ある野良魔導士の書斎

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プライベートテイル:黄昏の役(後編)


 ドラゴン特務部隊が命を懸けて持ってきた命の石。
 そして、もたらされた……あらたなる力。

 『ニルギン……』
 ふと、声がした。優しい、聞き覚えのあるテノールだ。それにニルギンはおもわずきょとん、となった。
「お父さん……ですか?」
小さく問いかける。戦いの最中なのに、なぜ父親の声が聞こえるのだろう。ああ、そうか。自分はドラゴンとの戦いに敗れ、今から死ぬんだな。そう思い、僅かに眼を開く。閉ざしていたから、まぶしくて仕方が無かったが、慣れてくると、目の前に死んだはずの父親が目の前にたたずんでいた。
『そうだよ、ニルギン。顔を上げてごらん』
エルフの老人、ジークは優しく微笑み、ニルギンに手を伸ばす。変わらない優しい笑顔で、歌うように言葉を続ける。
『君はまだ生きるんだ。この力で、ドラゴンたちから同盟の仲間を…生きる者たちを守っていくんだ』
ニルギンは、眼を見開く。そして、自分の中で、何かが外れる音がした。体から不意に『ユラヴィカ』の気配が消える。いや、光の粒子となって彼の体へと溶け込んでいく。
「これが、お父さんが言っていた『新しい力』……」
身長と手足が若干伸び、青い髪はさらに深い青…コバルトブルーへ変色する。そして耳がエルフのように長くなり、両の頬骨上には竜の翼のような青い石。外したはずの縁なし丸眼鏡も現れる。槍は溶け込み、両の手を覆う青いガントレットへと変化した。衣服も拘束衣のような黒いロングコートと黒いアーミーパンツだ。よくみると、左目だけが白銀へと変色している。
「ああ……」
体に力が満ちていく。そして、それは……共に戦う仲間たちにも現れていた。
「いけますっ!これならば……っ!!」
ニルギンは顔を上げる。そして、もう一度ドラゴンを見据え…突撃。高々と舞い上がるとドラゴンの真上で叫ぶ。
「これが、俺の存在証明だ!」

 ギーエルの眼が、うっすらと開かれる。さっきまでぼろぼろだったからだが、少しはましになったらしい。錫杖を支えに立ち上がる。と、まだやれる気がした。いや、体に力がみなぎり、しっかりと大地にたつことが出来る。
「パパ、ママ……ごめんなぁ~ん。弱気になってたなぁ~ん」
身構える。そして、思いっきり息を吸った。そのとき、何故かふわんっ、と光の粒子があたりを漂う。
「!!?」
きょとん、としている間に、それはギーエルの肢体へと溶け込み、全身が一瞬だけかあっ、と熱くなる。一度目を閉ざしたが、瞳を開けると……メイド帽から毀れた髪はいつの間にか鮮やかな紅に、左目は麗しい蒼に、衣服は普段よりも華やかで色香が漂うデザインのメイド服へと代わっていた。錫杖ではなく、なぜかモップを構え、彼女はそれを一振りする。
―ヒーリングウェーブ奥義、開放。
全身の骨が呻いた。けれど、それすらも新たな力への喝采に聞こえる。力が、魂の奥からみなぎっていく。これならば、まだやれる。自分は生き抜ける。だから、彼女は三度顔を上げる。風がメイド服のスカートを揺らし、スリットから滑らかな白い脚がすこし見える。艶やかな唇が不敵に微笑み、普段以上の色気があった。ギーエルは気づいていないが、思わず見入る男性冒険者もいたぐらいだ。ノソリンの尻尾を一振りし、彼女はきっ、とドラゴンを睨みつける。
「さあ、いくなぁ~んっ!」
遠くを見ると、幾人もの仲間たちがドラゴンへ猛攻をかける。その中にはあの眼鏡を掛けたセイレーンの姿もあった。彼の十八番である斬鉄蹴をぶちかますその姿に、思わず笑みがこぼれ、俄然、やる気が出る。そして、別のところには風に煽られつつも大地を踏む少年の姿も。
「あいつらには、負けてられないなぁ~んっ!」
もう一度笑顔で仲間に会うために、ギーエルはモップを振るった。

 体が、風に煽られる。ぼんやりとした眼が、沈みかけた夕日に鈍く光る。ドラゴンの咆哮で高く舞い、地面へ降り立ったときには、鋭い眼光をたたえていた。アビリティは使い果たし、満身創痍の状態だ。けれど、手にしたランスはまだ、力強く握ることができた。
「あはは、まだやれるみたいだ……」
ふと、顔を上げる。と、不意に体がびくんっ、と痙攣した。あわせるように、光の粒子か舞い上がる。くるくるとまわって、少年へと向かっていく。
「!」
光が胸にに突き刺さったその刹那、身長が伸び、髪がざわめいて優雅な金色へと変色する。麗しい、空を覆うような、黄昏の色に。そして左目だけが夜闇よりも深い黒へ変色する。体がむずむずし、なんだか物凄く力がみなぎっていく。
「はぁ……っ」
その大きさに思わず溜息が漏れ、同時に純白の翼が背中からもう一対生える。衣服は純白の、詰襟コートとロングパンツへと代わり、手にしたランスは一瞬にして無色透明な水晶の刃を持つクレイモア(大型の両手剣)へと姿を変える。そして、少年いや、青年は一つの事を核心し、顔を上げる。その瞳にドラゴンをしっかりと捕らえて。
「まだまだっ!」
走り出す。そして、クレイモアをランスと同じように構えてそのまま突撃する。
「いっけぇええええっ!」
深々と突き刺し、刃がドラゴンの肉を鱗ごと押しつぶす。はじかれても、踊るように戦い続ける。
それが、ディート・マシロイの戦い方。
「だああああっ!」
叫び、突き刺し、叫び、突き刺す。跳ね飛ばされても、止めないのは、未来のために。
手にした武器を握り締め、未来を掴み取るために。
たとえその体に、幾度と無く傷を刻まれたとしても!
「これで、どうだぁあっ!」
真横に薙いだクレイモアが、ドラゴンの喉仏を捕らえる。ディートは、歯を食いしばって全身の力を振り絞った。

「私には、愛しい人たちがいる。だから、戦う!!」
ニルギンが叫び、瞬く足を振り上げる。

「俺の選択は、これだなぁ~んっ!!」
ギーエルが叫び、夕闇の空に飛び上がる。

「僕はまだ、遊び足りないんだよっ!!」
ディートが叫び、クレイモアを三度突き刺す。

全ての冒険者たちが、ドラゴンへと立ち向かっていく。
その姿に、新たな力を宿して………。


 気が付いたとき、悠々と存在していたドラゴン12体は、地面に崩れていた。
 冒険者たちは、ドラゴンに勝利した。
 しかし、ドラゴンはまだほかにもいる。同盟へと向かってきている。
 こうして、新たなる時代……ドラゴン戦争を迎えた。

 ―冒険者たちの勝鬨が、黄昏の空に響く。

 その黄昏は誰が黄昏か。冒険者か、はたまたドラゴンか…。

 それは今の彼らには、わからないことだった。


 2日後。
「うーん、なんかまだしっくりこないなぁ」
そう言ったのは、ディート。白い髪をなびかせ、少々熱っぽい顔のまま町を歩く。その影からは時々つぶらな瞳とかが出たりしている。
「そうなぁ~ん。ちょっとだけふらふらなぁ~ん」
こちらはギーエル。黒いノソリン耳をパタパタ動かしつつベンチに腰掛ける。傍らには愛らしい少女がふわふわと付いてくる。
「どうしても、慣れるまで大変ですからね」
眼鏡を正しつつ、ニルギンがいう。彼は先日の戦いの前に召還獣をつけていたので、大分慣れているらしい。傍らには狼が寝そべっている。

ディートは防御力を高める『ダークネスクローク』
名前はモノローグ。

ギーエルは心攻撃を高める『ミレナリィドール』
名前はエルスティン。

ニルギンは攻撃力を高める『キルドレットブルー』
名前はユラヴィカ。

三人はそれぞれの相棒と共に瓦礫と化した街を見る。今も、多くの人たちが復興作業を始めていた。人間はたくましいなぁ、と思いつつ、三人とも瞳を細める。
「がんばりましょうね」
ニルギンの言葉に、ギーエルとディートは頷きあった。

(とりあえず、終わり。けれど、時折修正はいります)

イメージソングはこちら
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by jin-109-mineyuki | 2007-08-19 16:26 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)