ある野良魔導士の書斎

fureinet.exblog.jp
ブログトップ

CW関連プラテは初…そして連載。 (フーレイ、※ダークかも;)


『雨の日の、逃亡者』 (前) (著:天空 仁)

…ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト
あまり良いとはいえない状態の道を、一台の荷馬車が走っていた。地面を叩く大粒の雨が、さらに地面をぐちゃぐちゃにする。
「ひでぇ雨だな」
馬車の手綱を握っていた男は、小さく呟いた。土の匂いが、その大きな鼻を掠め、思わずくしゃみをする。僅かに身震いがすると、溜息が漏れる。
「早く帰らねぇとなぁ」
そして、暖かいスープでも食べて風呂に入り、火雫(かだ。アルコール度数が高い、透き通った赤褐色の酒)を一杯くらって寝てしまおう。そう思っていた。
・・・が。
「!?」
顔を上げる。と、水の簾の奥に人影が見えた。自分と同じようにローブを纏った、背の高い影。馬を止め、男は思わず怒鳴った。
「危ねぇだろ、馬鹿野郎!!」
「………」
立っていた影は、黙っていた。その沈黙が、妙に重い。そして、僅かに漂う血の匂いに思わず顔を顰めた。
「邪魔だ。どきやがれ!」
男がもう一度怒鳴る。が、その影は男を黙って見つめ……おもむろに歩み寄った。フードの陰から見えたのは、くすんだ紫水晶。まるで死人のような目に、少しだけ身震いがした。
「……乗せろ」
影が漏らしたその声は、妙に現実味のない、虚ろなバリトンだった。

…ガタゴトガタゴトガタゴト
馬車は進む。ただただ進む。それも激しい雨の中。荷馬車には血の匂いを纏う人を乗せて。
「…てめぇ…」
男は乗ってきた若者に何者だ、と聞こうとした。しかし、はた、と思いとどまった。というのも戦争続きのこの国では、脱走兵がまれに乗り込んでくることもあったからだ。
(厄介な男を乗せちまったな)
男は小さく舌打ちした。脱走兵を匿っている、となると重くて死罪、軽くても高い罰金や鞭叩きに晒し者、という罰も考えられるからだ。
「…この馬車は、何処へ行く?」
不意に、若者の声がした。フードの隙間から見えた横顔は僅かに青白い。しかし男というには勿体無いほどの美しい横顔だった。頬に張り付いた紫の髪が、またそそる。
「港町さ。俺はポーテリオン行きの船に荷を降ろしに行く途中でね」
男は平静を装って答える。と、若者はこんな事を問いかけてきた。
「ポーテリオン……別の大陸に行けるのか」
「ああ。てめぇも行って見たらどうだ?」
若者は、その言葉に瞳を僅かに細め、なにやら考えているようだった。その仕草もまた、何かをそそられるように思える。
(そういえば、ここん所……ご無沙汰だからなぁ)
男は僅かに口元を綻ばせる。元々その気はないのだが、乗ってきた若者はそんな事を忘れ去れるほど美しい。女でないことが実に悔やまれるほど。
(いっそファレンにでも売っちまうか?)
港には人買いもいる。乗ってきた若者はどこか不気味ではあったが…雰囲気的には何も知らなさそうである。上手く騙せば大金が手に入るかもしれない。男はある意味いい商品が手に入ったのかもしれない、とほくそえんだ。
と、その時だった。蹄の音が、妙に増えたのは。そして、彼の背後を僅かに冷気が流れていく。
「…来たか」
若者は、さも当たり前というように呟いた。

(後編へ続く)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 現在遊んでいるCWの宿【静寂の鏡】亭に所属するシオンという青年の、昔話です。とりあえず、これから毎週火曜か金曜のどっちかで連載予定。シオンの過去は、若干ダークっぽいですけど、まあ…以後よろしゅう。宿に来た経緯を小説にしたためてみましたが…。
[PR]
by jin-109-mineyuki | 2007-11-06 15:43 | 札世界図書館 | Comments(0)