ある野良魔導士の書斎

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第三話:海色の聖地(9)

 「ひらひら…」
イリュアスは温泉から上がり、用意された服を見て唖然となった。確かに一時期『女の子らしさ』を養う為に可愛らしい服を着て、色々なお稽古事に専念した時期もあった。が、傭兵となってからは一切着ていない。フリルの付いた、白いワンピース。…一体誰がそれを用意したのだろう?
「ん?」
バスタオルで体を拭きつつ考えていると、そこに手紙があった。

―海竜王・レヴィアータン様がお待ちしております―

つまりは、これを着て海竜王に謁見するように、という事だろうか。
(ベヒモスなのか?これを用意したのは)
似合わないような、可愛らしい服を用意され彼女の頬が真っ赤になる。取り敢えず着てみると、それは体にぴったりとフィットした。まるで彼女の為に誂(あつら)えた様だ。
(着るしか、ないか)
イリュアスは恥ずかしがりながらも、そのまま歩き始めた。

 ベヒモスはユエフィを伴い、主君の許へやってくる。他の近衛騎士二人は相変わらず玉座の両側にいる。
「レヴィ様、ベヒモスがたなぼたですが賊をとりあえず捕らえております」
そう言ったのはエルフの男だ。それにベヒモスは苦笑した。
「…クウジュ、たなぼたとはなんだ。そしてとりあえずって…」
「俺はたなぼたで、しかもとりあえず捕らえられているのか」
眉間に皺をよせ、なんだかなぁ、といったような顔になるユエフィ。それに、人魚族の男が思わず笑う。
「ま、こーいう奴なんだよ、アイツは。俺はシノン・リノ。で、アイツがクウジュ・ロー・サンノミヤ。言っておくが、ここで下手な真似をしたら俺たちの拳がお前を砕く事になるから」
と、シノンと名乗った男はそう言った。
「それまでにしなさい、ベヒモス、シノン、クウジュ」
今まで黙っていた女性、リナスが静かに、されど凛とした声で制し臣下を嗜める。三人は跪き、ユエフィもとりあえず頷いた。
「ようこそ、私の宮へ。貴方の名前はユエフィ・ル・シャンティ。別称『束羽(たばばね)』ですね。…間違いはないですか?」
「ああ」
ユエフィは頷く。そして、彼は改めて彼女の目を見た。美しい白銀の目は凪いでいるが、確かに強力な魔力を感じていた。その何処かに揺らぎが見える。それはそうだ。今、彼女は力を世継ぎ候補へ与えているのだから。
「貴方が現海竜王リナス・レヴィアータン・ルセルク。そしてベヒモスたち三人が近衛騎士。今、宮にいるのはお前らだけか」
彼の問いに、リナスは黙って首を振る。彼女に代わり、クウジュが一つ咳払いした。
「現在、近衛騎士は交代で玉座を守っています。通常は一名で。残り四名は近くの町に待機します。危機が迫れば直ぐに駆けつけますよ」
ですから、攻めてきた時も素早く対応できます、と付け加える。更に彼は口を開いた。
「その他にも竜神官や巫女が数名おり、リナスさまのお世話を担当しています」
そこまでいうと、リナスはベヒモスを見る。そして何か手で合図をすると彼はすぐさま姿を消した。
「近衛騎士が後二人いるのか」
「竜によってまちまちです。一人しか選ばない方もいれば女性ばかりを十二人もそろえている方もいますから」
リナスが苦笑を浮かべるとクウジュとシノンもまた同じような顔になる。彼らの脳裏には樹竜王の凛々しくも甘い美貌と際どい衣装を身に着けた近衛騎士の女性たちの姿が浮かんでいた。
「あー、知ってるぜ。今のラシェイオン…『麗将』の女好きは」
ユエフィが頷く。会ったことはないが、噂では相当の美形らしい。リナスは気を取り直して言葉を紡いだ。
「私の夫は現在ある穏健派の神との話しあいに行って留守にしているのですが…、これぐらいでよろしいですか?」
「ああ。簡単には。ようは、ここで騒動を起こしても沈められるってことだろ?」
ユエフィの何処か軽薄な問いにクウジュは顔を顰めるか、シノンはただ肩を竦めてなにやら呟く。リナスはそうね、とだけ呟くと何かに気付く。そして、左腕を上げ、外側へと払った。
「レヴィアータン様、後継者候補・イリュアスを連れてきました」
ベヒモスの声に反応し、瑠璃の扉が開く。シノンが、クウジュが、ユエフィが振り向き、一人の女性を見つめ、リナスはにっこりと口を開いた。
「また会いましたね、イリュアス」
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by jin-109-mineyuki | 2006-10-05 15:13 | 小説:竜の娘(仮) | Comments(0)