ある野良魔導士の書斎

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フライングぎみにクリスマス(冒険者、聖夜祭も大変)


冒険者の宿【水繰の剣亭】:8
【六珠】のクリスマス狂想曲

12月 23日。
1人手紙を届けに言ったジャスパーは困惑した。届け先の領主はそれに覚えがないという。許可を得て開いた手紙は訳の解らない古代の文章
―顔のみならず、罪をも洗い清めよ―
小都市ルーシャムの町を歩きつつ宿に戻りながらジャスパーは溜息をつく。
(どうなっているのかしらね)
もう日が落ちた。親父の金で止まっている宿にさっさと帰ろう。【水繰の剣亭】に戻ったら文句の一つでも言わないと。泊まっている部屋に入るなり、ジャスパーは寝台に寝転がる。
(なんか、気味が悪いわね)
そう思っているうちに、眠りへ落ちていく。明日は聖夜なのに、ついていない。
そんな事を思いながら。

丁度その頃。1人オニキスが暇を持て余していた。彼は数週間前の依頼で怪我をし、療養を言い渡されていたのだ。
(この翼で飛べばいいんですが)
そんな事を思っていると1人の青年が夜食を買いにやって来た…が、オニキスの目には見覚えのあるような影がちらついた。
「……?」
見覚えのある影の纏う気に息を呑むが、平静を装ってその青年と話す。そして後ろの影を問おうとしたが、サンドイッチが出来上がる。青年はそれを持って出て行ったのだった。
(気になる)
オニキスは何気なく夜の街へ飛び立つ。低空飛行ならそんなに体力を使わない。そして、入り込んだ路地で…彼を見つけ…その影に気づく。
「驚いたな。私を感じた上に話しかけるとは」
「…死神、ですね?」
以前にも付き合いがありましてといいつつオニキスは苦笑し、彼に話を聞く。死神…天寿を全うした魂の担当。名を162-44と言った…は青年が明日死ぬので、その魂を狩りに来たという。
(死神カラスのように殺しに来たわけではないか)
その事に安堵しつつ、彼は青年を背負う。その暖かさで目覚めた青年の要望どおり家へと運び入れることにしたのだった。

 質素な家の中、青年が入れてくれた紅茶を手に、オニキスは青年…ハルヴァンと名乗った…や死神と話しつつ悩んでいた。天使としては天寿を全うしたのならば死神に魂を渡して、安らいで欲しい。しかし、ハルヴァンは命を懸けて小説を書こうとしている。
(…魂が、輝いている。これが、死を前にして尚事を成そうとするものの…)
死神はハルヴァンの寿命は明日の朝までだ、と言っていた。でも小説はのこり数日。間に合わない。未完のままだと、未練になって自縛してしまうのではないか。
(死神も、楽ではありませんね)
皮肉めいた苦笑を死神にむけ、オニキスはハルヴァンに死神の事を伝える。それが、天使としての役目。
「…やはり…。私の予感は正しかったのですね」
オニキスは頷きつつ眼鏡をただし、死神を見つめた。死神はオニキスの背中で輝く純白の翼を見つめ、流石天使だな、と苦笑した。そして彼の考えを読んだかのように口ずさむ。
「寿命で死ぬ場合、命の力が尽き果てる。……その時がくれば終わりだ」
「けれど、天使としてそれは見過ごせません」
だから、ハルヴァンには最後まで書くんだ、と説得する。
(きっと何か…ある筈。昔、天界にいた時に死神に伝わる延命法がある、と噂を聞いた)
オニキスは死神を見つめる。そして、一つの可能性を懸けて食い下がる。その方法が、ある筈だ。彼の目が、死神の目を射抜く。暫くして、死神は頷いた。
「…お前の寿命の一日分を、ハルヴァンに与えればいい…」
「それぐらいならば、お安い御用ですよ」
オニキスは純白の翼を広げ、にっこりと微笑み立ち上がった……。

12月 24日。クリスマスイブ。
家族で過ごすもの、恋人と過ごすもの、一人で過ごすもの、とさまざまだ。
そして、【水繰の剣亭】に所属する【六珠】もまた…。

朝9時。1人暖かい猫用ミルクとささみで朝ごはんを取っていたパールの元にリューン自警組合のディルクがやってくる。風邪が流行っているので、一日だけ手伝って欲しい、との事だ。パールは毛並みを整えつつけっ、と言った。
「そう言わずに手伝ってやったらどうだ、パール」
親父にそういわれ、パールはへいへい、としっぽをぱたぱたさせる。
「聖夜に寝込むって大変だな、揃いも揃ってさ」
「ま、人間だからな。しょうがないさ。で、内容は市門警備。時間は午後4時から明日の朝8時。200spに好物のローストササミをつける」
「…乗った」
パールはそういい、しっぽをぴん、と立てた。

同時刻。目覚めたジャスパーは朝食を食べ終えると受け取ったチラシを手に美術館へ向かっていた。一人だけで美術館に行くのもいいかもしれない。彼女は軽い足取りで美術館へ入る。パンフレットを手に回って見ると、色々な彫刻があった。
(どれもこれも素敵ね。でも…なぜかしら。狂気が見えるわ)
聖職者である彼女は、どこか負の纏う違和感を覚えていた。一通り見終え、馬車に乗って帰ろうと思ったのだが…その扉は開かない。
「…ちょっと、これ…何…ねぇ、警備員さん!」
彼は、正常にものを言わず、訳の解らない言葉を並べて沈黙した。
「……やっぱり、何かあると思ったわよ」

正午ごろ。子供コンビのサードニクスとクインベリルはお使いをしていた。クリスマスに必要なものを買ってくるのだ。ちょっとお小遣いが貰えるならば。
「今日は活気があるね。何の日だっけ?」
「…サードニクス。今日は降誕祭ですよ。忘れるなんて」
クインベリルの言葉に、サードニクスは少し苦笑する。が、内心ではなんか悲しい。
(降誕祭…いい思い出がないな)
なんて思っていたところで宿の親父に出くわし、親父…ツリーに激突する。
→ツリー、壊れる。
シャムレイド家のツリーを直すため、サードニクスとクインベリルはお屋敷へとやって来た。シャムレイド氏曰く彼の息子さんのお嫁さんが敬虔な聖北教徒らしい。それ故に降誕祭にはちょいと五月蝿いのだという。
「だったらうならせるくらいのツリーにしなくちゃ」
サードニクスはにっこりし、クインベリルと共に森へ出かけた。

1人リューンから離れていたアンバーは帰りにペンダントを届けて欲しい、という依頼を受けていた。綺麗なそれを見つめていると馬車がくる。交渉してどうにか7spで乗せて貰い、うとうとする。最近寝不足なのはペンダントを受け取ってから見る夢の所為…。
(何故、何度も俺は…母子の死ぬ瞬間を見なきゃいけない…)
その所為で目の下にはクマが出来ていた。アンバーは溜息をつきながら、夢へと落ちていく。案の定、同じことが繰り返された。
優しそうな旅籠の女主人とその子供。
容赦なく殺していく若い男。
血にぬれた、瀕死の男の子が…悲しげに呟く。
『ママの匂いがしない』
それが、夢の全て。

警備員は狂ってしまった。ドアの鍵は開錠しても開かない。壊すことも出来ない。
(何なのよ、これはっ!)
情けないと思いつつジャスパーは声を張り上げる。が、違和感があった。外から花にも聞こえない。まるで、ここが世界から隔離されているように……。
「やっぱり、ね」
諦め、出口を探して美術館を巡ることにした。順路を辿ると合ったはずの像は姿を変えていた。奥の像も姿を変えている。そして、瘴気が漂っていた。聖職者としては早く払いたいものだ。奥にいた鳥のような物体が、問う。
-ソレハナ~ンダ?-
ソレとは…?ジャスパーは手に持っていた手紙を開こうとして…止めた。

午後3時。街中を歩きつつパールは小さく溜息をついた。そうだ、2年前の聖夜祭までは普通の姿だった。それなのに今は白い猫。この姿でも冒険者をやれるのはいいのだが、早く戻りたいものだ。そしたらこの町を歩く人たちのように…心から笑えるだろうか?
(ふん、俺らしくない。さっさと行こう)
パールは首の鈴を鳴らしつつ道を行く。目の先に見知った冒険者がいた。軽口を叩きつつ挨拶をし、白猫は仕事に向かった。そろそろ日が沈む。

(せめて、夢の中であの賊を返り討ちに出来たら)
アンバーは馬車の中でそう思った。高位の僧侶や知り合いの聖騎士だったらこの子を慰められただろうが、アンバーはただの舞踏家でしかない。
(……っ)
やりきれない気持ちを胸に、アンバーはグレイブを手にしたまま眠る。と、すぐに夢は始まった。女主人はにっこり笑った。
-よく手入れされた武器…。もしかして名だたる戦士さま?
アンバーの手には、愛用のグレイブが握られている。こんな事は今まで無かった。が、そろそろくる。記憶が正しければ、あの男はやってくるのだ。
アンバーの読みどおり、男は来た。そして、返り討ちにする。
「坊や、これで………っ!」
しかし、そこに女主人はいなかった。ただ、血にぬれた男の子がいるだけだった。
「覚えているんだ。ママも、僕も…殺されちゃったんだ。ペンダントも取られて…」
許さない。あの男の子の声で、アンバーは目が覚めた。そして、獲物には確かに血がついていた。
(……くそっ、どうすればあの子を助けられるんだよ!)

サードニクスとクインベリルは苦労の末いい樅を取ってきた。…が折角見つけた樅の樹では驚かれてしまった。改めて取ってきた椴松では駄目だといわれた。
「はぁ…また森に行かなきゃ…」
「ドイツトウヒ……探すしかないよ」
落ち込むサードニクスをクインベリルが励ます。

ジャスパーは1人違和感だらけの空間にいた。鳥が消えた後、瘴気の奥へ踏み込んだのだ。彼女の目の前ではベンジャミンらしき男が彫刻を黙々と彫っている。
(…哀れな人ね、これだけの空間を生み出すなんて)
ベンジャミンは彼女に色々と話を聞かせてくれた。しかしジャスパーにはそれが悲しく虚しく聞こえていくだけ。ただ、彼女は聞いていた。
「もういい、たくさんよ。…生命の核は死…物質の本質は停滞?停滞という真理を追究した結果がこの虚しく冷たく馬鹿馬鹿しい世界ですって?それが理想郷だというのなら…神の名において止めて上げるわ」
「………」
「見落としているでしょうけど、どんな人にも妖魔にも平等なのは死だけではなく生もなのよ。それなのに留めて遊んでいるなんて、1人遊びに過ぎないわ。だから…私はここを出て行くッ!」
ジャスパーの手から、光が迸る。迷える霊を解き放ち、その空間を揺るがしていく。光の奥でベンジャミンが身をかがめているのが見えた。そう、彼もまた…。
(貴方も、もう死んでいたのね)
ジャスパーは、光がやんだ荒野に立っていた。

アンバーは手がかりを探すため、ペンダントを見つめた。馬車のおっさん曰く、ペンダントに香水を入れて持ち歩く風習のあるところがあるらしい。
「前の持ち主の香水が、入っているかもしれないぜ」
そう言われ、あけてみると……優しいにおいがした。どこかほっとする、優しい匂い。まるで…
(母親のような…)
その瞬間、アンバーはなにかつかめた気がした。そして、あの男の子が伝えたかったことも。彼は少し眠る、というとペンダントを首にかけ、グレイブを持って眠りに就いた。
-夢は、音も無くアンバーをいつものように誘う。
アンバーは躊躇いも無く、あの男を倒す。そして、母親の匂いを探す男の子に、小さく微笑むのだった。
「アンタのママはいないけどこれをよすがに眠るといい。だから…」
ペンダントのふたを開けると、優しい香りがした。男の子は、やはりこの匂いを捜していたのだ。そのためにペンダントをあけて欲しい、と持ち主たちに夢を見せていた。
(おやすみ…坊や…)
アンバーは小さくそういい、消え行く男の子の頭をそっと撫でた…。

どうにか見つけたドイツトウヒを屋敷に持っていくと、シャムレイド氏は喜んでくれた。
「少しはこれで認められるかな?」
「だといいね」
2人は疲れも感じさせず、人ごみの中を駆け出す。そして、サードニクスは小さく微笑んだ。
(これから、楽しい思い出を…作ればいいよね?)

ジャスパーが宿に戻ったときは既に日も暮れていた。彼女の話を土産話だといって聞かない親父に、彼女は肩を竦める。
「聖夜に恐怖体験なんて、私らしいわ。迷える霊を助けたのよ。少しは信じてよ」
「あはは、悪い。ま、これでも飲んで機嫌直せよ」
そういって親父が出したのは、アーシウムの赤だった。
「ふふ、ま、許そうかな」
ジャスパーはそういいながら芳しいアーシウムの赤を口にした。

午後11時。パールは礼拝の鐘を耳にしつつ見張りをしていた。雪の中外に立つ白猫は景色にすっかり溶け込んでいる。
「休憩にいってこい」
そういわれ、小屋へと入れられると先に休んでいたメンバーがからころと笑う。それにけっ、といいつつもパールは用意されたスープに口をつけた。聖夜の夜に風邪でも引いて家族と過ごしたいやつらの事を思いつつ、暖炉の近くで丸くなると、すぐに眠りに就く。けれどまた目覚め、門番をしなくてはならない。時間が来ると、パールは小さく溜息をつきつつ起き上がるのだった。

25日。
「…ん?」
パールが耳を澄ます。と、鈴の音がした。
(えらく狼どもが騒いでる…)
良く見るとソリが走ってくるではないか。乗っていた村人は子供が熱を出したので医者を呼びに着た、という。医者はすぐに来た。パールはすっくり立ち上がる。
「俺が同行する。腕には覚えがあるからな」
未来ある子供に死なれるのは癪だ。パールはもの言う猫に驚く医者、ザックスを尻目にソリへ向かう。
「な、名前は…」
「パール。水繰の剣亭の冒険猫さ」
そういうとパールはソリの戦闘に乗り、森を見つめた。ザックスと村人・ヨーハンが乗り込み、出立すると目を細める。狼どもがいることを、肌で感じているのだ。白い毛が逆立つが、彼は叫ぶ。
「俺が、あんたらを守る。…狼どもの事は気にするな!」
突き進むソリの風を感じつつ、落ちないように爪を立てて。そして襲いかかってきた狼達に向かってパールは牙を向けた。しかし、狼の爪と猫の爪では戦闘力が明らかでパールの毛は赤く染まる。
「パール、しっかりしろ!」
ザックスが、パールに治癒の術を施す。パールは気合一身爪をふるい、ソリを勧める。そうこうするうちに村人たちが迎えに来てくれていた…。

夜明け頃。
冷たい風が吹く。オニキスは朝焼けの外を見つめ静かに頷いた。彼の目の前には机に向かったまま息絶えたハルヴァンと、冷めた飲みかけの紅茶があった。ハルヴァンをベッドに横たえた後、オニキスは原稿に目を通した。
「…素晴らしい…」
何故だろう。彼の瞳からは、静かに涙が流れていた。そして、ハルヴァンの死に顔は、どこか誇らしく、嬉しそうな笑顔だった。

ソルダ村。子供はザックスの治療により助けられていた。スープを与えられ、暖炉の前で丸くなっていたパールはふわり、優しく降りてくる掌で我に返る。
「……ん?」
「お前のお陰だ、パール。本当に助かったよ」
「ありがとうごぜぇますだ、先生…パールさん…」
そう言われ…パールはちょっと照れくさそうに毛づくろいをしてみせた。

【六珠】のメンバーが宿に揃ったのはその日の朝だった。それぞれ眠たそうな顔だったり、悲しそうだったり、気だるそうだったりしたが、皆が揃うと自然と笑顔になった。
「皆おはよう。そして…ハッピーメリークリスマス!」
アンバーがそういうと、皆も口々に挨拶をする。
「やけにすがすがしい顔ですね、アンバー」
オニキスはいつに無くそっと、優しく笑う。それを不思議に思いつつサードニクスはアーシウムの赤をオニキスのグラスに注ぐ。
「皆も、なんかそんな顔だね…」
「ま、いろいろあったのよ、色々と…」
ジャスパーが相槌をうち、パールもそうだな、とどこか感慨深そうに呟く。
「一口に聖夜って言っても、いろいろあるんだよ」
「でしょうねぇ……」
そういいつつクインベリルは枕もとにあった熊の縫い包みを抱きかかえ、嬉しそうにしている。サードニクスは前から欲しいと思っていた手袋を貰っていた。それがなんとなく嬉しくて懐に入れている。皆、楽しそうに笑っている。それが、サードニクスには嬉しかった。
「んじゃ、七面鳥を食べようよ!皆昨日食べてないんだから!」
「そうだな。皆でさっさとお祈りして食べようぜ!」
アンバーの言葉に苦笑しながらも親父がニンニクスープを用意してくれる。皆で祈りながらも、サードニクスは暖かい気持ちになっていた。
(続く)
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今回遊んだシナリオ(敬称略)
聖夜の守護者(竹庵)
聖夜の死神(F太)
降誕祭の樹(オサールでござ~る)
Goodnight, Boy(ほしみ)
B.U.Gallery(ヒロタ)

※一部聖夜に関係のないシナリオですが、気にしない!
 いつもとちょっと違うけど…書き方が!!!
 そしてめちゃくちゃ長いですけどッ!!
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-22 17:11 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】 | Comments(0)