ある野良魔導士の書斎

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リプレイ、この宿では一応やってるけど(バニッシュ、ちょっち…:汗)


 真っ青な空の下、一人の青年が嬉しそうに看板を見つめている。少し古い宿に似つかわしくないような、真新しい看板。けれども、青年にとってはそれが新しい夢の第一歩なのである。
(この宿に、どんな冒険者が集まるんだろう? どんな依頼が来るんだろう?)
新しく冒険者の宿を経営することにしたこの青年は、元はただの雑貨屋だったのをこつこつと半年かけて改造し、今日、漸く開店させることができたのである。
「よーしっ、がんばるぞっ!!そして、夢のお手伝いをするんだ!!」
青年は両手を天に突き上げ、にっ、と笑った。

彼の名前は、バニッシュ・ローベント。
嘗ては『黄昏の剣亭』に所属した有能な軽戦士であった。
通り名『空舞のバン』

そして、この宿の名は……『白銀の翼亭』

カードワースプライベートSS
『羽搏く翼が集うとき』(前篇)

 その日は、本当によく晴れていた。バニッシュは一人宿のカウンターで食器を拭いている。1年ほど前までは自分も宿の親父さんに「ツケ払え」とかいわれつつもいろいろ助けてもらいつつ冒険者生活をしていた、と思うとなんだか懐かしい気分になる。
(そして今日からは僕がみんなの親父さんになるんだな)
綺麗に洗った食器はみんな、食器を作っている友人から買った者だ。店の改造も大工である友人の力を借りておこなった。ここまでこれたのは友人達のお陰…それも、冒険を当して知り合った…である。
(みんなのお陰でスタートラインにつけた。だから、今度は僕が……)
なんて思っていると、扉が開いた。かららん、と軽やかに響く鈴の音。
「ああ、いらっしゃいませ!お泊りですか?」
バニッシュはさっそく声をかける。自分も、冒険者への第一歩を踏み出したとき、こんな風にいわれたものである。入った来たのは自分より10歳ほど年下だろう青年だ。
「いや、冒険者になりたいと思いまして……」
彼は深い紅の瞳を細めてそう言った。僅かに桃色がかった、癖のある金髪は顎にかかるかかからないか、という微妙なラインで整えられている。外套は暗めの紅。そして、僅かに見えた十字架は聖北教会の信者がよくしているものであった。
(信者さんにしては、衣服が調いすぎている。熱心な信者さんか、僧侶崩れ?)
なんて考えていると、彼は不思議そうな顔をした。
「店主殿、いかがなされましたか? ここは冒険者の宿なのですよね?」
「ええ。ただ、今日開いたばかりで。そして、貴方が始めてのお客…しかも、冒険者志望なんで、嬉しくて…」
バニッシュの言葉に、青年は少しだけ目を丸くした。僅かに現れた耳はやや尖っている。ハーフエルフらしいな、と思っていると青年が口を開いた。
「そうでしたか。なんか、嬉しいですね。
 名乗り遅れました。私はソドム・スカーと申します。来月で30歳です」
「…えっ?」
今度はバニッシュの目が丸くなる。30歳…今のバニッシュの年齢も、30である。さすがハーフエルフ。その年齢に見えない。
「今まで山奥の修道院におりましたが、色々あって僧籍をはずされました。しかし、信仰は捨てておりません。これからどうしようか、と考えていた矢先冒険者になってみたら、とアドバイスを貰いまして、こうして…」
ソドムと名乗った青年は笑顔でそう言ったものの、僧籍をはずされた、ということは物凄く大変なことがあった筈、とバニッシュは認識した。一見貴族の御曹司にも見えそうだが、その瞳は酸いも甘いも飲んだ『賢者』の目。そんな目をしている人間を、バニッシュは2、3人ほど知っている。
(僕が冒険者になったときみたいに、いろいろ言うのは無粋かも)
そう思った彼は真新しい宿帳をソドムに手渡す。
「そうでしたか。…新しい第一歩を踏み出すんですね。僕と同じですね。それじゃあ、これに名前を…」
「はい」
ソドムは一つ頷き、記帳しようとした…が。
「ふぅん、いい雰囲気じゃん」
そんな軽薄そうな声がした。二人が声の方向を見ると…茶色の髪と瞳をした、若干痩せた青年がそこにいた。
「いらっしゃいませ、ようこそ。お泊りですか?」
「いや、冒険者に。そこの兄さん、戦いの術は心得てるみたいだけどよ……最初のうちはパーティを組んだほうがいいぜ?」
そう言ってバニッシュとソドムに笑いかける。彼はゆっくりと歩み寄ると、ぽかん、としているソドムから宿帳をひったくろうとした。が、気づいたのだろう。ソドムはそれを胸に抱く。
「私が先です。順番は、守ってくださいね」
「真面目なことで。……いいぜ、待つよ」
そういい、青年はカウンターの椅子に腰掛け、バニッシュに3枚の銀貨を渡す。
「俺とこっちの兄さんに葡萄酒とパンとチーズを。お近づきの印に」
「そ、そんな…いいですよ。私の分は私が」
宿帳に書きながら、ソドムがいう。が、バニッシュは二人分の食事を用意する。
「まぁまぁ、初めての冒険者ですからこれぐらいサービスしますよ。…で、貴方は?」
「俺? ヘイスト・ヘイズル。ライラック生まれで盗賊を生業にしている」
ヘイストと名乗った青年は出された葡萄酒を一口のみ、そっけなくそう言った。記帳の済んだソドムはふむ、といいながらヘイストに手帳を渡す。
「そういえば私、そこにある陰間茶屋に売られる予定でしたね。まぁ、信仰に目覚めて修道院に行きましたが」
何気なくディープな事を呟くソドム。その言葉にも動じず、バニッシュはにこにこと二人のゴブレットに葡萄酒を注いだ。
「まぁ、野暮なことはいいっこなし、という事で。そこの盗賊さんとパーティを組んではどうです?」
「パーティ…盗賊は心強いですね。しかし私は戦闘術が乏しいですから、戦士がいてくれるといいですねぇ…」
そこまでいい、ソドムはぽつり、と呟いた。
「丁度いい子がいます」

(続く)
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とりあえず、前編。 …更新する日に書き上げちまったよ、これ(涙)。
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by jin-109-mineyuki | 2008-06-25 22:04 | 札世界図書館 | Comments(0)