ある野良魔導士の書斎

fureinet.exblog.jp
ブログトップ

久方ぶりにニルギンのプラテっす(フーレイ、ぺこり)


0.75:ニルギン、生きる道を見出したること

 人か来ないであろう、寂しい場所。そこには嘗て一人のエルフと六人のセイレーンが暮していた。けれど、今は一人しかいない。残ったのか、残されたのか、その少年はずっと夕日を見つめていた。
「これから、どうすればいいんでしょう?」
泣きそうな顔で、少年は呟いた。

 ニルギン・シェイド。それが彼の名前だ。エルフに育てられたセイレーン六兄弟の五番目で、家事は彼がやっていた。父親が死んで、他の兄弟たちが冒険者として旅立った今でも、一人家事を続けていた。
「とうとう、私だけが残ってしまいました。どうして、兄さんたちは旅立てるのでしょう?お父さんが寂しい思いをするといけないのに…」
そう呟いて辺りを見渡し、ふと顔を上げる。そして、また考え出した。僅かに目を伏せ、首を傾げる。
「…私がここに居続ける事を、父さんは喜ばないのでしょうか?私も、旅立った方がいいのでしょうか?」
彼は迷っていた。この場所を守る事が父の幸せか、旅立つほうがいいのか…。そんな時に、一人の客がやってきた。緑色の髪に金木犀の花を咲かせた、知的な女性だ。
「…誰もいないのか?」
家を訪ねた女性には見覚えがあった。彼女はドリアッドの冒険者で、名をミネルヴァ・クリフォード。ジークの友人に当たる。ニルギンが父の死を知らせると、彼女は沈痛な面持ちで墓を案内して欲しい、と言った。その時、彼女が父と何を話したかは何も知らないが、少しだけ、嬉しかった。

少年は温かいお茶とできたてのスープを客人に振る舞い、是までの経緯を簡単に語った。それをミネルヴァは熱心に聴いてくれた。
「それで、他の兄弟たちはどうしたんだ」
「兄と弟は、みんな冒険者となりました」
ニルギンは彼女の目を見ながら、ゆっくり答えた。そして、眼鏡の奥で少し目を伏せ…僅かに躊躇って口を再び開く。自然と、肩が落ちた。
「私は、迷っています。ここで父の墓を守りながら生きたい反面、旅に出てみたいのも本心です。父は、私達が世を知らないこと、世間へと見送れなかった事を悔いていました。けれど、父は…何か特別な理由があって世間から離れていたんだと思うんです。…だから」
「ニルギン…、君は、どうしたい?」
泣きそうになりながら言葉を紡ぐニルギンに、ミネルヴァは問う。彼女は金木犀ごとくすんだ緑の髪を揺らし、しっかりとニルギンの目を見る。
「私は…」
ニルギンは少し考える。確かに、外の世界に憧れていた。父やミネルヴァが語る、外の世界に。そして、冒険者としての旅にも憧れていた。その一方、このままこの場に残りたい気持ちが会った。この場は、父親と、兄弟たちと過ごした場所だ。また帰れるように、誰かが残っておいたほうがいい。その誰かとは……自分だ。少年は少し考える。深く眼を閉ざす彼に、ミネルヴァは苦笑した。けれど、彼女はそっと、問いかける。その顔は穏やかで、嘗ての父を見ているような気がする。彼女は優しくも、しっかりとした声で問いかけた。
「冒険者に、なってみないか?」
その言葉に、ニルギンは酷く驚く。けれど次の瞬間には、笑っていた。
「私が、冒険者に…ですか?」
「そうだ」
ミネルヴァが頷く。……と、少年は眼鏡がずれ落ちそうになるのも構わず、ゆったりとした笑顔を零していた。
「なんだか、光が差したみたいです。……今まで悩んでいたのが馬鹿らしいぐらいに…」
そして、少年は、一つ、頷いた。

 夜も深けてきた。ミネルヴァは用意された寝床に横になり、少し考えていた。ニルギンは迷っている、と言っていた。何を、迷っているんだろう。家事を一手に引き受けていた少年は、何を思って、この夜を過ごしているのだろうか。
(アイツが死んで、三ヶ月か)
ニルギンの話によると、ジークが死んだのは三ヶ月前だという。そして、兄弟たちは冒険者となって旅立った。少年だけが、ここに残っている。けれど、明日には旅立つのだ。
「ジーク、お前の子ども達はみんな……お前や俺の轍を踏んでいくらしい」
楽しげに……そして、優しく笑い、天井を見上げる。あの少年はあの後養父の墓へ行き、花を供えていた。その時に何を話したのか、彼女は知らない。
(一体、あの子たちはどんな事に出会っていくんだろう)
先に旅立った兄弟たちの事を考えているとノック音がした。他でもない。ニルギンが暖かいお茶を持ってやってきた。
「明日は早い。きちんと眠っていないと体力が持たないぞ」
「はい。でも、言いたい事があったので」
ニルギンは戸をあけてもらったことに会釈し、テーブルにお茶を置く。彼はきょとんとするミネルヴァと眼を合わせ、頭を下げる。
「どうした、ニルギン」
「いえ、そ、その…ありがとうございます。……誘ってくれて」
顔を上げたニルギンの顔は、やはりあの男にそっくりだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミネルヴァ姉さんはニルギンと仲良しで養父の友人でした。
アップがおそくなってすみません。読んだらよろしくです。

時間があったらギーエルとかのも。
[PR]
by jin-109-mineyuki | 2007-01-23 19:30 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)