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ある野良魔導士の書斎

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ミスしました、あははは(フーレイ、実はちょいと)


冒険者の宿【水繰の剣亭】:37
渓谷の鋭利なる乙女(前編)

ソレントへ行く道を、アンバーたち【六珠】は歩いていた。レナータの忠告を守り、歩いていく。不安げな顔をする一同ではあったが、アンバーだけは困惑の顔だった。
(ハーシェさん……なんでそんな事を口にしたんだろう?)
アンバーは少しだけ前の事を思い出しつつも、あたりの気配に気を配った。正しい道を歩いているならば、精霊達は手を出さない。……それでも、念のために。

―2時間前
【悠久の風亭】で思わぬ人物と再会したアンバーは彼に仲間達を紹介した。その時は親しげに接していたのだが、暫くして二人だけで話をしたい、と言われた。それに従い、二人で店の端へと行く。
「アンバー、君はパーティメンバーを変えたほうがいい」
急にそう言われ、アンバーは目をきょとん、とさせた。
「えっ? 何故ですか。バランスが取れているって褒めてくれたじゃないですか」
「たしかにバランスは取れているが…」
彼は僅かに表情を険しくし、アンバーの耳元でそっとこう言った。
「君が仲間としている少女は強力なヴァンパイアだ。そして、君を兄のように慕っている少年は、人工生命体のホムンクルスだそ?」
「……だから、ですか? そんなくだらない事で?」
アンバーの目が刃物になる。一瞬にして炎が胸に灯る。が、彼もまた酷く心配した様子で口を開く。
「ヴァンパイアは信用ならない。いつ裏切られ、襲われるか…。それにホムンクルスは生きる混沌。生命の理に反した存在だぞ。暴走する可能性だってある。あの少年は自分がそうである、と気づいていないが……」
何故だろう、肩を掴む手に力が入っていた。ぎしぎし軋む。その痛みにアンバーは思わず小さく呻いてしまった。
「私は神官だ。あの幼い子供たちが異端だとは信じたくない。が、異端として消さなくてはならない日が来るだろう。目の前で失いたくなかったら、別れることだ」
彼は真剣な声でそういい、きつく肩を握り締める。が、アンバーはそれをぐっ、と跳ね除けようとした。
「!」
「ヴァンパイアだからどうした?ホムンクルスがなんだ?
 俺にとっては大切な仲間だ。……貴方がそんなことをいう人だなんて…」
アンバーは少し傷ついていた。自分をこの世界へ誘ってくれた人だけに、少しでも深い傷が心に出来てしまった。
「アンバー…」
「話がそれだけなら、失礼します」
アンバーはそういい、彼と別れた。

「アンバー、次はどうすればいいの?」
ジャスパーの声で我に返り、アンバーは顔を上げる。そして、あたりを見渡した。道は二手に分かれているが、左からは濃い精霊の力を感じた。
「左へ。そこからは道が細いから気をつけろ」
「うん、わかった」
彼の声にサードニクスが頷く。【六珠】の一行はてくてくと山道を歩き…精霊の力を肌で感じながらその道を歩く。そして、誰もが少し前の事を思い出していた。

― 一ヶ月ほど前
 その日は雨で、【水繰の剣亭】にレナータが遊びに来ていた。アンバーと幼馴染である彼女は時折こうしてアンバーやアメジスト、ネフライトを尋ねてやってくる。
「…その時のネフィといったら、凄く慌ててしまって。私も手助けするのがやっとだったの」
「そうそう。その時俺が手を伸ばして助けたんだっけ?」
こうして思い出話に花を咲かせているとふいに、パールが声をかけてきた。
「なぁ、レナータ。水の精霊術を教えてくれるけどさ、水の精霊ってそれだけなん?」
「いや、水の精霊は世界中のどこにでもいるぜ?」
それに答えたのはアンバーである。彼は精霊術師ではないものの、父親がそうであるが故に知識は多少持っている。
「水の精霊は、どこにでもいます。例えばグラスにつく水滴や、空から降る雨の雫…」
「時には、人の涙にも精霊が宿るとかいいましたね」
その言葉をオニキスがつないで微笑む。精霊術についてあまり知らないジャスパーたちは興味深そうに耳を済ませた。
「…ですが、強力な力を持つ精霊は極僅か。更に人間と交感できる相手となるともっと限られてしまいますね」
「ふぅん……なんか難しいな」
「そういうものなのかしら。みんな使えたら力の均衡が崩れてしまうでしょうしね」
サードニクスは頭をひねり、クインベリルは小さくため息混じりに呟いた。それが何を言いたいのか解ったレナータはそういうものですから、と苦笑する。
「水の精霊術はたくさんあるでしょうが、レナータさんが教えられるのはあれだけでしたね」
「ええ」
オニキスが確認するようにいい、彼女は頷く。
「あとは別の精霊術師から教えを乞うか、あるいは……」
「自分から精霊と交感し、直談判するって父さんから聞いたことがあるぜ」
レナータとアンバーの言葉に、ジャスパーたちはおお、と小さく歓声を上げた。
「なんかそういうのって、突撃取材っぽいっ!」
「いや、そーいうのとはちょっと違うから……。下手したらその精霊に殺されるってこともある危険な行為でもあるってこと、覚えておいてくれよ?」
若干はしゃぐパールをアンバーが窘める。その横でレナータは表情を曇らせていた。
「一人だけ心当たりがあるのですが、それが…まさにアンバーの言うとおりだったりします」
あまりに危険だったから勧めなかったと付け加える彼女に、ジャスパーは目を輝かせる。そういう精霊は興味深い。殺されるのはいやだが、戦う相手に不足は無い。
「アンバーも、その精霊をしっているの?」
クインベリルの言葉に、アンバーも頷く。そして若干苦笑いしつつ問いかける。
「んー、俺の心当たりとレナータの心当たりが一致すればの話。
 まさかと思うけどさ、あの渓流の姐さんじゃねぇだろうなぁ……?」
「そのまさかですよ、アンバー。幼い頃、渓流に沈められた貴方なら、その危険性をしっているでしょう?」
(け、渓流に沈められた?!)
その一言が微妙に怖いのか、サードニクスの顔は若干引きつっている。がレナータは言葉を続ける。
「猛々しく、荒々しい…あの魔の精霊はアレトゥーザの近くに住んでいます。危険を承知で説得へ向かいたいのならば…」
レナータがそこまで言ったとき、アンバーが顔を上げる。一瞬にして、表情が懐かしいものへと変わっていた。
「俺が案内する。俺の故郷はソレント渓谷のすぐ近くにある村なんだ。そこは俺にとって、庭みたいなものさ」
「……そんな危険な場所に住んでいたんですか、貴方は」
オニキスが怪訝そうな顔をするも、アンバーはくすっ、と笑った。
「村はナパイアスの住んでいる場所からやや離れている。だから精霊も襲うことは無かった。第一に、村人の半数は精霊術の心得があったかんな」
そういい、にこやかに笑う姿を、レナータたちは楽しげに見つめていた。

 その時は向かわなかったものの、ある程度用事を済ませた上でアンバーたちはアレトゥーザからソレント渓谷へとむかった。レナータの警告やアンバーの説明を十二分に守った上で向かった一行は、珍しく静かにそこへむかったのだった。

(続く)

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今回遊んだシナリオ(敬称略)
碧海の都アレトゥーザ(Mart)

このリプレイ(もどき)は、上記のカードワースシナリオをプレイし、その結果と感想を元に書き上げております。シナリオ本来の著作権は各シナリオ作者さんのものです。また、リプレイに登場したスキルの著作権は、各シナリオの作者さんに既存します。

はい、フーレイです。
実は話数をミスった上に5話ごとに揚げるつもりだったSSも・・・。
とりあえず40話をあげた次の週にはちゃんとSSを乗せますにゃ。
あ、そうそう。タイトルはナパ姐さんのイメージからつくりました。
なまめかしいおねえたま~っ?!(激流に押し流されました)
by jin-109-mineyuki | 2008-09-13 21:25 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】