ある野良魔導士の書斎

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第四話:惹かれ合う力、交じり合う思惑(2)


 食事を終え、エルデルグとハィロゥは一先ず食堂を出た。そしてエルデルグは辺りを見渡す。
「さて、行くかな」
「友達を探しに?」
ハィロゥに問われ、彼は頷いて歩き出す。その方向はハィロゥの向かう先でもあったので付いていくとエルデルグは不思議そうな顔になった。
「お前もこっちか?…金なら早めに頼む」
「方向が向こうなんだ。海のほうに、ちょいとな」
ハィロゥが言うとおり、二人が向かおうとしていたのは、海だった。このまま行けば洞窟がある岩場に出る、と漁師からは聞いている。
(イリュアスも、その岩場にいるのかな)
エルデルグはなんとなくそんな気がして、そっちへ行く事にしていた。ハィロゥは1つ頷くと無造作にエルデルグの顎へと手を伸ばす。一瞬だけ、青年は身を竦ませるも、ハィロゥの目は妙に澄み切っていて、いろんな意味で緊張が解れていく。
「…ふーん、よく見れば見るほど、いい眼だな」
「?」
訳もわからず首を傾げるエルデルグだが、ハィロゥは僅かに微笑んだ。優しい、おおらかな笑顔。それが、何かに似ていて、不思議だった。
「お前の探している人は…もしかしたら、あの場所にいるのかもしれん」
青年がどういう事だ、と問いかけようとすると、彼ははっきりと言い切る。
「あいつが、我輩を呼んでいる」

 海竜の宮。イリュアスはその玉座でリナスと再会していた。さっきお風呂で話していた相手が、現在の海竜王だった!?その事実が身を強張らせてしまう。優しい笑顔で席を離れ、リナスはイリュアスへと歩み寄る。ゆっくりと両手で彼女の頬を包み、やんわりと微笑んだ。
「可愛いわね、私のプリンセス」
そう言われ、心中はむずがゆい。そんな事を言われたのは幼少以来だった。イリュアスは途惑うものの、リナスは笑顔のまま。
「白いフリフリワンピース、似合ってるねぇ~」
ユエフィが思わずそういう。ベヒモスは思わず頷きかけるが止め、あくまでも平静に振舞う。シノンとクウジュも頬が緩むのを堪えていた。
「か、可愛いだなんて…言わないでください。恥ずかしいです」
「そんな事、言わないで頂戴。あなたは私が見定めた後継者候補なんですもの。可愛くて当たり前よ」
そんな事をいい、リナスがイリュアスを立たせる。両手を繋いだまま何かを囁くとイリュアスの全身に軽い痛みが走った。魔力が高ぶり、ぼんやりと竜紋が浮かび上がる。時期に体の左半分が紋で覆われようとしていた。
「上手く適応している証だわ。イリュアス、解る?」
「ええ…」
イリュアスは頷き、僅かに俯きかける。魔力がうねり、どこか躊躇しているようにも思えてならなかった。それをリナスも気付いているらしい。表情が僅かに曇っている。
「とにかく、貴女が誘拐されかけた事はベヒモスから聞いているわ。暫く、ここでゆっくりしていきなさい」
リナスは心から優しい顔になり、そう言った。

 食事を終えた黒髪のエルフは、一人佇んでいた。ウタカタ族の男から、僅かに竜の匂いがした。
(こっちの方に、竜がいるな)
顔を上げる。全身に染み渡る竜の魔力。そして、それを跳ね返す神の力。彼はにっ、と笑うと一歩踏み出した。
「ユエフィ、良くやってくれたよ。君は運がいい」
それだけ言い、そのまま歩き出す。そして、魔力が集って絡まり、一本の杖を生み出す。闇よりも深い杖。はめ込まれた珠は血よりも赤い。鳥の翼を模った紋様が銀色の魔力を煌かせ、薄っすらと空気に残像を浮かび上がらせる。
「イリュアス、君を我が物にして見せる。生きた魔力ブースターとして、その命、使わせてもらおう」
彼はにぃ、と笑いながら遠くを見つめた。そして想像する。鎖につながれた竜の乙女。彼女は淑やかに眼を閉ざし、従順そうな雰囲気をまとって跪いている。彼女の魔力は多くの実験で効果を発揮するだろう。
「それに竜は……竜は所詮世界最強の愛玩動物なのだよ」
杖を握り締める。彼の横顔に冷たい笑みが浮かんでいく。彼は信仰する神に祈りを捧げ、深く息を吸った。興奮を鎮めるためでもある。ここでしくじるわけには行かない。慎重にしなければ…。
(それにしても)
と、彼は思う。イリュアスは力を制御できないらしい。このままでは安定した実験結果を得る事が出来ない。
(何故だ?)
彼は不思議に思いながら、僅かに唇を噛んだ。
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by jin-109-mineyuki | 2006-11-19 10:42 | 小説:竜の娘(仮) | Comments(0)