かぶ黄金は、柔らかい光を大地へと零し続ける。そして、本来暗いはずの道をすうぅっ、と浮かび上がらせるのであった。同じように照らされ、つやつやと光る風が、勢いよく駆けて行く。
-馬であった。
逞しい脚で道を蹴り、弾丸のように突き進む。雄々しい蹄の音だけが、その空間を支配していた。よくみると、その上には夜闇よりも黒いローブを纏った男が乗っている。背後には対照的に白いローブに身を包んだ、線の細い女性。逞しい男の胴に腕を回し、必死にしがみついているように見えた。
(まだだ。……まだ早く…)
男は只管目指す方向を睨む。赤い瞳は険しくなり、更に鋭さを増した。彼の笹の葉を思わせる耳は絶えず後ろを警戒しているように動く。その耳でエルフであるのは一目瞭然である。彼は背中にしみこみ続ける温もりを嬉しく思いつつ、女性にこう言った。
「もう少し遠くまで走ろう。……今夜は野宿になるかもしれない」
「ええ、覚悟はしてましたから気にしないで」
女性は楽しげにそう言った。が、僅かに震えているのは風の冷たさからだけではない。彼女はちらり、と後ろを振り返り……影が見えない事に安堵した。
「今の所、お父様の刺客は着ていないわ」
「そうか…。しかし、そろそろ街道からそれたほうがよさそうだな」
男はそういうと馬に鞭を入れる。そして、近くの雑木林へと馬を進め街道から反れる。きっと彼女の父親は2人を捕らえるために追っ手を向けているだろう。そして、ここは彼女の父親が持つ領地である。男にとっては不利な逃亡劇だった。しかし、雑木林へ入り込み、そのまま突っ切れば領土から出ることが出来る。その事を男は知っていた。それに彼はエルフである。自然と多少心を通い合わせることは出来た。
(頼む、俺たちを守ってくれ…)
彼は内心でそう祈りつつ、雑木林の不安定な道のりを突き進んだ。

 月明かりが、枝と枝の間をすり抜け、2人を斑に染め上げる。領土を越え、更に雑木林の奥へと逃げてきた2人は少し開けた場所で馬を止めた。岩場から水が湧き出ており、小さな川が東のほうへ続いている。男はそこから水をくみ上げ、火にかけた。女性は木の切り株に腰掛け、持ってきていたパンと酒と紅茶を男のかばんから出し、食事の用意を始める。
「俺たちの始まりにしては、丁度いいな」
少し苦笑しつつ口を開いた男に、女性は空色の瞳を輝かせて微笑む。まるで桜の花を思わせる、凛々しい笑顔。それを守るためにならば、なんだって出来る。男はそんな事を密かに思った。
「そうね…。まだ、貴方が用意した家まではちょっと遠いけれど…」
そんな事を言いつつ、湯が沸くのを待つ。少し肌寒くなり、女性は男の傍へと歩み寄った。
「バル、貴方も座ったら?」
「あ、ああ…」
バル、と呼ばれた男は頷き、女性の横に座る。そして、纏っていた黒いローブを開き、女性に微笑んでおいで、と囁いた。一つ頷き寄り添う女性を確認すると彼はローブで自分ごと女性を包む。
「これで、先ずは…俺が幸せになる。あとはキィフェ、君を幸せにするだけかな?」
「私もふっきれて、幸せよ」
少しはにかんだバルの言葉に、キィフェと呼ばれた女性は頬を赤く染めつつそう答え…彼を見つめる。暫く互いに黙り込み、目を逸らしたり俯いたりしていたが、やがてどちらからともなくそっと、されど深く唇を重ねた。

男の名はバルディッシュ・ルー。
100年生きたエルフであり、聖闇教会という多神信仰の聖騎士の青年。
女の名はキィフェ・シャナ・ヘイルダム。
ある侯爵家の末娘であり、宝とすら言われていた美しき歌い手。
この2人が駆け落ちしたのには…深いわけがある。
まぁ、ワケの無い駆け落ちなど無いのだろうが。

【2】に続く
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ども、フーレイです。
もしかしたら後でタイトルを変えるかもしれませんがバルディッシュのおっさんの若い頃の話。奴はエルフなので100歳でも若者クーポンだと思われます。
じゃなくて、愛しい奥さんキィフェとの馴れ初めだったりします。
つか、前・中・後で終わらないことが判明したんで、書き直しましたよ、前から【1】に。
ぼちぼち書いていくのでよろしくッ!
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-11 14:43 | 札世界図書館 | Comments(0)

奴はとんでもないものを奪っていきました。…貴方の魂です(シオン、絶賛逃亡中!)


『雨の日の、逃亡者』 (本人側・後)

―ザザザザザッ!
不意に、騎士は息を呑んだ。明らかな『殺気』が背後から突き刺さる。
「何者だッ!?」
そう叫んだとき、殿だった騎士の体を一閃の銀が走る。雨に混じる紅が、鈍い空に映える。馬は脇腹から上のない相手を乗せたまま、暴れ、草原へと逃げ出す。
「くそっ、いやがったかっ!」
無残にも斬られた仲間を見、吐き気を堪えて別の騎士が襲い掛かる。しかし、若者は馬上から繰り出された剣をはじき、今度は馬の脚を切り落とす。彼が草原に倒れている間に、残りの騎士が襲ってくるも、若者は次々に交わす。ただ1人、リーダー的な騎士だけが、若者を見る。
「一号体…いや、アメジスト…」
その間にも、若者の握った剣は的確に騎士二人を倒している。見事な手さばきで急所を切り飛ばし、返り血で白い肌を紅に染めている。
(戦争のためだけに作られた戦隷。その初期型…、唯一あの魔導士が名前をつけた『おきにいり』に…自我が生まれるとはな)
騎士は本来自我など出来ないはずの存在を、興味深く思っていた。だから、この男をみすみす殺したくはなかった。しかし、命令だ。
「その首、貰い受ける」
彼は、若者に襲い掛かる。ただ、身構えもせずに立ち尽くす若者に。
手にした剣で、彼を斬ろうと。
しかし、その剣は「彼」の体に触れることはなかった。
銀色の背中から……紅蓮の花が、咲き、散った。

追っ手の『始末』を終えた「彼」は、その死体を一瞥し、一つ頷く。
「これで…いい…」
嘗ては命令されるがままに殺していた。
これからは、自分が『誰を殺すか』を決める。
―全ては、自分で決めるために。
「彼」は死体の懐からなにやら袋を取り出すと背を向け、只管に街道を走り始めた。
彼の土地勘が確かならば、あの馬車を追い抜ける道が、どこかにあったはずだ。
紅の染みをつけたまま、「彼」は走り始めた。

走り続けると、あの荷馬車の音を耳にした。けれどそれをすぐに追い越す。
(もう少し…先……で…)
もう一度乗せてもらおう。そして、別の大陸にある町…ポートリオンへ行こう。彼は決断すると、更に加速した。

(終)
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シオン、逃亡道中まっしぐら!
いや、…シリアスな内容なのに記事のタイトルとかはめっさおかしい。
まあ、気にしないでくださいよ。
本当は続きもありますが、後日!

 次回は【見えざる神の手亭】に所属するエルフ(たぶん200歳以上)、バルディッシュ・ルーの物語をご紹介予定。デバク宿だからこそ出来るレベル11(ぇ)のおっさんの、冒険者になる前の話です。
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-04 01:55 | 札世界図書館 | Comments(0)

最近、CWをしていないがSSをば(フーレイ、水繰の宿はどうなる!?)


『雨の日の、逃亡者』 (本人側・中)

 …ザアアアア
雨が、全身を嬲る。体が凍えそうだった。若者はそれでも街道を目指し走る。
(おれは、何だ)
そんな問いと腰に下げた剣、かっぱらったローブだけを荷物に「彼」は街道に出た。そしてそのど真ん中にたたずんだ。彼の常人を超える感覚は、遠くから荷馬車が来る事を感じていた。

 …ガタゴトガタゴトガタゴト
荷馬車の中で、耳をすませる。と、雨や荷馬車の音とはまた別のモノを捕らえる。明らかな殺意を持った気配。しかし、「彼」を乗せた男は別の事を考えていたようだった。
恐らく、ただの脱走兵としか思っていないのだろう。
しかし、「彼」は……ただの脱走兵ではなかった、のである。

ホムンクルス第一号体…H-01-a001
それが、彼に与えられた「記号」だった。
多くの兵士たちが「一号」と読んでいた。
しかし、ただ1人だけ…彼を作った魔導士だけはこう呼んだ。
―アメジスト、と

 ガタガタガタガタガタガタ…
馬車の音と雨の音を聞きながら、男と会話をする。その間にも『抹消の意志』が「彼」の体に響いていく。
「…来たか」
若者は一つ頷き、気配をそのままに男から離れる。そして…徐に外へ転がり出た。

 荒野の岩に身を潜め、騎士が荷馬車を止める様子を見ていた。彼らは恐らく、あの魔導士か王から自分の抹消を命令されたのだろう。その様子をそっと伺う。幼いころから染み付いた術。そして、20年もの間『戦争』の為だけに『作られた』存在の『機能』なのだ。
―息を殺し、気配すら絶つ。
そして、雨が降りしきる中騎士達が荷馬車を捜索する。が、そこには誰かがいた、ということだけしかわからない。魔力は体の内側で押さえ込んでいたから、よっぽどの人間でないとホムンクルスが持つ特有の【癖】がついたそれを感じ取ることは出来ない。
(…愚かな…)
「彼」は僅かに唇を嘗め、その様子を伺う。そして、馬車が開放され騎士たちを置いてかなり遠くまで走っていくのを見守った。騎士たちもまた、引き返して脱走兵の姿を探す。
「オレに敵うと…思っているのか…」
若者は、馬車が完全に見えなくなったのを確認すると……徐に立ち上がり、騎士たちの方へと走り出す。
(続く)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とりあえず続けてみました、シオンの話。
前回のでシオンがどんな過去かは多少解ったと思いますが……まぁ、いろいろありゃあひねくれますわな(汗)。そんな彼が人間らしさを少しでも身につけていくのが宿に来て冒険者になる前1年間別の場所で働いていたときの話になるかな?一応それは思いついたら。

他の宿のメンバーの話も思いついたら書く予定です。
これ…読者いるかわからないけど、次回でこの話は終わります。
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by jin-109-mineyuki | 2007-11-27 15:09 | 札世界図書館 | Comments(0)

そういえばシオン……女性名じゃ(汗:フーレイ、今思う)


『雨の日の、逃亡者』 (本人側・前) (著:天空 仁)

 ザアアアアア…
雨の中、1人の若者が高い石垣から飛び降りた。猫のようなしなやかさで着地し、そのまま無言で走り続ける。
(追っ手を…遣すならば…騎士を連れ…てくるか)
若者は内心で呟き、只管走り続ける。彼の知識が確かならば、しばらく言った先に質が悪いがそれなりに大きい街道に出る筈だ。
(もう、ここに…用は…ない)
若者は、何かを振り切るようにただただ走り続けた。

―物心ついたとき、そこは青白い光の液で満たされていた。
黒いローブに身を包んだ魔導士たちが、僅かに歓声を上げながら「彼」を見ている。
「成功だ」
その中の1人が、小さく呟く。そして、それが「彼」が最初にきいた言葉…。

硝子の筒から出された「彼」を、魔導士たちは「一号体」と呼んだ。
そして、人を殺める術を一から叩き込む。
そんな存在が、「彼」を含め50人、周りにいた。

しかし、その中でも「彼」は特別な存在だった。
他の存在とは別にされ、色々な実験を受けた。
夜は夜で兵士や魔導士達の『玩具』にされた。

「彼」は最初のうち、当たり前のように受け入れていた。
戦場では無言で色んな人間を殺していた。
兵士も、一般人も、男も、女も、子供も、大人も。
命令されるがままに、剣を振るって。

そんな「彼」だったが、次第に「学習」していく。
―己の「存在」が他とは違う事。
―己への「命令」が、他とは違う事。
やがて「彼」の中に『疑問』が持ち上がった。

『オレ ハ ナニ ナノカ』

そして、緩やかに……『自我』が芽生える。

(続く)
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もしかして、一部検閲対象ですか!?
そんな気がしてならないけれど、掲載。
冷血漢ホムンクルス・シオンの物語も三週目。本人編でありますよ。
CWのリプレイ書きとしては中途半端というより、リプレイ書きと名乗っていいのか物凄く迷っておるのですけど、どーだろよ?
まぁ、次は中編っす。
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by jin-109-mineyuki | 2007-11-20 13:05 | 札世界図書館 | Comments(0)

先週の続きです(フーレイ、実は本人サイドもある)


『雨の日の、逃亡者』 (後)(著:天空 仁)

 ザアアアアア…
馬車を取り囲むかのように5頭の馬が走っていく。その内の一頭が、馬車の行く手を遮った。乗っているのは全て鈍く輝く銀の鎧を纏った騎士達である。
「止まれ」
男は、素直に従っておくことにした。慣れた手つきで馬をとめる。
「なんでございましょう、騎士様方」
「脱走兵が出たのでな。念のために乗っていないか探らせてもらう」
騎士はそういい、部下たちへ指示を下す。が、男はまってくれ、と叫ぶ。脱走兵と聞いて、あの若者のことか、と思ったのだ。彼とて手にした商品を逃したくはないし、殺されたらたまったものではない。
「気のせいですよ、騎士様。手前は一人旅人を乗せただけでして……」
そういっている間にも、騎士たちは荷馬車の中を見た。が、そこからは信じられない声がした。
「誰も乗っておりません」
「そんな筈はない。人の気配は、確実に二人分あったのだ」
リーダー格の騎士がいう。そいつはどうやら人の気配を把握する魔術でも持っているのだな、と男は思った。が、彼の表情が…僅かに曇った。
「どうやら逃げたらしい」
騎士はそういうと、男に非礼を詫び…いくらかの銀貨を握らせると行け、と言い放った。

 …ガタゴトガタゴト
あれから一時間が経過した。男はぼんやりと馬の手綱を握っている。
(夢だったのか?)
いつの間にか、あの若者はいなくなっていた。馬車から降りたならば、それなりに音はしたはずなのだ。それなのに、そんな音は皆無だった。
(雨にまぎれて、か?)
そんな気がした。もしかしたら、相当な戦士だったのかもしれない。けれど、逃げ出したというには何かある。
(それに…これは…)
誰にも言うな、とでも言うように騎士は銀貨をくれた。こういう賄賂は銅貨である事が多いが、質のいい銀貨とは…。そんなことを考えつつ遠くを見ていると…、また人影が見えた。
「……おい」
その方向から、濃い血の臭いがする。良く見れば、その影には赤黒い血の染みが滲んでいる。そして、フードの隙間から見えた目は…爛々と輝く紫水晶だった。
「……乗せろ」
虚ろなバリトンが、同じ事を言う。男は背筋に冷たいものが流れていくのを感じつつも、その若者を再び乗せた。

(終→本人サイドへ続く)
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ども、フーレイです。
あの冷血漢ホムンクルス、シオンのプラテですが、一応おっさん側が終了。次回からは本人側となります。一応あと三週間ですな(笑)。
他にもいろいろあるけれど、まぁ気が向いてからなので期待しないでね。
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by jin-109-mineyuki | 2007-11-13 00:15 | 札世界図書館 | Comments(0)

CW関連プラテは初…そして連載。 (フーレイ、※ダークかも;)


『雨の日の、逃亡者』 (前) (著:天空 仁)

…ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト
あまり良いとはいえない状態の道を、一台の荷馬車が走っていた。地面を叩く大粒の雨が、さらに地面をぐちゃぐちゃにする。
「ひでぇ雨だな」
馬車の手綱を握っていた男は、小さく呟いた。土の匂いが、その大きな鼻を掠め、思わずくしゃみをする。僅かに身震いがすると、溜息が漏れる。
「早く帰らねぇとなぁ」
そして、暖かいスープでも食べて風呂に入り、火雫(かだ。アルコール度数が高い、透き通った赤褐色の酒)を一杯くらって寝てしまおう。そう思っていた。
・・・が。
「!?」
顔を上げる。と、水の簾の奥に人影が見えた。自分と同じようにローブを纏った、背の高い影。馬を止め、男は思わず怒鳴った。
「危ねぇだろ、馬鹿野郎!!」
「………」
立っていた影は、黙っていた。その沈黙が、妙に重い。そして、僅かに漂う血の匂いに思わず顔を顰めた。
「邪魔だ。どきやがれ!」
男がもう一度怒鳴る。が、その影は男を黙って見つめ……おもむろに歩み寄った。フードの陰から見えたのは、くすんだ紫水晶。まるで死人のような目に、少しだけ身震いがした。
「……乗せろ」
影が漏らしたその声は、妙に現実味のない、虚ろなバリトンだった。

…ガタゴトガタゴトガタゴト
馬車は進む。ただただ進む。それも激しい雨の中。荷馬車には血の匂いを纏う人を乗せて。
「…てめぇ…」
男は乗ってきた若者に何者だ、と聞こうとした。しかし、はた、と思いとどまった。というのも戦争続きのこの国では、脱走兵がまれに乗り込んでくることもあったからだ。
(厄介な男を乗せちまったな)
男は小さく舌打ちした。脱走兵を匿っている、となると重くて死罪、軽くても高い罰金や鞭叩きに晒し者、という罰も考えられるからだ。
「…この馬車は、何処へ行く?」
不意に、若者の声がした。フードの隙間から見えた横顔は僅かに青白い。しかし男というには勿体無いほどの美しい横顔だった。頬に張り付いた紫の髪が、またそそる。
「港町さ。俺はポーテリオン行きの船に荷を降ろしに行く途中でね」
男は平静を装って答える。と、若者はこんな事を問いかけてきた。
「ポーテリオン……別の大陸に行けるのか」
「ああ。てめぇも行って見たらどうだ?」
若者は、その言葉に瞳を僅かに細め、なにやら考えているようだった。その仕草もまた、何かをそそられるように思える。
(そういえば、ここん所……ご無沙汰だからなぁ)
男は僅かに口元を綻ばせる。元々その気はないのだが、乗ってきた若者はそんな事を忘れ去れるほど美しい。女でないことが実に悔やまれるほど。
(いっそファレンにでも売っちまうか?)
港には人買いもいる。乗ってきた若者はどこか不気味ではあったが…雰囲気的には何も知らなさそうである。上手く騙せば大金が手に入るかもしれない。男はある意味いい商品が手に入ったのかもしれない、とほくそえんだ。
と、その時だった。蹄の音が、妙に増えたのは。そして、彼の背後を僅かに冷気が流れていく。
「…来たか」
若者は、さも当たり前というように呟いた。

(後編へ続く)
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 現在遊んでいるCWの宿【静寂の鏡】亭に所属するシオンという青年の、昔話です。とりあえず、これから毎週火曜か金曜のどっちかで連載予定。シオンの過去は、若干ダークっぽいですけど、まあ…以後よろしゅう。宿に来た経緯を小説にしたためてみましたが…。
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by jin-109-mineyuki | 2007-11-06 15:43 | 札世界図書館 | Comments(0)