ある野良魔導士の書斎

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しかし、奴を愛したって相当…(フーレイ、キィフェが凄い人に見えてきた)


『朔爛漫』 【2】

 現在のアレトゥーザからほど近い、ヘイルダム領。その昔、多くの『不浄なるもの』を討伐した功績から【侯爵】の位を貰った騎士がいた。その土地は日当たりがよく、森の恵みにも恵まれた穏やかな場所であった。尚且つ、治める人間も温厚で人柄がいい、との評判であった。
――しかし、それも先代までの事。
5代目の領主、オズバーン・シャナ・ヘイルダムは人間以外の種族を嫌い、特にエルフを嫌っていた。そして、聖北教会を厚く敬うのは良かったが森に暮らすエルフたちにも『改宗』を迫ったのである。当然、エルフたちはそれを断った。が、オズバーンはどうにかして、森のエルフたちを自分の領地から追い出したい、と常日頃思っていた。何故彼がエルフを酷く嫌っていたのか。それは彼が死んだ今も明らかにされてはいない。

 そんなオズバーンには1人だけ娘がいた。本来ならば6代目の領主となるはずだった、キィフェ・シャナ・ヘイルダムである。キィフェは美しい歌声の持ち主でもあり、人々はその優しい歌声に惚れていた。領民たちは皆『キィフェは歌の精霊の申し子だ』と言い合っていた。また、キィフェは利発的且つ健康的な娘で、多くの民に好かれていた。右に困っている人があれば駆けつけ、左に困っている人がいれば駆けつける。そんな娘で、病弱な母を時々はらはらさせてしまっていた(これには申し訳ないと思っていた)。それは森に住むエルフたちへも同様だったため、父親とはあまり仲が良くなかった。

その日も、キィフェは1人野山を黒毛の愛馬・ペルセポネと共に駆けていた。籠には山で取れた新鮮な野苺。そして、前に乗せていたのは幼いエルフの子である。脚には包帯が巻かれていた。
「大丈夫?傷は痛まない?」
「うん、大丈夫。ありがとう、キィ…」
エルフの女の子は小さく微笑んで答える。キィフェはもうすぐだから、と言って馬を走らせる。早く、この少女を村に返してやりたい一身で馬を急かす。少女の怪我はそんなに酷くは無い。血も止まっているようだったが、父や兵士に見つかったら何をされるかわからない。
「でも、不思議だよね。村の皆とかキィはやさしいのに…領主はエルフを追い出そうとする」
子供が不思議そうに問う。が、キィフェもまたその理由を知らない。聞こうとしても、答えてくれないのだ。
(理由はどうあれ私は…)
彼女は形のよい唇を噛み締め、一心不乱に馬を走らせた。
 暫くして、馬はエルフたちが暮らす村に到着した。若者たちがキィフェの姿を見るなり歓迎し、キィフェは馬から下りて歩き出した。エルフの子もまた馬を降り、父親らしき男に抱きついた。
「カゲロウ、どこへ行っていたんだ!」
「あたしね、人間の町に行ってたの。エミーとお人形遊びをしてたの…」
その子は父親にそういうものの、父親は厳しい顔で人間の町に行くな、と叱る。その姿を見ると自分の父親の所為だな、と胸が痛くなる。1人立ち尽くしているとその父親は顔を上げ、気まずそうにキィフェに頭を下げる。
「すいません、キィフェ。この子が世話になったようで」
「森を歩いていて、怪我をしたようで…。大した怪我でなくてよかった」
安堵の息をつきながら、助けた少女の頭を撫でていると…ふと、見覚えの無いエルフの姿を捉えた。この村にはいない黒髪のエルフだ。外見では自分より5つほど年上に見えるが、実際にはどれぐらい生きているかわからないのがエルフ族である。助けた少女も外見は10歳ぐらいだがもっと生きているらしい。
「あの人は?」
「そいつは『聖闇教会』の聖騎士さまさ」
父親は親しげに答え、言葉を続ける。
「つい最近ここへ来たんだ。なんでも長老様が頼んでいた本を届けに来たらしい」
説明を聞きながら、キィフェの目は黒髪のエルフを捉える。『聖闇教会』は彼女も知っていた。この大陸でもちらほらと聞く多神教信仰で、中心は闇と命の神だったかと思う。『聖北』やら『聖央』やらは異端として見ているらしいが、『聖闇』は彼らが祭っている神も信仰対象であった。『聖闇』にとって、彼らの神は光の秩序の神なのである。その聖騎士が、目の前にいる。キィフェは興味を持った。
(不思議ね。エルフなのにエルフ独特の雰囲気が少ないし…)
彼女は動き出していた。目に映る滑らかな黒髪と、それ以上に魅入られそうな深紅の瞳。そして小麦色に焼けた健康そうな肌。細いが鍛え上げられた体を黒い衣服で包んだ、長身の男。
(野性味のある空気を纏っている)
少し近づいて見ていると、男と目が合った。瞬間、何故か息が詰まるような感覚に陥るが、男はにこっ、と笑いかける。
「見かけない顔だな。…しかも人間…。へぇ、ここは人間とのやり取りがあるんだな」
「今は愚かな領主がエルフを追い出そうとしていて、町の人々はどうにか邪魔しているけどね」
キィフェは苦笑して肩をすくめる。男はどこも大変だよな、と苦笑すると手を差し伸べる。そして、こう言った。
「俺はバルディッシュ・ルーという。よろしく」
キィフェは一瞬ぽかん、としたものの慌てて手を握り返す。
「私はキィフェ・ヘイルダムよ。こちらこそよろしくね」
バルディッシュの手の大きさと肉刺を確かに感じていた。彼女は知っている。その手は細身の剣を扱っている、と。腕までは解らないが……。手から伝わる暖かさがキィフェにはなんとなくくすぐったく思え、頬が赤くなる。
「じゃあ、キィフェ…すまないが人間の町を案内してくれないか?」
その言葉に、キィフェの目が丸くなった。

【3】に続く
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前・中・後の予定が、どうやら5、6まで行きそうな予感。
3では遂に濃いが動き出しますよっ!
しかしバルディッシュは何故人間の町に興味を持ったのか。
…物語にそんなに関係しないことがひとにとっちゃきになるかもしれないけど。
親父とのやり取りは考え中。
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-18 13:40 | 札世界図書館 | Comments(0)