ある野良魔導士の書斎

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前奏:失恋の傭兵


 あんな思いは初めてだった。
 今思えば、一目ぼれだったな、と思いつつ一人の女性がベッドに横たわった。頬には幾すじもの涙のあとが走っている。微かな音を立てて濃い灰色の髪が毀れていく。白いシーツに流れる灰色。薄暗い部屋で一人、彼女は枕を抱き締めた。額のサークレットが重く感じる。
(仕事にも影響でるぐらいだ。…重症だ)
普段ならばしないようなミスを沢山してしまった。いつもぼーっ、としていた。彼の傍にいるだけで妙に胸が締め付けられた。悩んでいるように見えて、どうにか力になりたいと思い続けた。だから、思い切って問いかける。けれど相手は何も悩んでいなかった。全てが自分の思い過ごしだったのだ。

 仕事が終わり、顔を真っ赤にしながら告白した。けれども相手には今、好きな相手がいた。
「ゴメン。お前の気持ちにこたえられなくて…。それにオレ、お前を仲間としか見ていなかったし…」
取り乱すわけにもいかないけれど、体中が痛くなったのを覚えている。泣きそうでも必死に何時もの冷静さを保とうとした。そんな彼女を、仲間はそっと抱き締めた。

初めての恋だった。
深く、愛したかった。

「恋って、苦しいものなんだな。病気とはよく言ったものさ」
枕に顔を埋め、溜息混じりに呟く。胸が痛む。なんだか立ち直れそうもない。こんなに弱い自分がここにはいる。多分、戦う事もできないだろう。…傭兵として失格だな、と彼女は自嘲する。ふと、顔を上げると一羽の隼が止まり木で眠っている。
「カリア、私はこれから暫く休養をとって…自分と向き合おうと思う」
彼女はそう呟くと深く目を閉ざした。…左腕が激しく痛む。右手で押さえつつも声を漏らさず、そのままベッドに体を預け続ける。
(またか。何故こうなるんだ)
酷い苛立ちを覚えながら、彼女は静かに眠りへ落ちていった。

 イリュアス・ツクシ。サークレットをつけたハンサムな女性傭兵は、傷ついた心を枕ごと抱き締め、仮初の安寧に身をゆだねる。しかし、彼女の人生を変える事件は既にはじまっていた。

あとは、主役の彼女が目覚めるだけ。
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by jin-109-mineyuki | 2005-02-19 18:57 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
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