ある野良魔導士の書斎

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遅くなりましたが、ヒイロの邂逅編(ジウ、名前のモトネタは慈雨)


忘れはしない。
あの白い世界で包まれた、確かなぬくもりを。

白い雪が、ふわふわと森に降り注ぐ。思ったより早く降り始めたそれに、ジウは表情を曇らせた。備えはしているものの、今年の冬はどうやら長引きそうだ。果たして、足りるだろうか。
「……ジウさん?」
「ジウでいいですよ」
村へ戻る道の途中、ジウは手を引いたヒイロにそういい、瞳を合わせた。どこか虚ろな緑に彼の胸は激しく軋む。
「ヒイロ。今日から貴方は私の子供です」
そういい、微笑んで頭を撫でようとした。が、ヒイロは身を竦め怯えるような仕草をする。思わず手を引っ込め、しばらく様子を見たが、少年はどこか恐々とジウを見つめる。
(少し、時間が必要ですかね)
彼は、内心でヒイロの両親に怒りを覚えた。この子はもしかしたら……。

カードワース・プライベートショートショート
『白妙と黒妙の絆』 (後編)

家に戻ると、ジウの妻・ベルは驚いて…その次に優しく笑みを零した。人買いに売られた子供を連れてくるのは良くあることだったからだ。
「その子が、新しい家族なのね。名前は?」
「ヒイロ、です」
黒髪の少年はそういい、一礼する。が、フードは取らないままだった。それにジウとベルは顔を見合わせ、彼女は屈んでヒイロと目を合わせた。
「ヒイロくん、家の中ではフードを取りましょうね」
「……でも……」
「大丈夫。ここにはいろんな種族の人がいるの。ハーフエルフだからって何も言わないわ」
その言葉に、ヒイロの目が丸くなる。ベルは笑顔で頷き、ジウもまた頷いて頭を撫でる。優しい感触がする。それに、何故だろう、耳の先端まで赤くなって、ゆっくりフードを外した。さらさらした黒髪から現れた、やや尖った耳。それには幾筋の傷が見えた。
(この傷を、見られたくなかったのもあるんでしょうね)
耳に手を伸ばし、そっと傷をなぞるとヒイロの表情が少しだけ痛そうに歪む。それでも、ジウはそっと傷をなぞった。既に治ってはいるもののどうやら自分で傷つけたあとのように思えた。
「でも、父と母は僕の耳が尖っているのが嫌いでした。だから、丸くすれば……。最初はそう思ったんです」
感じたことを察したのか、ヒイロが言った。その声に感情は無い。ジウの指が止まる。そして、両手で頬を包み込んだ。
「いいですか、ヒイロ。ここではもうそんな事をしなくていいんです。キミはここの子供。この村の仲間です」
その言葉に、ヒイロは暫くの間どう反応すればいいのかわからない、といった様子だったが……やがて小さく頷いた。

 ヒイロが孤児院へやってきて一週間が過ぎた。孤児院の子供達は皆、ヒイロに興味を持った。が、まだヒイロは心を開けずにいた。初めて大人数の子供を見たのか、少し驚いているようにも、怯えているようにも見えた。
「ヒイロ、そこにいますか?」
ヒイロが一人部屋の隅で本を読んでいると、ジウがやってきた。ヒイロは未だにフードを被ったまま過ごすことが多かったが、皆と一緒にいるときはフードを取っていた。今も、フードを脱いではいたが髪で耳を隠していた。
「ここには、慣れましたか?」
「………」
ジウの問いかけに、ヒイロは首を横に振る。そして小さな声で
「どうして、僕なんかをここに?」
と問いかけた。ジウは少しだけ考えていたが、やがてそっと……言葉を紡ぎ始めた。
「放っておけなかったから、です」
そういいながら、ヒイロの横に座る。と、少年は不思議そうにジウを見た。
「あの時から、ずっと思っていました。家を守るために、私は売られたのに、貴方は私をここに連れてきた。それでは、契約違反に……」
「人身売買は……やってはいけないことですっ」
どこか強い口調で、ジウが言う。暖かな暖炉の空気が冷えるような鋭い目に、ヒイロは身を固くして竦め、縮こまった。その様子にジウはしまった、と思った。怯えさせてはいけない。
「……ごめんなさい、ヒイロ。私は、人身売買が行われることが嫌なのです。そして、売られていた貴方を見ていられなくなって。全くの偽善もいいところです。でも、私は、貴方を放っておけなかった」
「わからない」
ヒイロは被りを振る。
「どうして、僕なんかに優しくするんですか?なにか企んでいるんですか?どうして僕を抱きしめたり、頭を撫でたりするんですか?」
「それはね、ヒイロ。キミが愛しいからですよ」
ジウはそっと、ヒイロの目をみて答える。
「子供はね、愛されて育てられる存在なんです。たっぷり抱きしめられて、たっぷり頭を撫でられて。暖かいご飯と、やさしさと、少しの厳しさと……。それが、必要なんです」
そういいながら、ジウは自分が泣きそうになっている事に気が付いた。そして、ヒイロは余計にわからない、というような顔になる。その瞳にも、涙の粒が膨れていた。
「どうして…?僕は…家を守るために売られたのに…。僕は…」
静かに、白い頬を涙が伝う。ヒイロは不思議そうな顔のまま、ジウを見上げる。
「どうして、みんな、やさしいのですか?僕は……僕は……」
「いいんですよ」
ジウが答える。
「誰だって、幸せになっていいんです、ヒイロ」
その言葉に、ヒイロは漸く笑みを零した。それは、本当に愛らしい笑顔だった。

 僕は、小さいときから屋敷の奥に入れられていました。お父様も、お母様も、お兄様にばかりいろいろしてくれて、僕には使用人と爺やだけでした。僕はお兄様のようにお父様やお母様に抱きしめられたかった。頭を撫でてもらいたかった。だから、勉強を始めたのです。けれど、何時までたっても、そうしてくれませんでした。だから、家が危ない、と知って…私は売られようと思いました。ハーフエルフは高く売れるときいていたので。これで、やっとお父様もお母様も僕を……だから、幸せになってはいけないとおもっていました。

でも、違うんですね?

ヒイロは、黙ってジウに抱きついた。ジウはそっと抱きしめ、やさしく頭を撫でてやった。
「やさしくするのは、当たり前です。あなたは大切な家族なんですから」
泣き続けるヒイロをジウは抱きしめつつける。
(この子は、心が凍っていた。寂しくて仕方が無かったのに、麻痺していた……)
だから、戸惑い続けていた。けれど、今変わった。この子は、漸く素直になれた。手ごたえを感じたジウもまた、涙を零す。
「我慢しないでください。あなたは私の子供ですから。大切な…大切な…」
抱きしめながら、ジウはいう。ヒイロはうん、と小さく頷き……一つのことをきめた。

もう、あの名前は名乗らない。
今日から僕は、『ヒイロ・セイレン』だ。
ここの子供たち同じように、名乗ろう。
暖かさをはじめてくれた、この人のようになれるように。

   *   *   *   *   *

だから、そう簡単に話したくない。
そんな思いが、あった。今よりも頑なで、可愛げのない子供。学問を鎧にして、凍りついた心を守ろうとしていた自分なんて恥ずかしい。何より、『やさしさ』という絆を…養父との絆を簡単には明かしたくなかった。
(今の苗字が、私の誇り。ジウ・セイレンの息子である、その事が私の誇りですから…)
ヒイロはくすっ、と笑い……一度だけぎゅっ、と自分を抱きしめた。

(終)

・・・・・・・
あとがき
 なかなか納得のいくものが書けなかったので、遅くなりました。フーレイでございます。漸く心を開き始めた幼少のヒイロ。このことがきっかけなんですねぇ。成長後、孤児院と学院をいったりきたりという生活でしたが、今では冒険者。そのきっかけもいつかは書けるならばなぁ、とか考えています。

 そんなジウも実は元冒険者(前に話したかもしれないけれど)。それが吟遊詩人に歌われているぐらいですからねぇ……。

……あ、微妙に長い(汗)
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by jin-109-mineyuki | 2008-06-12 21:36 | 札世界図書館 | Comments(0)