ある野良魔導士の書斎

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第一話:目覚めた眠り姫(1)


  「ん…」
寝台の上で、イリュアスが目を覚ます。一見男性のようにも見える整ったハンサムな顔立ち。胸は小さいがふんわりと弧を描き、腰も程よく括れている。力なく横たわっている今はどことなく愛らしく思えるだろう。
「もう、朝か」
彼女はそう呟くとあくびを噛み締めながら寝台を降りた。ここは小さな町の宿で、既に二日ほど滞在している。身支度を整え、部屋を後にすると下にある食堂へ向かった。ここは三階建てで一階が酒場兼食堂、二階と三階が宿になっている。
「おはようございます」
イリュアスは食堂の主人に頭を下げる。ここは友人の叔母が開いた宿で、いろいろと浴してもらっている。経緯を聞いたオーナーは気持ちの整理が付くまでここにいるといい、と言ってくれた。
「おはよう、イリュ。今日の朝食はどうする?」
狼のような耳と尻尾を持つ男が問う。彼は大地の精霊の血を引いているため、こういった姿をしているのだ。
「よかったら砂糖入りのオムレツとバタートースト」
「了解。食後の紅茶は?」
「アールグレイがいいな」
わかったよ、と頷くと彼は厨房の奥へ行ってしまった。そのたくましい背中を見送り、イリュアスは外を見た。澄み渡る青空に雲は一つも無い。
「今日で、一ヶ月か」
告白し、断られてから。そんなことをおぼろげなから考えていると胸の奥が僅かに痛む。もう少し寝ておくべきだったかな、とか、もう少し早く起きるべきだったかな、とか考えているといい匂いがした。給仕をする少女から水を受け取り、喉へ流し込む。新鮮な井戸水は寝起きの彼女を奥底から目覚めさせる。
「イリュアス、久しぶり!」
急に声がし、振り返ると見覚えのある青年が笑っている。片眼鏡(モノクル)をかけ、シャツとベストとロングパンツを身に着けてネクタイを締めていた。同じ傭兵ではあるが、同時にルポライターでもあるエルデルグ・ベイグランドは久方ぶりに友達にあい、ニコニコと笑う。
「君もここに泊まっていたのか」
「いや、友達の家に泊まっているんだ。ここには朝食を食べに」
彼が目で後ろからくる青年を指す。穏やかな顔をした、白い髪の青年だった。
「イリュアスは泊まっているんだね」
「ああ。暫く滞在する心算」
彼女はそういって、もう一度水を飲んだ。
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by jin-109-mineyuki | 2005-02-25 16:34 | 小説:竜の娘(仮) | Comments(0)