ある野良魔導士の書斎

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冬の雨は妙に身に凍みる(パルチザン、路地裏で一人体育座り)


ざわざわ…… ざわざわ……

人の気配、血の匂い、女の人の匂い
地面の冷たさが、細い体をじくじくと刺し続ける。
「…時……分、婦女暴行及び殺害の容疑で、逮捕します」
ぐい、と引かれる手。
「な、何ですか!?」
「とぼけるな。殺したのはてめぇだろうが」
少年は顔を上げる。けれど、その目は僅かな明暗しか解らない。
「この少年は、目が見えないようですが…」
「…最近の子供はマセてるからな。それに…」
人の声が、手が、少年を引っ張りあげる。
(ど、どういうこと!)
少年はパニックに陥った。
なぜなら、彼には……記憶が無かったからだ。

『空白の時間』『新人と私』(作:机庭球)より ※敬称略
『This memory is …』 (1) 著:天空 仁

 あの事件から多分1年経っている。そんな事を思いながら少年は顔を上げた。あの時は本当に大変だった。仲間たちが助けてくれなかったら、自分はここにいなかった。
「…あいつの推理が、なかったら…」
そういいつつ、白い髪をかきあげつつカウンターに座る少年の方を向いた。自分より年上の、緑色のローブが似合う、黒髪の人狼。しかし、いつも優しい笑みを浮かべているその顔には淡い影が降りている。狼の耳も伏せられ、力なくカウンターに頬杖をついている。その姿は彼には見えないが、感じる気で、かなり元気がない、という事がわかる。
「優しすぎるから、陥れやすかった。それが、悔しい」
そのときの事を思い出すと、胸が痛んだ。

―こんな私でも、先輩と見てくれる人がいて、嬉しいです

そういって笑った仲間の声が、頭に残っている。
「パルチザン…」
パルチザン、というのは人狼少年の名。彼の仲間であり、恩人の1人である。声に気づいたのか、少年は顔を上げた。そして振り返り、小さく微笑む。
「フランベルジェじゃないですか。どうしたのです?」
「依頼を探して」
フランベルジェと呼ばれた少年は、隣に座りながらそう言った。カウンターの内側にいたマスターは二人にミルクを出すと「おまけだぞ」といってクッキーを出してくれた。
「あ、あの…さ…」
実を言うと、少し気まずかったりした。フランベルジェは数日前の事件でパルチザンと少しばかり衝突してしまったからだ。

 二人は元々別々のチームで冒険をしているのだが、時折同じ宿の子供たちだけで【子供連合】というチームで冒険をする。そこそこ名が通っており、この宿では売り出し中のチームだった。しかし、名が通るというのはそれだけ妬まれることもあり、何者かが彼ら6人の始末を依頼したらしい。しかも、凄腕の始末屋に…。

 「彼」は冒険者になりたい、という女性に扮してこの宿にやってきた。そして、パルチザンにこう言ったのだ。
―あなたに憧れていました
前の依頼の時、彼は1人の少女を己の弟子にしていた。それもあったし、元々パルチザン自身がお人よしというのもあり、照れながらも受け入れた。そして、二人だけで依頼を受けた。それはある荷を届ける、というモノ。その時点で、いやな予感がした。が、様子を伺う。他のメンバーには町に遊びに行こう、といっておき、とりあえずその女性を泳がせることした。その隙にメンバーであるテッセン、エイデン、クレイモア、エペと共に女性について調べあげた。その時に真実を知る。パルチザンに「憧れていた」と言った女性は実は男で、しかも相当の悪らしい。しかも依頼人も、依頼人の故郷となった場所も虚実だらけ。最初からそれは仕組まれたことだったのだ。同時に、パルチザンの危機を感じ取る。

(パルチザン、無事で……)
実を言うと、フランベルジェはあせっていた。大切な仲間を失うのは嫌だから。恩人を失うのは、苦しいから……。
「きっと大丈夫だよ。あの子は頭がいいから、見抜いているって!」
エペが明るく答えるも、フランベルジェの中から不安は抜けない。パルチザンは、時折掛け値なしで人を信じるところがある。そこが前々から危ういから注意しろ、とは言っていた。けれど…。
「今回ばかりは…見抜けないかもしれない」
クレイモアが、息苦しそうに答える。剣帯に下がる刀の音も僅かに鈍い。
「それにしても、今回は相手が悪かったですね。何もない状態で嘘を見破るのは難しいことですし…」
エイデンが唇を僅かにかみ締め、その隣でテッセンが険しい表情で遠くを見つめていた。
「とりあえず、片棒を担いでた女は見つかった。上手く抱きこめてるけど…人間って、金に弱いよね。ま、欲には勝てない人間は多いって事だよね」
どこか疲れたその声に、魔術師はそういうものよ、と笑ってこたえた。
「それじゃ、行きましょうか」

道すがら、フランベルジェは三度溜息をついた。パルチザンはきっと何も疑っていない。
いつも『そこが危うい』と思ってて、言っているのに。
(僕のせいだ)
そんな事を思ってしまう。

それなのに。

チームで「彼」を倒した時の事。パルチザンは酷く悲しそうだった。
「相手を探ることこそ、信用していないってことじゃありませんか?」
不意にこぼれた言葉が、酷く痛い。嘘に気づかなかったのは、相手に無関心だったから、というような、誰かの言葉を言ったことが、酷くパルチザンを傷つけてしまったようだった。しばらくの間、言葉が止まる。が、人狼の神官は祈りを捧げ、手にした剣で「彼」の首をはねた。
「これは私の役目ですから」
酷く震えた声が、何故だろう。フランベルジェには自分を責めているように聞こえた。

「彼」の墓を作るその背中は、酷く震えていた。涙を堪え、首のない亡骸を一度だけ抱きしめて、穴に横たえる。
「パル……」
名を呼ぼうとしたフランベルジェを、エイデンが止める。彼はただ首を横にふり、それに従った。そっとしておいたほうがいい。それが、【子供連合】の仲間として……。
「行こう」
エペが、ようやく微笑んで、振り返ったパルチザンに手を伸ばす。が、彼は狼の耳を伏せて力なく一つ頷いただけだった。

後日ふと、彼は呟く。
「誰かを騙して傷つけるくらいなら、自分が騙されて悲しい思いをするほうがいい」
その声は酷く悲しくて、何故か胸が酷くきしんだ。

 あれから一週間はたっている。が、パルチザンが元気になる様子はない。他の仲間達も心配している。だから、思い切って声をかけてみたが……なんて言えばいいのか解らない。
「どうしましたか?」
パルチザンが問う。さあ、なんて言おう?また……傷つけてしまうかもしれない。どうしたら傷を開かないで話せるだろう?しかし、パルチザンはそんな心配を知らないようだった。ちょっとだけ微笑んで、口を開く。
「そういえば、一年前でしたよね。貴方が事件に巻き込まれたのは…」
「えっ…!? あ、ああ…あれか」
いろいろあって、フランベルジェは忘れていたが、パルチザンに言われて思い出す。
「実は、情けないですけど…その事もあってなかなか立ち直れなかったんです。
 1人でゆっくり考えてましたけど、やっと元気になれそうです」
彼はそう言ったけれど、フランベルジェには、それが強がっているようにしか思えなかった。やっぱり、一週間もうなだれている姿を見せられたくはないよね、と思ったのだろう。どこか、必死になっている気がする。
「無理、しなくていい。ゆっくり、でいいんですから」
フランベルジェはそういい、そっと、パルチザンの手を取る。
「僕も言い過ぎたよ。ごめん…」
「謝らないでください。悪いのは私ですから」
首を振る神官。しかし、フランベルジェは言う。
「悪くない。君は何も悪くない。悪いのは騙す方なんだから。それに…」
そういいながら、少年は一年前の事を思い出す。
「僕も、あの時の事は……思い出すと息苦しいから」

(続く)

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あとがき?
ども、フーレイでございますよ。今回も机庭球さんの作品を……。
面白かったシナリオを三つ立て続けにリプレイにできるかなぁ、と思いチャレンジした結果がこれになったわけでございます。
因みにこれは机庭球さんへ送ったものの一部でございまして、多少修正もあったり?
ってな訳で、来週もよろしく。

予告
多分有名すぎるだろう某シリーズもリプレイ化できたらなぁ~。
そう思いつつもシメが思いつかないぜ。
シリアス方面へ突き進むんだなー、これが!!
笑いの神様降りてこないかな・・・・・(ぼそ
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by jin-109-mineyuki | 2008-02-26 20:20 | 札世界図書館 | Comments(0)