ある野良魔導士の書斎

fureinet.exblog.jp
ブログトップ

つづいて、おっさんの…若気の至り?話(フーレイ、色々考えた)


『朔爛漫』 【1】

 その夜は、見事な満月だった。墨色の空に浮かぶ黄金は、柔らかい光を大地へと零し続ける。そして、本来暗いはずの道をすうぅっ、と浮かび上がらせるのであった。同じように照らされ、つやつやと光る風が、勢いよく駆けて行く。
-馬であった。
逞しい脚で道を蹴り、弾丸のように突き進む。雄々しい蹄の音だけが、その空間を支配していた。よくみると、その上には夜闇よりも黒いローブを纏った男が乗っている。背後には対照的に白いローブに身を包んだ、線の細い女性。逞しい男の胴に腕を回し、必死にしがみついているように見えた。
(まだだ。……まだ早く…)
男は只管目指す方向を睨む。赤い瞳は険しくなり、更に鋭さを増した。彼の笹の葉を思わせる耳は絶えず後ろを警戒しているように動く。その耳でエルフであるのは一目瞭然である。彼は背中にしみこみ続ける温もりを嬉しく思いつつ、女性にこう言った。
「もう少し遠くまで走ろう。……今夜は野宿になるかもしれない」
「ええ、覚悟はしてましたから気にしないで」
女性は楽しげにそう言った。が、僅かに震えているのは風の冷たさからだけではない。彼女はちらり、と後ろを振り返り……影が見えない事に安堵した。
「今の所、お父様の刺客は着ていないわ」
「そうか…。しかし、そろそろ街道からそれたほうがよさそうだな」
男はそういうと馬に鞭を入れる。そして、近くの雑木林へと馬を進め街道から反れる。きっと彼女の父親は2人を捕らえるために追っ手を向けているだろう。そして、ここは彼女の父親が持つ領地である。男にとっては不利な逃亡劇だった。しかし、雑木林へ入り込み、そのまま突っ切れば領土から出ることが出来る。その事を男は知っていた。それに彼はエルフである。自然と多少心を通い合わせることは出来た。
(頼む、俺たちを守ってくれ…)
彼は内心でそう祈りつつ、雑木林の不安定な道のりを突き進んだ。

 月明かりが、枝と枝の間をすり抜け、2人を斑に染め上げる。領土を越え、更に雑木林の奥へと逃げてきた2人は少し開けた場所で馬を止めた。岩場から水が湧き出ており、小さな川が東のほうへ続いている。男はそこから水をくみ上げ、火にかけた。女性は木の切り株に腰掛け、持ってきていたパンと酒と紅茶を男のかばんから出し、食事の用意を始める。
「俺たちの始まりにしては、丁度いいな」
少し苦笑しつつ口を開いた男に、女性は空色の瞳を輝かせて微笑む。まるで桜の花を思わせる、凛々しい笑顔。それを守るためにならば、なんだって出来る。男はそんな事を密かに思った。
「そうね…。まだ、貴方が用意した家まではちょっと遠いけれど…」
そんな事を言いつつ、湯が沸くのを待つ。少し肌寒くなり、女性は男の傍へと歩み寄った。
「バル、貴方も座ったら?」
「あ、ああ…」
バル、と呼ばれた男は頷き、女性の横に座る。そして、纏っていた黒いローブを開き、女性に微笑んでおいで、と囁いた。一つ頷き寄り添う女性を確認すると彼はローブで自分ごと女性を包む。
「これで、先ずは…俺が幸せになる。あとはキィフェ、君を幸せにするだけかな?」
「私もふっきれて、幸せよ」
少しはにかんだバルの言葉に、キィフェと呼ばれた女性は頬を赤く染めつつそう答え…彼を見つめる。暫く互いに黙り込み、目を逸らしたり俯いたりしていたが、やがてどちらからともなくそっと、されど深く唇を重ねた。

男の名はバルディッシュ・ルー。
100年生きたエルフであり、聖闇教会という多神信仰の聖騎士の青年。
女の名はキィフェ・シャナ・ヘイルダム。
ある侯爵家の末娘であり、宝とすら言われていた美しき歌い手。
この2人が駆け落ちしたのには…深いわけがある。
まぁ、ワケの無い駆け落ちなど無いのだろうが。

【2】に続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ども、フーレイです。
もしかしたら後でタイトルを変えるかもしれませんがバルディッシュのおっさんの若い頃の話。奴はエルフなので100歳でも若者クーポンだと思われます。
じゃなくて、愛しい奥さんキィフェとの馴れ初めだったりします。
つか、前・中・後で終わらないことが判明したんで、書き直しましたよ、前から【1】に。
ぼちぼち書いていくのでよろしくッ!
[PR]
by jin-109-mineyuki | 2007-12-11 14:43 | 札世界図書館 | Comments(0)