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ある野良魔導士の書斎

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ノリ的にはなんか知的な曲をBGMに(カーナさん、顔を上げ……)


 シュウが自警団の詰め所にいくと……仲間である女性、カーナともう一人……長身のエルフが団員に詰め寄っていた。少し遠くからでも判るが、二人とも相当怒っているようである。
「っとに、リューンの自警団は腐るところまで腐ってるわね!」
「第一に考えてみろ!あの子はまだ10歳かそこいらだ。子供がヤるか普通!」
そんな声が、風に乗って聞こえてきた。シュウの記憶が正しければ、一方は有名な冒険者、バルディッシュであった。

『空白の時間』『新人と私』(作:机庭球)より ※敬称略
『This memory is …』 (4) 著:天空 仁

「それだけじゃないわよ! 状況証拠ばかりで、肝心の証拠が少ないのに犯人扱いって聞いたわ!盗賊ギルドの情報収集でももう少しマシな情報を仕入れるわよ!」
「しかし……」
団員はカーナの形相とバルディッシュの表情にたじたじとなっている。
「…疑わしきは罰するってか?おいおい、勘弁してくれよ」
「じゃあ、逆に聞くわ? その子が事件を起こす理由はあるの?無いはずよ」
「それを今当局は捜査しているわけで……」
団員は二人の言葉に今にも泣きそうな顔で応じている。見ている一般人としては思わず団員に同情しそうになるような光景だった。
「あたしの仕入れた情報では、通報者がいて、その証言で捕まえたと聞いたわ。けど、そんなの矛盾に過ぎない、そもそも……」
「そこまでにしておけ」
「あん?」
シュウの言葉に、エルフが振りかえる。呆れた声で近寄りながら声をかけるシュウ。
「まったく……少しは冷静になれ。 感情が先走りすぎてるぞ」
「とはいってもなぁ…。こちとら息子が濡れ衣を着せられてるんだ」
バルディッシュははき捨てるようにいう。
「まぁ、らしくないっちゃそうかもしらんが……な」
つづけて出された言葉は、どこか自嘲を含んでいた。
「気持ちは分からなくも無い。 だが、そういう時だからこそ、冷静にならなくちゃいけない。感情は、時として正常な判断を鈍らせる……お前ほどの戦士なら、それくらい理解できるはずだ。バルディッシュ」
シュウにいわれ、バルディッシュはばつが悪そうに苦笑した。
「そうだな。……確かにそうだ。すまない、な…こんな姿をさらしちまってよ」
そして、彼は傍らのカーナにいい、ぽん、と肩を叩く。
「…だってさ、お嬢さん」
「……分かってるわよ。けど、納得は出来ないわよ!
 あんただって前に同じめにあったじゃない!」
「確かにな。 それに、同業者……ましてや子供が犯人扱いなのは俺だって許せない。だが、ここで喚いた所で、事態が好転するわけもない」
シュウの言葉に、カーナは眉をひそめて言う。
「…っとに、あんたのその達観した部分が偶に羨ましくなるわよ…」
「200年ぐらい生きても、俺には無理だったけどな」
バルディッシュはそう、さらに苦笑してみせるがカーナの言葉には反応する。確かに、彼自身もカーナと同じ思いなのである。
「だからこそ、無実を晴らすために仲間達が頑張っている…。違うか?」
バルディッシュは小さく頷く。
「俺たちに出来ることは、サポートだけだ。解決するのはあの子達に任せて、信用する……それが、同業者にとって重要なことだと俺は思う」
シュウにいわれ、バルディッシュの表情が少しだけ寂しそうになった。やはり息子のことが気がかりなのだろう。しかし、それでも彼はああ、と頷いた。が、自警団員には鋭い眼光を向ける。カーナもまた、自警団員を睨むように見据えている
「……やれやれ」
そんな二人の様子に、苦笑を浮かべながらシュウは紙の筒を取り出し、団員に渡す。
「面会を頼みたい。ここに、ある人物の紹介状がある」
団員は書状を受け取ると一つ頷くとシュウを中へと案内した。あとに残されたバルディッシュとカーナはため息をつく。
「……って、お前は……」
傍らにいた女性の名前を思い出そうと、少しだけ眉を顰める。一度ぐらいは会っていると思うのだが…と。
「ああ、エリザベイト?!『勇ましき戦乙女亭』の…だろ?」
「……え?」
名前を呼ばれて。首を傾げるカーナ。
「誰のことか知らないけど……違うわ。あたしは、カーナ。白銀の剣亭所属の盗賊よ」
「…あー…すまねぇ…。カーナか。いやぁ、悪い…。そうだよなぁ、エリザベイトはもう60年前の冒険者だった。200年生きてると記憶が混合しちまって…」
バルディッシュは苦笑いをした。そして、一礼する。
「俺は見えざる神の手亭の冒険者で、バルディッシュ・ルー。一応『聖闇教会』の聖騎士だ。ま、聖北じゃあ聖闇(おれたち)は異端らしいがな」
「噂は聞いているわ。 良くも悪くも……ってところでね」
カーナはそう言って苦笑する。 世間一般では、冒険者と言う家業はそれほど認められているわけではない
「あははは、そうか。良くも悪くも、か」
バルディッシュは愉快そうに笑う。が、その顔は……酸いも甘いも知ったうえでのそれだった。そう簡単に、人間に浮かべられるような代物ではない。カーナはそう思った。
「ええ。 それに、今回の事件でまた……冒険者の風当たりは強くなりそうね」
「まったくだ。これで真犯人も冒険者だったら目も当てられない。
 せっかく築いていた信頼関係も崩れるかもしれない」
「あら? そうかしら?」
カーナの言葉に、バルディッシュは肩をすくめる。
「人間ってーのは案外薄情なやつもいる。祭り上げておいてちょっとした他人のへまでも、叩き落す。そんなヤツらを見てきていると……多少勘繰ってしまうのさ」
「そう。 けど……死んだ母さんが言っていたわ。
 『その程度で崩れる信頼関係は、塵にも等しいもの。
 本当に、冒険者を信頼している人は、どこまでも信じる人だっている』ってね」
どこか懐かしむように、遠くを見るような眼で言う
「あたしは、それを信じたい…。 母さんが信じつづけたように……」
「若いねぇ、カーナ。確かにお前の母さんの言葉も一理ある。けれどな…そう信じていたとしても…崩れるときは崩れるのさ。どんなに硬い信頼だとしても小さな罅が不信を生む…」
バルディッシュはため息混じりにそういい、どこか遠くを見るような目でもう一度ため息をついた。
「カーナ。お前の母親は……心が澄んでいたんだな。俺とは違ってよ」
「あら、そう言うあんたもじゃない?」
「?」
バルディッシュはカーナの言葉に首をかしげる。
「俺が?…んな訳ねぇよ…」
「養子といっても、そこまで信じる人はいないわよ。それに……忘れたくても、忘れられない人……そんな人がいるって目をしてるわよ、あんたは」
カーナの微笑に、バルディッシュが困ったような……それでいて、どこか参ったような表情を浮かべる。大人特有の、どこか寂しい笑みを。
「…一本、とられたかな?」
「さて、ね。 けど、疑うも信じるも、結局は自分次第よ。仮に、あんたの大切な人が無実で捕まって……あんたはそれを一瞬でも信じる?」
クスッと笑いながら、問いかけるカーナ。
「いや。信じなかったな……っ」
バルディッシュは降参だ、とでも言うように手を上げた。
「矛盾、してるわよね?」
そんな様子に、カーナはクスクスと笑いながら続ける。
「それと一緒よ。信頼は絆になれば、信じられるものでしょ?」
「判ってる。俺がそいつは一番わかってんだよ…。ったく、お前は……。やーっぱ、エリザベイトに似てるわ。いい冒険者になるぜ」
「あら、お褒めに預かり恐縮ね」
バルディッシュはその言葉に小さく微笑み、
「シュウが戻ったら、二人ともおごってやる。で、序に捜査の手伝いでもすっか?」
「いいわよ、別に。 ただ……」
「ただ?」
カーナの言葉に、バルディッシュは思わず聞き返す。彼女は眉を顰め、
「……あの時と同じように出来すぎているのよ、この事件。いくら自警団が馬鹿でも、すんなり行き過ぎてる」
「俺もそれは思うんだわ。だから一応色々聞いてはいるんだが…。第一、あの議長さんが血なまぐさくてねぇ」
「……いいえ、あたし達のときにも、シュウが似たような事件に巻き込まれたわ。その時の犯人は……『身内』よ。うちの宿の……ね」
「身内…ね」
「…ええ」
カーナの声に、バルディッシュは僅かな戸惑いと悲しみを覚える。そして……小さく呟いた。
「ありえるわな。実は…ある身内が…」
そこまで言ったとき、鐘が鳴る。……夕方の鐘だ。
「……時間も少ないわね。 シュウが戻り次第、仲間と合流しないと…」
「そうか。……またな。俺は現場に行ってみる。ま、もう何もないかもしれねぇが…」
そう言って、バルディッシュは彼女に背を向ける。そして
「シュウによろしくな。一度手合わせしようってな」
そう言って、雑踏の中に消えた。その様子に、カーナは笑顔で言う。
「ええ、伝えておくわ」
だが、バルディッシュを見送った後に小さく呟いた…。
「……祈りたいわ。 この事件、『身内』による犯行じゃないことを…」
その言葉は、風の中に消えていった……。

(つづく)

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あとがき
しつこいようですが、これは作者である机庭玉さんへ送ったリプレイに加筆・修正したものです。
…長くなったので、後一回。
・・・・・・あっけないいわないでね;

フーレイ
by jin-109-mineyuki | 2008-03-18 20:49 | 札世界図書館