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ある野良魔導士の書斎

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のっけから飛ばします(スズキ組が行く)


リューンの下水道。
遺跡をそのまま使用している、というそれを通る7つの影。
「それにしても、バイトはまったく……」
そう呟く眼鏡の青年以外は、どうかんがえても冒険者としか考えられない衣服を纏っている。おまけに一羽の猛禽類がいた。彼らの目の前には、ゴミが積んであるが、何かが見えた。
「ふむ、どけてみよう」
鷹とおもわしき鳥はそういい、翼でゴミを払う。と、なにやら銀色の塊がすこし見えた。天頂部に取っ手のようなものがあり、側面にはなにやら古代の文字が彫りこまれている。
「何かしら?」
不思議そうに女性の前で、眼鏡の青年は声を張り上げた。
「…ろ、ろ、ろけっとらんちゃぁ?」
訳が解らない。その場にいるメンバーも首を傾げ、興味深そうに見つめる。が、それに飛び乗った鷹は、こう言い放った。
「こいつはいい物を仕入れた。もっていこう」
「…冒険者って変わっていますね」
眼鏡青年の言葉に、緑色の髪をした青年が肩をすくめる。
「いや、変わっているのはこの鳥だよ」

カードワースシナリオ
『奇塊』(作:齋藤 洋)および『新月の塔』(作:机庭球)より
※敬称略

『朔の宴は倒錯の味』

リューンの下水道掃除から3日後。一羽の鳥が剣をまじまじと見つめつつ呟いた。
「……まぁ、結果から言えばアレはある意味豊作よ」
「ってなんでまた古代兵器があそこにあるんだよ」
傍らの青年は鳥に対してつっこみをいれる。鳥はそうだな、と苦笑するように身を震わせ、嘴を開く。
「俺に解るもんか。まぁ、どっかのだれかの置き土産だろ?」
「スズキ、よくもまぁそれで…」
青年が何か言おうとしたが、スズキと呼ばれた鳥は目を細めて睨む。
-言うな-
鳥はそういっているようだった。
「わりぃ」
「いや、いいよソウキュウ。それにしても、次の依頼があるんだ。それに備えろ」
スズキはそういうと嘴で自慢の翼の手入れを始める。ソウキュウと呼ばれた青年はへいへい、と気の抜けた返事を返した。その背中に、鳥はさらにこういう。
「例の箱、持っていってくれ。…あとシのつく危険物も。なんか妙な予感がする」

 一方、宿の裏では小柄なエルフの少年が真面目に剣を振るっている。その真剣な眼差しに、見ていた女性は小さく微笑む。
「相変わらずですね、王子」
「そう呼ばないでよ。僕はここじゃ、ただの冒険者なんだから」
女性の言葉に、少年は苦笑する。彼の手には細身の剣……『クラウソナス』が握られており、しっかりと手になじんでいるようだった。鍛えなおしてもらったそれは、どこかうれしそうに見える。それが少年にも嬉しいらしく、表情が明るい。
「それにしても、その剣…似合いますね」
不意にそういわれ、少年は少しだけ頬を赤くする。
「プリムプラムさん、からかわないでください」
「うふふ、ダートはあいかわず照れ屋ですね」
緑のローブのすそを握り、プリムプラムと呼ばれた女性は笑う。ダートと呼ばれた少年は、小さく肩をすくめ、再び剣の素振りを始めた。その姿をみつつ、ローブの女性はやんわりと瞳を細めた。

 一方、宿の一角。一組の夫婦が紅茶を飲みつつ苦笑しあっていた。
「それにしても、なんてふざけた生き物ですかあれは。倒したとたん汚水に流されるとは」
青年は溜息混じりに頬杖をつく。その背中から生えた純白の翼を一度動かし、溜息を吐く。
「そうよね…。あの後匂いを取るのに大変だったし。
 でも、下水道での依頼はまだありそう」
同じように溜息を吐くのは若い女性。水色の瞳と髪が魅力的だが、いつも凛々しい表情は曇っている。
「シリウス、貴女もたまにはそんな顔をするんですね」
青年がそういいつつ紅茶を入れなおす。シリウスと呼ばれた少女…とも言える女性はそうね、といった上で夫である天使に微笑みかける。
「まぁ、これでも人の子ですもの、リーガルト」
リーガルトと呼ばれた青年はふふ、と小さく微笑んだ。
「兎に角、明日には依頼がある。今日はゆっくり休んでおこう」
彼はそういい、妻の髪をそっと撫でた。

…冒険者の宿【礎の神話亭】の看板冒険者チーム『スズキ組』…
この6人は、まだ…今からおこる事を知らない。

 次の日。スズキたちは森を歩き続けていた。長い時間森を歩き続けていたが、何か、表情は冴えない。依頼は妖魔退治であったのに、なにもないのだ。
(これは、騙されたのかもしれない)
そうおもった面々は引き返す事を選んだ。そのはずだったのだ。
刹那、ふとこぼれる甘い香り…
「!?…ちょ、ちょっと!!」
スズキは嘴を翼で覆い、身構える。仲間たちは次々に倒れ、なぜか彼女だけが残ってしまう。激しく爪で揺さぶるが、誰も目覚めない。
-まるで、気絶するかのように。
そして、仲間たちは全員姿を消した。ただ仰天する一羽の鷹を除いて。
名を呼んでも返事はない。
苛立ちだけが肉体を支配する。
(くっそー、ソウキュウがいないと元の姿にも戻れやしない…)
木に体当たりしてみるが、何も変わるわけではない。一羽途方にくれていると、どこからともなく男の陰湿な笑い声が聞こえた。
「どうやら、想定外の事が起きてしまったようですな…」
距離を置きつつスズキ組をみていたという男は気づかれずあとをつけるのに苦労した、と肩をすくめてスズキを見る。そして、こう言ったのだった。
「なんといいますかね、あなたたちから嫌な予感がしましてね。
 そしたら案の定、計算外の事が起こってしまったではないですか」
人間の第六感はこわい、といいつつも、その男からはどこか余裕を感じ、スズキは僅かに男を睨む。
「それで…あなたは確かスズキ…さんでしたっけ?」
スズキが黙っていると、男は依頼主と雇われた人間の関係を持ち出す。
(ジェネラス・ベルセゾン、最初から俺たちを騙す気でいたのか!?)
そう、奴こそがスズキたちに依頼をよこした張本人だったのである。

目的は、冒険者を生贄に悪魔召喚をすること。
そのために偽の依頼を出した。
その事実にスズキの瞳が鋭くなる。
「頭、両手足、胴体…」
「そう、6人分の生贄がね」
ジェネラスは小さく微笑み、不思議そうにしゃべる鷹を見つめる。強力な催眠ガスを使った筈なのに眠らなかった鳥を。
(趣味でんな事するなよな)
半ば呆れ気味にジェネラスを見つめ、スズキは内心で溜息を吐く。しかし、相手は趣味で学んだとはいえ強力な魔術師である。用心するに越したことはない。相手は今、スズキを殺す気はあるらしいが『面白くない』と考える人間である。とっさに鸚鵡返しのように問いかけ、表情を険しくする。
(つまりは、仲間の命を商品に、ゲームをしようって魂胆か…)
ルールは簡単。
ジェネラスが死ぬと仲間も死ぬという呪いを解くために1人でパズルを解くこと。
舞台は『新月の塔』

「やってやろうじゃないか(検閲削除)め、この『スズキ組』に喧嘩売ろうとは」
スズキの言葉に、ジェネラスはどこか嬉しそうに微笑む。
「それは私への褒め言葉ですか、スズキさん?」
「いや、違う」
スズキははき捨てるようにいい、ジェネラスを睨む。
「お前に、誰一人渡さない。
 ダートはいずれある国の王となる。
 ソウキュウには3人の妻がいる。
 リーガルトとシリウスは結婚してまだ半年しかたっていない。
 プリムプラムは将来国の宰相になる事が決まっている。
 そんな未来の仲間を…」
彼女はそれだけいい、一度溜息を吐く。
(俺なんかと違って)
「未来がある仲間を、生贄などにはしない!」

(続く)
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あとがき
『新月の塔』の前に『奇塊』でゆるゆる質をとりこんだフーレイです。正しくは…まぁ、魔剣工房で仕入れた剣を打ち直させるために使い切らせる為だったわけですが…
おかげでこんなプロローグ完成。
って…当時『山間の村』リプレイが白紙状態なのにこれに手を出してしまった(をい)。と、いうのもCWユーザーの友人が「おもしろい」と言っていたので(攻略ヒントを教えてもらいつつ)むくむくとやりたいなー、という思いがふくれあがって
DL→れっつプレイ→同時進行でリプレイ?
となりました。

補足程度に言いますが、スズキ(パーティーリーダー)は鳥です。猛禽類です。
元々は別に正体がありますが。で、エルフの少年、ドリアッド(木の精霊っぽい種族)、ホムンクルス、天使、人魚の仲間とチーム組んでいます。・・・今思えばスズキだけ眠らなかったのは、彼女の正体の所為なんじゃなかろか、と思ってしまう。と、いうことで本編のリプレイもおたのしみに。前編・後編の二つに分けてお届けします。

おまけ。
冒頭には名前が出ないもののダスキン・モップくん登場。
ビンゴーっ!!
おまけに別シナリオのアイテムも…。
付箋がばれているだろうが、まぁ、気にしないッ!
by jin-109-mineyuki | 2008-02-05 20:40 | 札世界図書館