ある野良魔導士の書斎

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何気にややお家騒動気味(咲乱、案外苦労している?)


「……んだよ……」
咲乱は教室に入るなりどこか似た雰囲気の少女から睨まれる。白い肌、漆黒の髪は咲乱と一緒だが、瞳は咲乱が紺色、目の前にいる少女は赤だ。
「母さまから聞いたのよ。水繰家の時期当主…貴方なんだってね」
「しらねぇよ、んな事。俺は別に当主になりたいわけじゃない。ただ能力者になっただけだ」
そういうなり彼は欠伸をし、机に伏せた。

シルバーレイン プライベートテイル
『17.4』 第二閃

「…認めないから、私は」
少女はそういうと背を向け、隣の教室に戻っていった。名札には『影釣 亜夜羽』と書かれている。彼女を見かけるなり、幾人かの女生徒は笑顔で駆け寄っていく。それを声で感じ取りながら咲乱はため息をついた。
(いいよな、亜夜羽は。友達がいっぱいいてさ)
咲乱は長身と紺色の目が原因であまり友達がいない。それに比べ亜夜羽はモデルのような体型を持ち、勉強もスポーツもできる上男女共に人気があり、カリスマ性もある。
(先輩からも、先生からも一目置かれている。俺なんかより)
当主に向いているよな、なんて思っていると人の気配を感じた。顔を上げると漆黒の髪と白い肌は一緒の小柄な女の子がいた。
「えっちゃんか…」
えっちゃんというのは目の前にいる深緑の目をした少女、日治 縁の事である。縁は咲乱に小さく微笑みかけた。周りの男子がざわめきだすが咲乱は気にせず身を起こす。
「咲兄、なんか凄いことになったね」
「……俺は半信半疑だ。今度は亜夜羽かお前だと思うぜ。なんかの間違いだろ?」
「でも……お父様は『次は咲乱様だ。お前は三守となる。盛り立て、共に精進しなさい』っていいました」
その言葉に、咲乱の表情が少しだけ曇る。そして、小さくため息つくと首を振った。
「考えてみろよ、縁。元々水繰家は女系だろ?それに俺は魔力も弱い。お前か亜夜羽に決まっている」
そういうと咲乱はそう言うともう一度机に伏せる。が、縁が揺らし起こす。その様子を周りの男子生徒たちは羨ましそうに見つめていた。縁は小柄で愛らしく、かなり人気で『お嫁さんにしたい女の子No.1』とも言われている。それ故に、だ。
「私には当主なんて無理だよ。咲乱兄ちゃんならできると思う。とにかく、今日は学校を早退して、禊(みそぎ)だって。今日と明日はお肉とか牛乳とか、卵とか禁止だって言ってたよ」
その言葉に、咲乱は眉を顰める。
「……マジかよ…」
その日の『給食の献立』を見ると、咲乱が好物にしているつくねカレーだった。楽しみを奪われ、少ししゅん、としてしまった。

 授業を4時間目まで受けると、咲乱は帰り支度をさっさと済ませて職員室へ向かう。そして、担任に例のことを伝えるとそのまま正門をくぐった。いつもだったら歩いて一人で帰るのだが、今日はのんびり帰るわけにも行かないらしい。正門には既に亜夜羽と縁がおり、一台の黒塗りの車が到着していた。それを運転してきただろう青年がにっこりと頭を下げる。
「お待ちしておりました、咲乱さん。これで全員ですね」
「思ったけど、他の連中は?」
その問いには亜夜羽がしぶしぶ答える。
「今回は私たちだけよ。時期当主である貴方と次点である私、三守である縁だけ。明日の夜が丁度十六夜だから、今夜から水繰本邸で説明とかあるそうよ」
縁は少し緊張したような面持ちだが、元々親から「次の当主は貴女よ」といわれ続けていた亜夜羽はそっけなくそう言った。運転手は黙ってそれを聞いている。彼は小さく微笑むと後ろの席のドアを開けた。
「さあ、亜夜羽さんも咲乱さんも乗ってください。縁さんは酔いやすいので前に」
縁は一つ頷くと前の助手席へ座る。亜夜羽はさっさと車に乗り込み、咲乱は小さくため息をついた。
(俺が、時期当主か。……理由と利点が全くわからん)

 本邸につくやいなや、亜夜羽は宛がわれた部屋に荷物を放り投げるとそのまま風呂へ向かった。沐浴をし、座禅を組もうと思ったのである。けれど、胸の中によぎるのは疑問だけだった。
(何故、咲乱なの?)
本当はなんとなくわかるような気がするけれど、認めたくなかった。自分よりも優れているとされた咲乱のことを。
(他の子だったら、素直に認められる。なのに……何故、アイツなの?)
乱暴に衣服を脱ぎ捨てながら亜夜羽は考察を続ける。しかし、理由は見つからなかった。幼い頃から咲乱が影では『種』…遺伝子を明け渡すだけの存在…と揶揄され、哂われていたのを知っていた。多くの関係者が彼をいずれ婿養子に出すだろう、と考えていた。しかし、上層部はそれを良しとしなかった。確かに力は女性たちより劣るかもしれないし、当初は当主候補にも挙がっていなかった。けれど…。…微妙な矛盾を覚え、頭が痛くなる。
「……どうして私じゃなくて……縁やほかの女の子じゃなくて……咲乱なの?」
思わず毀れる言葉。途端に、胸の奥で……酷い唸りを覚えた。濃い感情の波が身体の血流に混じっていく。

『不満か?』

不意に、そんな声がした。
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by jin-109-mineyuki | 2008-08-13 19:35 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)