ある野良魔導士の書斎

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プライベートテイル:黄昏の役(中編)


-7月 30日:決戦。

風が鋭く走り、空気は激しく震える。
しかし、それは恐怖からだけではない。
むしろ……戦う覚悟、熱意で震えているのだろう。

「始まる…」
ニルギンは走り出す。手にした槍は戦いの前に友達から貰ったものだ。眼鏡はすでに外されている。ぼやけた視界のなか、確かにドラゴンの体ははっきりと見えた。呼吸を整え、勢いのままに斬鉄蹴をぶちかますものの、効果は無に等しい。舌打ち一つ、攻撃をかわし、今度は牽制に回る。少しでも隙をつくり、攻撃しやすくするのだ。
(くぅっ、しぶとい…)
次々と襲い掛かるドラゴンの猛攻に耐えつつも、隙を探す。この作戦では斬鉄蹴に全てをかけるつもりだ。冒険者となり、磨きをかけてきたこの技に…。
「はぁあああああっ!」
掛け声と共に閃く足。眩い光を放ち、ドラゴンの首根っこに吸い込まれるも、相手には何も意味を持たない。爪が来る前に法則のままに落ち、受身を取った。
(足りない。まだ…)
眼の鋭さはそのままに、彼は再びドラゴンへと向かっていく。

 夕暮れを掻き毟るドラゴンの咆哮。それに負けじと響き渡るアルト。勇ましい旋律は気流にのって戦場を舞い、聞こえた冒険者たちの士気を高める。
(いける、なぁ~んっ!)
ギーエルは両手でしっかり握った錫杖を振りかざし、ヒーリングウェーブ奥義を放つ。邪竜導士としての力を使わず、この戦いでは武器に宿ったこの力を使っていた。一人でも治癒を施すものが多い方がいいに決まっている。
―ドラゴンを睨む。
巨大な影が、12体も地面に降りている。彼らはここに生きるものたちなど、玩具の様にしか思っていないのだろう。しかし、冒険者たちは立て続けに突っ込んできた2体のドラゴンを倒してしまったのだ。だから、12体だってどうってこともない。彼女はそう思いながらノソリンの尻尾を振りながら再び錫杖を振りかざした。

 ぐっ、と……足元の砂が鳴く。手にしたランスの重みごと、全体重をかけて突貫する。しかし、痩せた少年のそれは、ドラゴンの肉体に僅かな傷しか与えなかった。
「ちぃっ!」
ディートの額には玉のような汗がいくつも浮かんでいる。頬を、顎を、首筋を伝い、シャツの襟をぬらした。手には激戦続きで肉刺ができ、テーピングはこの戦いで剥げてきた。それでもディートの手はランスを離さない。呼吸を整え、勢いよく踊り始める。ランスと共に踊り、熱気のままに突き刺そうという魂胆なのだ。鎧聖降臨は、使い果たした。全て、共に戦う仲間たちのために使った。だから、後は鼓舞激励の舞と、攻撃しかない。
「まだ、いける!」
エンジェルの羽が、確かに空をたたく。ぼんやりとしないと飛べないが、駆出すさまは、まるで飛んでいるようにみえた。

…一進一退。
ドラゴンたちの攻撃は留まる事を知らず、冒険者たちは傷ついていく。それでも彼らは生き抜くために戦う事を選んだ。絶望し、全てを彼らに任せる事だって選べたはずだ。しかし、彼らはそれを良しとしなかったのだ。

ある者は、愛する人と生きるために。またある者は幼い頃に抱いた夢のために。そして…ある者は欲望のために。またある者は冒険者となった時に抱いた信念のために。

―希望は、自分たちの中にある。

 その叫び。それが、彼らの行動に現れていた。たとえ何度倒されようと、起き上がり、地面を踏みしめて戦いに赴く。

―それが、グリモアに誓いをたてた冒険者の意地。

「あきらめるな!」
誰かが叫ぶ。冒険者たちは皆、己の武器を力いっぱい握り締め、顔を上げた。
そして、あの瞬間が訪れる。

(続く)

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by jin-109-mineyuki | 2007-08-10 23:44 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)