ある野良魔導士の書斎

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冒険者になるきっかけ(アンバー、目指すはカレイドスター)


『冒険の火蓋を -アンバー、冒険者になる-』
(著:フーレイ)

 小さな村の、小さな集会場。そこは今日も多くの若者たちが集い、楽器を鳴らし、歌を歌い、酒や飲み物を飲み交わしている。中央では線の細い女性が、1人音楽に乗って舞い踊っていた。緩やかに、伸びやかに。されど、徐々に激しくなる舞は、どこか何かに似ているようだった。
――不意に舞う、ベール。
そこから現れたのは、凛々しい青年の顔だった。一見女性のようにも見えたが、男だった。髪につけられた鈴が軽やかに響き、ギター、マンドリン、フルート…楽器たちの音色も更に情熱的になる。
「いいぞ、アンバー!」
見ていたものの一人がそういって指笛を鳴らす。アンバーと呼ばれた青年はにこっ、と笑い、くるり、宙返りを決めて見せた。

 アンバー・ティアーズ。
 冬に19になったばかりの青年は、村一番の踊り手だった。

 「はぁ……」
踊り終えたアンバーは、溜息混じりに座り込んだ。すぐさま仲間の1人が冷たいお茶を手渡し、アンバーは一礼してそれを飲み干す。
(楽しいけれど…)
彼は目を細め、拾い上げたベールを手で弄びつつ仲間たちを見た。毎日畑仕事をしたり、森で狩りをしたりして生活する平々凡々とした村。アレトゥーザに程近いから、新鮮な魚介類も届くし、食べ物には困らない。生きていく上で、とてもいい場所だ。
(けれど…何かが足りないんだ)
胸に手を置く。なんかすっきりしない。気持ちが悪くて仕方がない。その理由がわからないもやもやを抱えたまま、何度も果実のジュースを飲み、クラッカーやサンドイッチを口にする。好物のブイヤベースも2皿食べつくしたが、やはり何か足りなかった。
「どうした、アンバー。浮かない顔してさ」
そう、声をかけてきたものがいた。2、3日前から滞在している冒険者で、名前はハーシェ・ヴィアと言った。一見女性のようだが、性別は今の所男と認識している。が、声や体では判別がつかない。まぁ、彼自身が聖職者であり、体のラインがあまりわからない衣服を身に纏っている空もあるが。
「ちょっと、ね」
アンバーは肩をすくめ、苦笑する。
「最近、なんか物足りなくてさ。……このまま村にいていいのかなぁ、なんて」
「あるね、そんな事」
ハーシェはアンバーに同意し、小さく微笑む。彼はそっと、目線をアンバーと合わせる。不思議なほど落ち着かせる不思議な目。美しい、菫色の双眸に少し見とれていると、ハーシェはくすり、と笑った。
「キミぐらいの年頃は、そういう事もある。けど、年を取ると、やはり平穏が一番だと思うようになるんだ」
そういう彼の瞳は、どこか遠くを見つめている。アンバーは黙って彼の言葉を待った。彼が何を言わんとしているのか、興味があったからだ。しばらく黙って虚空を見つめていたが、ハーシェの唇が再び花開く。
「だから……その熱が醒めないうちに…その思いのままに、したほうがいい」
その時、アンバーは、なぜか、前が開けたような感覚を覚える。
――その熱が醒めないうちに…その思いのままに…
静かに、されど素早く。言葉が血を巡り、心を激しく揺さぶる。
「俺は……」
「どうしたい? 羽ばたきたいんだろう?」
甘い声。優しくて、けれど何か決意を求める声。
「勿論、平坦じゃない。旅立つことは、覚悟も決めなくちゃいけない。
 甘いことだけじゃない。差別を受けたり、死ぬような目にあったりする。
 それでも、キミはこの村から出たいのかい?
 その覚悟がないなら、熱は早く覚ましたほうがいい」
菫色の瞳が、不思議な炎を宿して魂を揺さぶる。アンバーの心はそれに躍るように震え、体の奥底から何かがくすぶっているような感覚に陥った。
「覚悟……」
その言葉が、己の種族を思い出させる。
己に宿る血の半分が、エルフであること。
それ故に父が聖海教会の人間に殺されかけたこと。
それが原因でアレトゥーザから離れたこと。
村以外のエルフや人間から【中途半端】と罵られた事。
「キミは、それらに負けないで戦えるかい?」
アンバーは一度だけ、ぎゅっ、と目を閉ざした。色々な記憶が胸の中で巡って行く。辛いこと、悲しいこと、退屈なことが胸を掻き毟る。けれど、それ以上に…一つの思いが暴れ始める。
「俺は、世界が見たい!旅がしたい!そして……一旗上げたいッ!そして、俺の踊りで皆を笑顔にしたいんだッ!!」
思いを口にした刹那、体がかっ、と火照ってきた。あふれ出る思いが、彼に力を与えていく。すっくと立ち上がったアンバーはすぅ、と思いっきり息を吸った。
「みんな、聞いてくれ!」
楽器を鳴らし、歌を歌い、話に花を咲かせていた若者たちがみな、動きを止める。誰もが眼を丸くして。ただ1人、ハーシェだけが笑顔でアンバーを見る。
「俺、冒険者になるよ! そして…世界一の踊り手になるっ!!
 一旗上げて、故郷に錦を飾るんだっ!!」
その一言に、若者たちは歓声を上げた。そして、アンバーへと駆け寄る。いつの間にか村人の多くがそこへ来ていた。
「アンバー、本当か!?」
「冒険者…実に厳しい道だぞ?それでも行くのか!?」
「なら、今日は祝いだ! 門出を派手に盛り上げよう!!」
村人たちは、祭りが好きだった。ここの村は人間だけではなくエルフや精霊、ドワーフなど色んな種族が生きている。いろんな種族の存在が、老若男女が、アンバーの決断を喜んだ。この村にとって、冒険者は「勇気あるもの」なのだ。錦を飾ったものはずっと村で称えられる。それを知ってか知らずか、アンバーは1人人々の輪の中心へ躍り出た。
「よーし、今日は踊るぞ!! …ハーシェさん、覚悟を教えてくれてありがとう!
 俺、きっとすごい冒険者になってみせますから!」
アンバーがそう言ったとき、既にハーシェの姿は無かった。
あの菫色の瞳をした冒険者は、何処にもいなかった。

 次の日の早朝。アンバーは人知れず村を出た。お気に入りのベールを纏い、小さく微笑んで一度振り返る。
「ハーシェさんに、ちゃんとお礼を言います。
 そして、ハーシェさんに負けない冒険者になってみせます」
だから、それまでは……村に戻りません。
彼は跪き、誓いの印をきると立ち上がり、道を見た。そして、二度と振り返らず、そのまま歩き続けた。

(完)
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あとがき
めちゃくちゃ、中途半端だけど力尽きた?フーレイです。
【六珠】リーダーのアンバーが冒険者になった理由をかいてみました。
実はこのハーシェ・ヴィアっていう冒険者は物凄くシオンやバルディッシュにもかかわりがあり、後ほどアンバーたちの仲間にもかかわりが。意外なところでの再会に、多分驚くことでしょう。
一応冒険記録5回ごとにそれぞれのきっかけなどを書いていきますのでよろしゅう!!
それでは。

実は色々ネタを練っているフーレイこと天空 仁より。
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by jin-109-mineyuki | 2007-12-01 21:51 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】 | Comments(0)