ある野良魔導士の書斎

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良く考えれば、奴の過去もディープ(ヒイロ、実は売られてた)


 がたがたと軋む馬車の中、少年はただ呆然と流れる風景を見ていた。季節は冬。草花は枯れ、冷たい風が頬を弄る。強風が、細い身体を揺さぶって纏っていた襤褸をどかす。
-現れたのは、曇り空に映える白い頬。
少年は慌てて襤褸を被ると、興味なさそうに景色を眺めた。
(これから、どこで使われるんだろうか?どこだっていい。ぼくはこれでよかったんだ。これで、みんな助かるんだ)
曇りのない、けれど光のない、どこか深い泉を思わせる瞳。
それは静けさを孕んだ緑の瞳だった。

カードワース・プライベートショートショート
『白妙と黒妙の絆』 (中編)

「ねぇ、ヒイロさん。ジウさんについて教えてほしいんだけど……」
「何故?」
クインベリルに問われ、ヒイロは不思議そうな顔で言葉を返す。それに少女はえっ、と目を丸くした。
「それは、伝承に歌われる人ですもの。興味がありますわ」
「ただの、優しいハーフエルフの男性でした。それだけですよ」
ヒイロは小さく苦笑して断る。紅茶を口にし、少し頬を膨らませる少女を見ていると、幼い頃の自分を少し思い出す。
「まぁ、いいたくなかったらそれでいいさ。俺たち冒険者はそういう奴が多い。我慢しろ、クインベリル」
物言う猫、パールがなだめるもクインベリルは納得がいかないような顔をしている。ヒイロの口元が緩んだのを見つめながら、むぅ、と唸りスカートの裾を握り締めていた。傍らで、白猫が心配そうに見つめている。
「でも、本当ですよ。伝承については私も巣立ってから知りましたし。私にとって養父は心優しい人だった。ただそれだけですよ」
苦笑し、ヒイロはそういいつつクインベリルの頭を撫でる。耳を澄ますと僅かだが雨が降り始めている。
(そう簡単には、話したくありません。私の宝ですから。それに……)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それは、ジウが『歪の翡翠』に暮らして50年がたった日のことだった。その日は妙に寒く、孤児院の子供達も外で遊ぼうとしなかった。
「……霜の精霊たちが暴れていますか」
外を出るなり、ジウは緑の瞳を細めて呟く。彼の言うとおりで、庭は霜柱だらけだった。比較的温暖な気候であるはずの碧落の森にしては珍しいことだ。彼の故郷である山間の小国では冬場、毎日のことだったから見慣れてはいたが、この集落に着てからは珍しい。
「……そろそろ、買出しに行きますか。今年の冬は厳しくなるかもしれない」
一人呟くと、彼は部屋へと戻り素早く身支度を整える。そして後からやってきた妻ににこりと微笑んだ。
「……今から、少し遠出する。一週間以上かかるかもしれない」

 ジウはなれた足取りで道を歩いていた。買い物の為にポートリオンまでいこうかと考えながら、あたりを見渡すと冷気が身体を包み込む。
(今年は何かがおかしいですね。例年より寒いが……何が起っているんでしょう?)
頬を撫でる風は酷く冷たい。外気にさらされた耳が痛く、何度もこすりながら痛みをごまかした。この痛みが、酷く懐かしい。
(幼い頃は、当たり前でしたね。毎年、冬が来るとここが痛んだものです)
僅かに口元をほころばせると、僅かに空気が震えた。静まり返っていたはずの森に、地面の振動が伝わる。
(?)
不思議に思っていると、馬の蹄と何かが軋む音が響いてきた。どうやら、馬車のようだ。ジウの瞳が細くなる。この道を馬が走ることは酷く珍しい。『歪の翡翠』に暮らす者は馬を使うことが無く、あまり聞かないのだ。稀にやってくる商人ぐらいだろう。しかし、稀に人買いがやってくる事もあり、僅かに身を強張らせた。
「……とまってくれ」
近づいてきた馬車に、ジウが手を振る。と、馬車は止まった。御者は胡散臭そうにジウを見る。冷たい風が木々をざわめかせる。
「ああ、なんだ兄ちゃん。悪いが今急いでるんでね」
「……何処へ向かう?樹海を荒らすものならば容赦はしないぞ」
ジウの瞳が、音も無く研ぎ澄まされる。と、御者は苦笑した。
「荒らすもなにも、俺はただ商品を届けるためだけにここを通り抜けるだけだ。安心しなよ」
「……ふむ。その商品とは?」
そういいながら、不思議そうに首をかしげるジウに、御者は
「何でもいいだろ?行かせてくれ」
と言って馬を走らせようとした。が、馬が動かない。そして、ジウの姿が無い。不思議に思っていると、ジウは勝手に荷台をあさっていた。
「お、おい!!てめぇ、何を勝手に・・・」
「人の売り買いか」
ジウが荷台から一人の子供を抱え上げていた。襤褸を纏った、一人の少年。それ以外の荷物は携帯食と葡萄酒だけだった。少年の足には商品の証である傷と、文様が刻まれている。
「……この国は初めてか? この国は人買いを見つけ次第捕まえて騎士に引き渡すのが決まりでね」
その言葉に、男の頬が引きつった。

 結局、ジウは男を見逃す代わりにその少年を引き取ることにした。元々この国の住人達がエルフやドワーフ、ハーフエルフ…という特性ゆえに、人買いには敏感らしい。ジウもまた、何度か人買いから商品とされた人たちを解放したことがある。
(一旦村に戻るかな)
小さな村の酒場で、ジウは引き取った少年と向かい合いつつ思った。やせ細った少年の目に輝きは無い。ただ、何かを悟ったような瞳をしていた。10歳ぐらいの子供にしては、大人びすぎていた。
「………?」
「……私はジウ。『歪の翡翠』で妻と孤児院を営んでいるんです。キミは?」
襤褸を捨て、自分の纏っていた外套を与えた少年にジウは聞く。と、少年はか細いながらもかすれることなくヒイロです、とだけ名乗った。白い肌にさらさらとした黒い髪。けれど、その顔は中性的ではない。少年独特のはかなさを纏ったその顔に、僅かにだがジウはきょとんとなる。そして、ある事に気が付いた。
「フードみたいにしているけれど、まだ寒いですか?」
そう。ヒイロと名乗った少年は外套を頭から被り、胸元でぎゅっと握っている。頼んだロスティ(ジャガイモを使った料理)や温かいお茶にも手をつけず、ただただジウを見つめて首を振るだけ。
「なら、頭からはずし・・・・」
そこまでいって、ジウは言葉をとめた。普通、フードは室内で取るものである。が、時折室内でもフードを被っている人はいる。その大半が顔や耳を隠しているのだ。そして、その少年もまた……。ジウには、心当たりがあった。
「もしかしてキミは、ハーフエルフなのですか?」
その言葉に、小さく頷くヒイロ。そして、小さな声で
「だから、両親はぼくを売ったのです。……没落しかけた家を守るために」

それで、家族が幸せならぼくはそれでいい。
それで、アーヴェ家が没落しないのならば…それでいい。

ヒイロの言葉に、ジウは席を立ち、ぎゅっ、と少年を抱きしめた。

(続く)

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来週まで続きますよ。
続・後付設定万歳なヒイロのSSでございます。

ヒイロのクーポン「高貴の出」と「都会育ち」について。
 元々ヒイロはある貴族の子で、生まれもポートリオンです。が、両親は人間なのにやや耳がとがったハーフエルフとして生まれてきた為、屋敷の外には出されず表向き死産ということになっていました。ヒイロは幼い頃から学問に興味を持ちました。それは「賢くなったら父上も母上も僕に目を向けてくれる!」とおもったからです(彼の兄は幼い頃から学問をしていて、両親も教育熱心でしたし)。が、両親はヒイロに見向きもしません。

 しかし、とあることがきっかけでヒイロの家は没落へと追い込まれます。色々策を練った挙句、両親は犯罪と知りながらハーフエルフであるヒイロを売り渡したのです。ヒイロは気高い人間で、「名誉こそ命」を持っています。家名を自分が売られることで守られるならば、それでいいと思い彼は反抗せず、売られることを黙認します。家族の温かみをしらなくても、学者を沢山排出したその家を守りたい。小さな誇りが少年を支えていました。

 後編はヒイロが元の苗字『アーヴェ』を捨て、養父・ジウが持つ『セイレン』に変える話がメインになるかと……。

 読み返すと、ヒイロもディープな過去を送っているなぁ、おい(汗)。
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by jin-109-mineyuki | 2008-06-03 19:46 | 札世界図書館 | Comments(0)