ある野良魔導士の書斎

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ヴァンパイアって、普通太陽に弱いっすけど(クインベリル、こう見えても)


『闇色の令嬢』

「……しばらくまって」
ベルベットの黒いドレスを纏った少女は、小さな声でそう言った。時間は真夜中。月齢の若い月は沈み、暗い屋敷を幾つものキャンドルが照らす。
「かしこまりました、お嬢様」
透き通るように白い肌のメイドはそういい、一歩下がる。少女は一つ頷いて衣服を正し、白い手袋を嵌めた。鏡に映った瞳は、キャンドルの輝きに染まって紫水晶のような輝きを見せる。髪に結ったリボンを直すと、彼女は振り返った。
「行きましょう。今宵は、狩りですから……」
少女、クインベリル・ブレス・エアギアスは幼いながらも妖艶な笑みでそういった。

 リューンより遠く離れたところに、中規模の都市があった。そこは代々公爵である「ヴィエント家」が治める場所で、人々はよい政をおこなう公爵を尊敬していた。

 しかし、それは表向きであり…本当にこの都市を治めていたのはヴァンパイアの一家「エアギアス家」だった。魔族の中ではかなり有名で特にファーデン・アビス・エアギアスはヴァンパイアたちから一目おかれていた。
「罪人の居場所は、わかっているのか?」
白銀の瞳を細め、ファーデンは傍らの執事に問う。彼は小さく目を細め、眼鏡をかけなおしつつ
「調べは付いております。私の部下がその宿を抑えております故、大丈夫でしょう。しかし念のためにナーデシアをお嬢様の警護につけます」
「ありがたい。ケイ、お前の采配にはいつも感心するよ」
「お褒めの言葉、感謝します」
彼は恭しく一礼し、一歩下がる。そしてドアを開くとファーデンによく似た少女、愛娘のクインベリルと黒いメイド服を纏った若い娘がそこにいた。
「まっていたよ、ベリー、ナディ。今宵の狩りは二人に任せようとおもう」
ファーデンは振り返るなり、二人にそう言った。クインベリルの表情が、自然と引き締まる。傍らにいたメイドは、優しく微笑むとそっと肩に手を置く。
「大丈夫ですよ、お嬢様。貴女様ならできますわ」
「ありがとう、ナディ」
ナディと呼ばれたメイドは、その一言に微笑むも執事は真面目な顔で二人を見る。
「ナーデシア、お嬢様を」
その言葉にメイドは頷く。そして、ファーデンはその様子に満足そうな顔をしながらもすぐに引き締め、
「この領内で……しかも私が愛する森で一家を惨殺した上に盗みと付け火…。
 赦しがたい所業だ。血祭りに上げよ」
握り締めた拳をわなわなと震わせ、彼は言う。自警団の警護を盗んで行われた犯行。黒く焼け焦げ、恐怖に見開いた目の遺体。その記憶が、彼の感情を高ぶらせる。
「わかっております、お父様。夜明けまでには狩りを済ませます」
「血は、飲んでかまわないぞ。ナーデシアが望むならその遺体を貰ってもいい」
「ありがたき幸せにございます、ご主人様」
メイドが嬉しそうに顔をほころばせる。その様子を楽しげに見ていた執事は懐から懐中時計を取り出すと、静かに言い放った。
「そろそろ、狩りのお時間です」
「ええ、行きますわ。…必ずや、首領の首を父上さまに」
クインベリルは小さく微笑むとスカートのすそをつまんで一礼した。

 音もなく、踊るように。すいすいと夜闇を行くと、一匹の犬がいた。白い毛並みがふわふわしていてあたたかそうだ。しかし、それはクインベリルとナーデシアの姿を見つけると、すっ、と1人の青年へと姿を変えた。
「お待ちしておりました、クインベリル様、ナディ。奴らは眠っております」
「ありがとう」
クインベリルは青年に礼を述べる。その間にも二人は青年にエスコートされ、一軒の宿へと入っていった。ここの主や他の客はケイの部下達によって案内され、避難を終えていた。ここで、処刑がおこなわれるのだ。
「さあ、はじめましょう?」
クインベリルは、白い手袋をはずす。その細い指の細い爪があっという間に伸びた。鋭いナイフをも思わせるそれで、一つの部屋に滑り込む。中では1人の男がいびきをかいて眠っている。別の部屋ではおそらく奴の部下が眠っていることだろう。眠っている男はぞくにいう「甘い顔」をしており、身体も引き締まっている。
「・・・おもしろくありませんわ。でも…血はおいしそう」
少女はふっ、と笑って音もなく男へのしかかる。無防備な胸へと身体を押し付け、首筋目掛け顔を近づけて。相手はまだ眠っている。どうやら、酒の中に何か仕込んであったようだ。
「死んでもらいますわ」
少女はそういい、男の首筋に牙をつきたてる。刹那、男は目を覚ますも、少女の牙が深々と刺さり、声を上げることができない。恐怖によって身動きもとれず、その甘味なれど激痛の伴う音に顔が引きつった。そして、近くではうめき声が聞こえる。ナーデシアが部下の抹殺をやっているらしい。それに少し微笑みながら、食事を楽しむ。

-罪人の血をすすり、町を護る。

それが、エアギアス家のやり方。
町を裏から守り、表向きのことは人間達に任せる。そして、自分達は高みの見物をしておくのだ。彼らはヴァンパイアであるエアギアス家を「森の貴人」と呼んで慕い、彼らもまた人間達とともに生きる。

普段は太陽の下で。
裁くときは、夜闇の中で。

「……これで、お父様……褒めてくださるかしら」
「ええ。じょうできですわ、お嬢様」
帰り道、クインベリルは首の入った箱を抱えながら呟く。ナーデシアは美しく微笑んでほめるものの、少女にとっては面白みがないものだった。
「なんか、おもしろくありませんわ。どこかへ旅に出たい……」
クインベリルは小さくため息をつくと、一軒の宿が目に入った。
「そこは冒険者の宿です。色々な場所で色々な依頼をこなす人々ですよ」
ナーでシアはそう説明すると、クインベリルはそうねぇ、と微笑んだ。
「いろいろな場所で依頼を? ふふ、それならば、きっといろんな都市を見れる。
 いろんな領主をみれるわね」
なんだろう、その『冒険者』という生き方が、すごく面白そうに思えた。
「勿論、依頼もさまざま。そして、失敗することもあれば、冒険者というだけで忌み嫌う人間もいます。それでもやる気があるならば…」
ナーデシアの言葉に、クインベリルは笑う。
「大丈夫ですわ。……未熟なヴァンパイアなれど、私は…きっともっと強くなって見せますわ」

(終)

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後書き

・・・この話を書くのに『羞恥心』(羞恥心)を聞きながらやってました。
日曜に執筆ってねーよ、俺(血涙)
日付は土曜だけどな。フーレイです。

今回はクインベリルの話。
太陽に当たっても平気なヴァンパイアって実はレベル10は軽く超えるやつなんじゃ……なんて設定を考えつつおもっておりました(第一にじぇんつさん作『ジェーンとニンニクと不死の女王と』に登場するヴァンパイアロードのNPC・ナイアッドがレベル14だし)。バランスブレーカーにならないように、こんな設定になったのですよ。第一に、最初から強かったら面白くないですから!

つまり、彼女もロード級に近いんです。
両親はロード級ですよ。

 あと、パパことファーデンさま。名前の由来はファーデンクォーツ(内部に白い糸状のインクルージョンを含んだ水晶)です。中にできた小さな亀裂が癒着したり、液体インクルージョンが流れ込んだりしてできるようで、愛情や絆に関係する力をもっているらしいですよ?

 これで【六珠】メンバーの冒険者になる前が書き終わったので、こんどはパーティー結成秘話になるかな。まぁ、ギャグになればいいなぁ。
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by jin-109-mineyuki | 2008-07-05 23:41 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】 | Comments(0)