ある野良魔導士の書斎

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案外、まとまりが……(ジャスパー、こんな始まり)


『突然の旅立ち』

「師匠(マエストロ)ッ!」
春風に、少女の声が響く。『師匠(マエストロ)』と呼ばれた壮年の女性は小さく苦笑すると立ち止まった。
「どうしたのです、ジャスパー」
「そんな急いでどうするんです?」
ジャスパーは険しい表情で彼女に問い、女性はつつましい笑顔で眼鏡を正した。
「久しぶりのリューンで、少しはしゃいでいたのかもしれないわね」
女性は肩を竦め、歩調を緩める。傍らの少女もまた、彼女に合わせた。
壮年の女性は聖北教会の異端審問官で、名をセイバール・クレソンといい……聖北教会内では『穏健派』のリーダー格といわれている。そして、付き添うのは弟子の少女、ジャスパー・エスファリアといい、ある商人の娘であったが『信仰心』に目覚め修道女となり、のちにであったセイバールの弟子となった。
「私は機会があればラーデックに行きたいですね。まぁ、家に戻る気はありませんが」
「うふふ、少しは丸くなったようね」
セイバールはそういいながら頭を撫でるが、ジャスパーは苦笑する。彼女は既に10代後半の『年頃』なのである。
「……出会った頃はちびっちゃくて、やせっぽちで、そして生意気な顔だったのに」
そんなことを言いながら、セイバールの目は優しく細くなる。記憶の中にある幼い頃のジャスパーを、今でもすぐに思い出せた。
「師匠、行きましょう?……仕事があるのでは?」
ジャスパーの言葉に頷き、セイバールは歩き出した。

 リューンでの仕事を終え、二人はその夜その教会に泊まらせてもらうことになった。そこは比較的新しい教会で、礼拝堂の薔薇窓がとても美しかった。
「すこし華美ね」
セイバールがぽつり、ともらす。ジャスパーも小さく頷き、小さくため息を漏らす。教会の関係者曰く、そこはさる貴族が沢山の寄付をして建てられたものらしい。それに面白くないとおもいながらもセイバールは平静を装い、食事を口にした。
「そういえば……、セイバール様。あの話は聞きましたか?」
不意に、一人の神官が問いかける。彼女は小さく頷くと葡萄酒で口の中にあったパンを流し込んだ。
「名も判らぬ神の子の所業ですね。クドラの隠れ里を殲滅したという」
「それです、それ。また例のメッセージだけが残されていたそうで」
神官はほんの少し興奮した様子で頷き、言葉を続けた。ジャスパーも噂には聞いている。聖北で【邪教】とされている中でも過激派と呼ばれる部類を、次から次へと殲滅していく存在の話。朝には誰も生きておらず、不定なものは浄化されており、ただ《父と、子と、聖霊の御名において》とだけかかれたカードが残されていた……というのが全てである。
(本当かしらね)
いくら神の加護があろうと一人ではできないだろう。ジャスパーはそう思っていた。セイバールはその話を冷静に聞き、2、3何か言葉を返していたが、どれも当たり障りのないものだった。そうこうしていると、別の神官が話し始めた。次の話には、彼女も少しだけ顔色を変えた。
「……バルドゥアが、貴女の事を嗅ぎまわっていましたよ。私の友達がその話を持ってきましてね」
「それは由々しき事態ね。私は彼が有罪を下した人間に無罪を与えた事が何度もあるから……、睨まれているのよね。私が魔女だ、とも言いかねないわ」
「そ、そんなのは嫌です!」
ジャスパーは、バルドゥアに会ったことは無かったが噂は知っていた。そして、セイバールとバルドゥアが犬猿の仲であることも。セイバールとしてはなるべく事を荒立てたくなかったし、穏健派達はリーダー格である彼女を失いたくなかった。
「私としては……まだまだ旅を続けたい。けれど解き放たれた奴が何をしでかすかわからない……」
彼女の言葉に、誰もが頭を悩ませる。ジャスパーとしても、もっとセイバールから学びたいことは山ほどあった。
「そうじゃな。セイバール殿は暫くリューンに留まってはどうだろう?小さな教会ではあるが、丁度人手が欲しかったところでの」
黙っていた司教がそう切り出し、セイバールは小さく頷いた。葡萄酒を一口飲み、そうしたほうがいいのかもしれない、と呟く。
「暫く旅続きだったし、異端審問官を止める手続きだってそろそろ終わるし……いいかもね」
「それじゃあ、私も……」
ジャスパーは勿論、セイバールに付いて行く心算だった。が、彼女は小さく微笑んだ。
「ジャスパーは、冒険者になりなさい」
その一言に、若い尼僧は目を丸くする。思いもよらない一言に、ジャスパーは言葉を失っていた。次に浮かんだのが、破門の二文字でる。すぐに察知したセイバールがくすくす笑う。
「不安に思わなくていいんだよ、ジャスパー。私はね、一つの考えにこだわって欲しくないだけなんだ。旅は色々成長させてくれるから……」
「でも、私は先生のお手伝いがしたんです……」
ジャスパーがしゅん、とした様子でそういうがセイバールは両肩に手を置き、弟子の両目を見つめてこういった。
「手伝いは暇なときにやればいい。私が受け持つ教会は小規模だが信仰厚いご近所さんがいろいろ助けてくれるらしいから」
その言葉に、ジャスパーは小さく頷いた。

 数日後、ジャスパーは冒険者の宿へと歩いていく。が、その途中で一匹の猫と出会うのだが、それはまた別の話……。

(終)
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後書き
とりあえず、1度書き直しました。フーレイです。
実はちょいとパールの始まりにかかわるのです。今、彼女が冒険者をしているのはセイバールがいる教会のためだったりするんです。

パールの話は、多分悲劇になりえない。
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by jin-109-mineyuki | 2008-04-12 15:05 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】 | Comments(0)