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ある野良魔導士の書斎

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・・・・・・・・・・シオンと比べてはいけない(サードニクス、なにがあった)


『つめたいばしょから』

つめたい、さむい、いたい。
おなかがすいた。いきぐるしい。いたい。
……どおして、ぼくは、ここに、いるのかな…

空に重そうな雲が満ち、風は刃物のように鋭い。季節はまだ秋に成り立てだが、その日はとても寒く思えた。
「……………っ」
ゴミ置き場の傍で、小さな影が蠢く。良く見ると、それは黄緑色の髪と瞳をした、白い肌の少年だった。眼には生気がなく、曇り硝子のよう。そして折角の肌は煤や垢や土で汚れていた。着ている物も粗末なもので、髪の毛も伸び放題だった。それを項で一つに纏めている。
「探さなきゃ」
少し干からびた、か細い声が漏れる。少年はここの所3日も水だけで我慢していた。路上で暮らす彼にとって、食べ物を探すのは一苦労だ。本当ならばスリでもして奪えばいいのだが、少年にはそれが出来なかった。まぁ、時折置き引きはしたが。
(…なにか、美味しそうなのはないかな)
少年はそんな事を考えながらゴミや、野良犬が散らばるスラムを歩き続けた。

 少年は、最初からスラムで暮らしているわけではなかった。物心がついたときは貴族が住むような屋敷で暮らしていたのである。けれど、そこの子供ではなかった……と思う。覚えているのは『この失敗作め』とか『なんでお前はそんなに性能が悪いんだ』とかそんな言葉ばかり。何人もの白衣を着た人間たちが少年の周りにいた。そして、自分のような子供も沢山…。それなのに、自分だけが何もかも上手く出来なかった。掃除も、洗濯も、魔術も、歌も。
(だから……捨てられたんだろうな)
と、しか…思えない。ある日、1人の若者に手を引かれてここへ来たものの、「しばらく待っているように」と言われて、そこから路上生活が始まった。丸3日若者が迎えに来るのをまっていたが、彼は二度とここへ戻らなかった。路上で暮らす子供たちの多くは、透き通るように白い肌と、宝石のような黄緑色の眼を持つ少年を、気味悪がって避けていたので、親しい人間はいないといっても過言ではなかった。
(でも、いい……。1人でも…)
少年はふぅ、と溜息をついた。そして、瞳を細める。

…このまましんでもかまわないや…

だって、ぼくはだれにとっても「いらない」んだもの。
ここでこのまま、つめたくなってもいい。
このまま、ここで。

つめたい、さむい、いたい。
おなかがすいた。いきぐるしい。いたい。
くるしい、さみしい、いたい。
いらない、しにたい、いたい、いたい、いたい…

「…お、おいっ!」
不意に声がした。ゆっくりと瞳を開けると、ベールをつけた青年が自分を抱きかかえていた。ベールで少年の身体を包み込み、心配そうに抱きしめる。
「気がついたか。今教会に連れて行ってやる!多分一晩の宿を貸してくれるに違いねぇ!」
そういって、青年は少年を抱きかかけてスラムを走っていく。何も言えなかった。「何故?」とか、「どうして?」すら言えなかった。訳がわからなかった。何処にでもいるようなスラムの子供を抱きかかえて「教会」へ連れて行こうとするなんて。
「…衰弱が酷いな…。でも心配するな。きっと治癒の術をかけてくれる。で、美味しいスープを恵んでくれるさ。こんな時に教会はありがたいよな」
何故だろう、訳がわからないけれど、胸の奥が少し熱くなった。

その数日後、少年は助けてくれた青年から「冒険者にならないか」と誘われた。
少年は二つ返事で受け入れ、頷いた。
そして、初めて名乗る。
―サードニクス、と。

(終)

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あとがき
妙に冬場っぽいですね。フーレイです。このSSは思いついてすぱぱぱぱ~、とかけました。というか…サードニクスというキャラクターが誕生した時点で「SSはスラムを舞台にしよう」と決めていましたから。彼が自分の正体に気づくのはもうちょっと先ですが、まぁ、マイペースに綴りますんでよろしくお願いしますね。(一礼)
次回はジャスパーの話です。
by jin-109-mineyuki | 2008-02-23 13:39 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】