ある野良魔導士の書斎

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『むげファン参加者に30のお題』より 29:ごめんなさい


その笑顔は、もう…見ることは出来ない。

『ごんなさい』

それは春の初めだった。1人の女性が静かに息を引き取った。
白い髪と肌、ノソリンの耳と尻尾をもった、綺麗な女性だった。
あとに残されたのは夫と1人娘だった。

男は、1人亡骸を見つめていた。
妻だった女性は、冷たく、固く、静かに横たわっていた。
男はその白い肌に優しく化粧を施した。
「……アルカンド、もう苦しくないなぁ~ん?」
紅を乾燥した唇に差しながら、男は問う。その目は酷く震え、今にも泣き出しそうだった。それでも涙を零さないのは、のせたばかりの頬紅を落とさないため。最後だから、せめて美しく送り出したい。それが、夫としての勤めであり、妻への弔いである。男はそう思っていた。
「守れなくて…ごめんなぁ~ん」
男はそういって髪を、首筋を撫でる。そして、いつものように唇を重ねた。

葬儀は穏やかに進められた。
雨の中、白木の棺は静かに運び出される。森の中にある墓地へと続く葬送行列。その先頭には妻への贈り物を抱いた夫の姿があった。その手には、幼い少女の手が握られている。
「パパ、ママはどこへいくなぁ~ん?」
少女は小さな声で父親に問う。彼はただ墓場への道を見つめながら答えた。
「遠いところ、だなぁ~ん」
「遠いところって、どこだなぁ~ん?」
少女は更に問いかける。が、父親は何も答えない。
「ママはどこへ行くんだなぁ~ん?」
尚も問いかける少女の頭を、父親はただ何も言わず撫で続けるだけだ。
少しずつ近づいていく墓場から、土の匂いがする。
遠くを見ると、何人かの村人が穴を掘っていた。
「遠いところって、土の中なぁ~ん!?お母さん、閉じ込めるなぁ~ん?」
少女の声に、父親は静かな声で
「そうだなぁ~ん」
そっと肯定した。

母親の棺が、土の中に入っていく。
その瞬間を、少女は泣きながら見つめていた。
「ママ、ママ……」
呼びかける声に父親は歯を食いしばって娘を抱きしめる。
「ママ…、ママ…」
白木の棺に、その上に置かれた贈り物に、土が被せられる。二度と会えなくなる悲しみが、人々の胸を締め付ける。土が落ちるたびに、少女の目から涙が毀れた。
-これが、えいえんの“さよなら”
少女は思った。こんなに悲しいものなんだ。「大切な人が死ぬ」って寂しくて苦しくて、悲しいことなんだ。冷たい悲しさが、深く胸に突き刺さる。
「なぁ~んっ!なぁ~んっ!!」
少女は叫ぶ。ノソリンの声が墓場に広がる。それに続くように村人たちもなぁ~ん、とノソリンの声で涙ながらに叫び続ける。別れてもまた会えるように。生まれ変わって出会えるように。そのために叫び続ける。
その時、ふと……少女の耳に声が聞こえた。

-ギーエル…ごめんなさい

(終)
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えー…ギーエルの母が死んだときの話です。
テーマに合っているのかな。つか、二話連続悲しい話ですね;
アルカンド・カンツバキは白いノソリン耳&尻尾で愛らしい女性でした。
だから夫であったリリシャールは深く愛していたんですがね。
それだけにずいぶん凹んだそうです。

使用お題
『むげファン参加者に30のお題』(すみません、製作者は誰ですか:汗)
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-31 14:37 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)