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ある野良魔導士の書斎

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とりあえず、あとちょいつづきます(フーレイ、次回を考えて)


『朔爛漫』【5】

 その夜、バルディッシュはエルフたちの村に戻り、1人宛がわれた小屋のなかで昼間の事を考えていた。エルフを嫌う領主。反対にエルフをかばう領民と娘。
(そういえばあのお嬢様…いい眼と声だったな。それに匂いも)
思い出すと、少し顔がにやける。上玉と行動できた上に、いっしょに食事も出来たのだから。しかし、領主と遭遇したときの顔を思い出すと、胸がチクチクする。
(心から笑ったら、どんなにいい顔だろう)
曇った表情の彼女は、見ているともの悲しくなる。だから、どうにか笑顔が見たかった。そうすれば自分も嬉しくなる。そんな気がする。
―いっその事、私を掻っ攫ってみない?
そんな言葉が、脳裏を過ぎる。領主の娘・キィフェに言われた言葉だ。
(なかなか気骨のあるお嬢様じゃねぇか)
悪戯っぽい笑顔でそんな事を提案するキィフェは本当に愛らしい。吸い込まれそうなほど澄んだ瞳で見つめ返されると鼓動が跳ね上がる。
(これって……まさか、な)
なんだか落ち着かない。キィフェの顔を思い出すと頬が熱くなる。とりあえず休もうと考えたバルディッシュは水を飲み干すと寝台に身を投げ出し、毛布を体に巻きつける。しかし、しばらくの間はキィフェの色々な表情が脳裏を過ぎり、なかなか眠ることが出来なかった。

 その日から、二人は時折顔をあわせ始めた。最初のうちはキィフェの仕事をバルディッシュが手伝ったり、反対にバルディッシュの仕事をキィフェが手伝ったりするものだった。そして、領民の農作業を共に手伝っていた。しかし、いつの間にか二人はそれぞれを深く意識するようになり、夜にそっと逢瀬を重ねるようになった。

 バルディッシュが村に滞在して1年と少しが経ったある日のこと。キィフェは必死に馬を走らせていた。時々後ろを振り返り、追手の有無を確認する。
(父上の横暴は腹立たしい。けれど私が結婚すれば父上は引退する。…私はどうすればいいんだ)
キィフェは馬の上で唇を噛み締める。そして、深く溜息をついた。

 領主は自分の娘がエルフの男と恋に落ちた事を密偵から聞いて激怒した。が、その時丁度見合いの話を貰っており、これを口実に別れさせようと考えたのである。それを聞いたキィフェは目を見開いた。彼女は将来ここの領主となって、父親の横暴な政治から領民を解き放とうと考えていた。過去のようにエルフと人間が共に生きる場所にしようと。それを知っている領主はキィフェが見合い相手と結婚すれば領主の座を彼女に譲る、と持ちかけたのです。まぁ、彼が進めた見合い相手は敬虔な聖海の信仰者であり、意見も自分に近い。キィフェを丸め込んで大人しくさせることも出来るだろう。そう、考えていたのである。

 しかし、キィフェはそんな事ぐらいわかっていた。それと同時に深く悩んだ。彼女が今愛しているのは黒髪と赤い瞳が美しいエルフの聖騎士、バルディッシュだけなのだ。しかし、父親は彼との婚姻を認めない。いや、もしかしたら殺意すら持っているかもしれない。
(あの人以外の誰とも結婚なんてしたくない。けれど、私はここにいなければ…)
いまは、ただ、彼にその事を打ち明けたかった。

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あとがきというか、なんというか…なんか急かした気もしないでもない。
しかし、もともと考えていたんだけれども若干色々あります。まだ続くけれど、どうなることやら。つか、なんか端折り感は無視して!頼むから!!

 因みにバルディッシュの話の次は過去に書いたリプレイを。知っている人間はごく僅か。でもシナリオは有名かもしれない。やったこと前提でみてくれると嬉しいかもしれない(ネタバレは多少ある?)。
by jin-109-mineyuki | 2008-01-15 17:58 | 札世界図書館