ある野良魔導士の書斎

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・・・・・・・・・・っ(フーレイ、実はデータが1回飛んだ)


 『白銀の翼亭』に程近い小さな教会。そこに小さな少年がいた。真新しい黒い外套で身を包み、暇そうに会談に腰掛けている。しばらくして、一人の青年がかけてくる。赤黒い外套を揺らした彼を見、少年は顔を上げた。
「あれ? ソドム、冒険者になれなかったの?」
「ちゃんとなれましたよ。…それより、貴方にも着ていただきたいのです」
その言葉に、少年は目を丸くした。

同時刻。『白銀の翼亭』の真新しい看板を見つめ、少女は一つ頷いた。
「お嬢様、本気ですか?」
傍らの獣人族…しかも狼…の女性が問いかける。それに、少女は微笑んだ。
「当たり前です。でなければ、お父様と喧嘩してまで旅に出ませんわ」

そして、もう一人。細身の少女が冒険者の宿をいろいろ訪ねていた。
「……どこも魔導士は必要でないようですね。ふう、こまったものです」
少女は小さくため息をつき、再び歩き始めた。

カードワースプライベートSS
『羽搏く翼が集うとき』(中篇)

 ソドムが戻ってくるのを待ちつつ、ヘイストは1人パンを食べていた。新鮮なチーズを軽く火で炙ってもらい、はさむと香ばしい匂いがし、食欲がわく。
「やっぱ美味いよなぁ、これ。うん、新鮮なものが食べられるのは幸せだ」
「そう言ってもらえると嬉しいな。旅の途中じゃ、携帯食が多いから…」
バニッシュはちょっとだけ苦笑していると、再びドアが開く。軽やかに響く鈴。それに二人は顔を上げる。
「ソドムか?」
ヘイストの問いに、入ってきた人物は首を横に振った。白い髪と肌、赤い瞳が目立つお嬢様と、灰色の毛並みと赤黒い瞳が特徴的な狼の獣人族らしき女性だった。首を振ったのは少女である。
「ここは冒険者の宿ですね。……私を冒険者にしてください!」
少女の言葉に、バニッシュがちょっとだけ目を丸くする。いきなりだったので、ちょっと驚いているのだ。しかも、どこをどうみても良家のお嬢様、なのである。
(依頼人、という雰囲気がするけれど……)
バニッシュはそんな感想を持ちつつも、少女をみる。
「…お名前は?」
「私はユイン・バリアスといいます。勉強のためにも、冒険者になりたいんです!」
ユインと名乗った少女は赤い瞳を輝かせてバニッシュにいう。その傍らで、狼の獣人族であろう女性が口を開く。
「名乗り遅れました。私はエレック・レイヴンといいます。ユインさまの従者をしております」
エレックと名乗った女性は恭しく一礼した。身の動きは洗練された戦士のそれだ。第一に、暗い紅の瞳はどこか肝が据わっている雰囲気を持っている。どこかソドムと似ていた。
(この従者がいれば、大丈夫かな)
バニッシュは小さく微笑み、宿帳を用意する。そして、手渡そうとしたそのとき、今まで黙っていたヘイストが口を開いた。
「お嬢様ねぇ。……すぐに逃げ出さなきゃいいけれど?第一に冒険者なんて乱暴な職業、よくご両親がゆるしたな」
「貴様、お嬢様を愚弄する気か?」
ユインが何か言おうとするよりも早く、エレックが静かに答える。平静をよそっているのだろうが、僅かに毛並みが逆立っているようで、怒っているようだ。
(彼女にとって、ユインは主。主をけなす奴は赦さない、か?)
バニッシュが黙ってみていると、ヘイストが席を立つ。そして値踏みするようにユインとエレックを見……へへ、と軽薄な笑みを浮かべた。
「へぇ、そのまだまだ甘いミルクの匂いがするお嬢ちゃんと冒険ごっこ?おふざけじゃねーよ!」
「なんですって!」
ユインがその白い肌を真っ赤にして怒る。同時に髪で隠れていた首筋が露になり、雪の文様が見えた。どうやら、この少女は精霊術師らしい。同時に冷気が流れたが、それをとめたのはエレックだった。
「その言葉、聞き捨てならん……。お嬢様はよりよい領主となる為、冒険者として生き、色々学ぶことを選ばれたのだ。私はその姿をそばで見たい、とおもってここにいる。それを『冒険ごっこ』だと…?ふざけているのはそっちだろう!!」
彼女もユインを護るように一歩前に出る。そして睨みつけるヘイストの目を見てちいさく笑う。
「それとも何か? お嬢様のような愛らしい少女がいると色々妄想してしまうから落ち着いて依頼が受けられない…とでも?」
「ぬかせ、犬っころ。俺はメスガキも犬もお断りなんだよ」
ヘイストは鼻で笑って更にエレックを睨みつける。二人の間に火花がちり、一触即発といえる雰囲気だ。それに慣れているバニッシュはすこしおろおろするユインを椅子に座らせる。
「も、もしかして拙いことになっているのでは・・・」
「ああ、最初はこういうこともあります。一度ぐらいぶつかってもいいでしょう。喧嘩でしたら裏庭でおねがいしますね。真新しいテーブルとかにさっそく傷をつけるのはいやですから」
丁寧に紅茶を注ぎつつ、静かにそういうマスター。二人は互いに頷きあう。
「丁度いい。……表に出ろ、犬っころ」
「ああ、いいぜ……茶色頭の鼠め」
そう言って二人が外へと出ようとすると、止める者がいた。いつ入ってきたのか、バニッシュやユインにもわからなかった。一人の少女が茶色い帽子を押さえながら小さく微笑む。
「お二人とも、喧嘩はいけませんよ?」
その声で、全員が少女に注目する。茶色い帽子にゴーグル、茶色いローブ姿の少女はやんわりと微笑んで一礼する。
「私はサクヤ・シグレと申します。冒険者になりたいと思い、あちこちの宿を回っているのですがどこも魔導士はいらない、と追い出されてしまいました。こちらはどうでしょうか?」
急にそう言われ、バニッシュはすこしきょとんとしつつも宿帳を開く。
「今日オープンしたばかりの宿ですから、魔導士は1人もいません。歓迎しますよ。もちろん、そこの盗賊さん、戦士さんと精霊術師さんも」
「「はぁ……」」
なんか、サクヤという少女が現れただけであたりのムードが和やかになっていた。険悪なムードだったはずのヘイストとエレックもまた、怒気を抜かれている。
「この宿のメンバーとなったからには、お互いに顔をあわせることになります。なかよくしましょう?」
そういい、やんわりと微笑むサクヤに…二人はただただ一つ頷くしかなかった。なんか、喧嘩する気が萎えてしまって……。

(続く)

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……すみません、遅れました。
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by jin-109-mineyuki | 2008-07-01 18:33 | 札世界図書館 | Comments(0)