ある野良魔導士の書斎

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咲乱も案外苦労していたりする(導乱、普段はちゃらんぽらんだけど)


―静かな夜の帳に、ぼんやりと蝋燭に火が燈る。
ややこぢんまりとしたその部屋は、どこか神社の一角を思わせる。上座に座っている老女……というには若い女性は巫女のような着物を纏っていた。彼女の目の前では8人の男女が向かい合って座っている。大半が女性だった。

シルバーレイン プライベートテイル
『17.4』 第一閃

「水繰家、影釣家、土治家、風繰家、火釣家、日治家、木練家、雷練家全当主揃ったな」
上座の女性の声に、全員が頷く。それを確認すると彼女は静に口を開いた。
「水繰家当主、水繰 導乱殿から報告がある。心して聞くが良い」
彼女の言葉に一つ頷き、右側の最前列にいた大柄な男が一同のほうを向く。そして座ったまま顔を上げ、はっきりとした声でこう言った。
「わが愚息咲乱が、この度『能力者』として覚醒いたしました」
その言葉に、揃った男女は目を見開いた。『能力者』としての覚醒は彼らにとってもの凄く意味のあるものなのだ。
「……そんな……」
導乱と呼ばれた男の前に座っていた女性が口元を抑え、悔しげな目を向ける。しかし彼はそれを無視した。ちらりと上座の女性を見、互いに頷きあう。
「猫に変化できるところから『魔弾術士』だと思われます。今後はその力を生かして水繰家を盛り立ててくれるでしょう」
「そこで、儂は考えを改めることにした」
上座の女性の言葉に、全員が息を飲む。導乱もまた、振り返った。
「次の水繰家本家の当主は…導乱の息子…咲乱にしようと思う」
「お言葉ですが」
直ぐに口を出したのは先ほどの女性だった。彼女は僅かに導乱を睨みながら
「水繰家は本来女系の筈。ただでさえ現在男でありながら導乱殿…いや、兄上が当主を勤めているのに今度は息子ですか?私には納得がいきません」
「確かに、水繰家は魔術の観点から相性の良い女性が当主を勤めておるの。影釣 雪路殿」
雪路と呼ばれた女性は白い頬が怒りで赤く染まっていた。それが導乱にははっきりと解かる。相変わらず、兄が当主になった事を不満に思っているらしい。
「しかし、事実能力はそれだけ高いということ。ならば能力が高く尚且つ生命力・統率力に優れた者を時期当主に据えるのが定めじゃ」
上座の女性はそういうと顔を上げた。
「時期当主として水繰 咲乱を定める。次点として影釣 亜夜羽、三守として日治 縁とする。次の十六夜の時に儀式を行うゆえ、導乱殿、雪路殿、節殿は世継ぎを連れてくるようにな」
そういわれ、3人は頭を下げる。しかし、雪路は横目で導乱を睨みつけていた。

―これは、咲乱に『銀誓館学園 入学案内』が届く1年半と少し前の事である。

 咲乱はいつものように起床すると素早く身支度を整えて外にある道場へ足を運んだ。ここは日本舞踊の練習や剣道などの鍛錬で使われる他、魔術の鍛錬にも使われる。彼は毎朝ここで座戦を組んでいた。元々魔力が低いといわれているため、それを補おうと精神力を強化しているのである。足を踏み入れると、既に父親である導乱が木刀で素振りをしていた。これも日課だったりする。
「親父、おはよーさん」
いつものように声をかけると、きりがよかったのだろう。導乱は素振りをやめて額の汗を拭った。そしていつものようににっこりと笑いかける。
「おはよう、咲乱」
いつもなら、そこで止まるが、その日は違った。
「いや、若旦那」

…………?

咲乱と導乱の間に、微妙な空気が流れる。
「親父、もう一度…おはよーさん」
「おはよう、若旦那」

…………………………?

また、微妙な空気が流れた。咲乱は首をかしげるものの、導乱は輝かしい笑顔のままでぽん、と息子の肩を叩いた。
「咲乱、聞け。水繰家の時期当主はお前だ」
「ちょっと待て。今、何気なくさりげなくすげぇ事言わんかったか?!」
異常な驚きようにも動じず、導乱はそうだ、と頷く。そして木刀を肩に担ぎながら言葉を続ける。
「二代連続で男性が当主を勤めるのは初めてのことらしいけど。まぁ、がんばれ」
そう言って導乱はすたすたと道場を出ようとしたが咲乱は手を伸ばす。急にこんな事を言われても困る。第一に当主になる、など考えたことも無かった。
「ちょいまて、親父っ?!」
が、父親の手を掴もうとした瞬間世界が回り、我に返ると天井が見えていた。どうやら柔術かなにかの技を使ったらしい。武術を得意とする導乱に不得手の咲乱が敵うはずも無い。
「決まったもんは決まったんだよ。おめでとさん」
導乱はそういうとからから笑いながら道場を後にする。そして……十分に咲乱から距離をとってから、ぽつり。
「お前は、俺以上の素質があるんだよ。……悔しいがな」

 突然言われた『時期当主』という肩書きに、咲乱は微妙に落ち着かなかった。役目が怖いわけではないが、その役目を知らない上になるのは従姉妹たちだろうと思い込んでいたのでどうもすっきりしない。と、いうよりも
(女の子がいる筈なのに、なんで俺なんだ?!)
という疑問が強かった。

(続く)

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ども。
咲乱が学園に来る前の話です。これからニルギンたちのお題消化にはさんで連載予定。奴の過去も多少にじむんで、気が向いたら~♪

 因みに水繰家関連特有の言葉があります。水繰家の人間は本質が植物らしく、それに関わる符丁をもっています。たとえば『若木』は若者、『新芽』は赤ちゃんや幼児、『老木』はご老体というふうに。そして……『種』というのもありますが……これはいい意味で使われておりません。どんな意味か、は後日(何人かには教えておりますが)。
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by jin-109-mineyuki | 2008-06-17 14:57 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)