ある野良魔導士の書斎

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第八夜:災いの雫編(後編)


-災いの-(後編)

 交代の時間が来た。なにやら楽しげに話すプラチナたちの会話に目を細めながら、ティルハーニャは歩み寄る。…一度振り返ると、コーラルの姿が無かった。
「コーラル、トイレね?」
一度問うが、答えるはずも無い。仕方なく歩き出す。そして三人と入れ替わった。月の無い空。無数の星が彼を見つめる。
「やっぱり、そうやったんね。【月の御子】と【沈まぬ月】、【黒い魔物】は…関係しとったんやね」
彼の呟きに、誰も答えない。ただただ、書きかけの論文が、風に煽られる。
「最初から【月の御子】は幸せなどもたらさんやったんよ。そう、最初から」
「正義なんて、どこにあるのかわからない。【黒い魔物】のやり続けていた事も赦されることじゃない。けれど、結局世界の破滅は救われてるから」
ふいに、声が聞こえた。コーラルが、短い髪を震わせて立っている。彼女はキャスケットを手に持っていた。
「コーラル、起きとったん?」
「まーね。色々考えててさ」
ティルの問いにコーラルが苦笑する。何時ものおきらくな笑顔だったが、何時の間にか真面目な顔になっていた。僅かに伏せられた目が、何処か鋭い。
「生きなきゃな…って思った」
学者は、きょとん、となる。何を今更、といいたい気持ちと、なるほど、と思う気持ちが綯い交ぜになった、戸惑いの顔だ。コーラルは囀り続ける。
「あんな事…、あんな戦い、繰り返すのは御免だから」
「確かに、な」
ティルは頷いた。繰り返すのは嫌だ。戦いを終わらせないと平穏なんてやってこない。
「古の戦いでも、ダートさん達の戦いでも、大切な人が失われている。今度は、そんな事無いように、生きなあかんな」
そう呟き、天を仰いだ。旅の途中で回った遺跡には、深々と感情ごと戦いの爪痕が残っていた。足を踏み入れるたびに、魂のそこが揺るいでいく。
「多分、魂を引き裂かれるような思いだったんよ。悪霊化したラヴィッツさんと戦った時とか」
そこまで言うと、ティルの表情が曇る。コーラルは不思議そうに見ていたが、彼はぼそっと、呟いた。
「ダートさんも、父親、失ったし。レニとディオも…父親、囚われてるし」
「うん…」
ティルの酷く悲しげな顔。コーラルにはその理由が解かっている。彼には親がいない。だから、せめて親と過ごせる仲間は、離れないようにするんだ、と常日頃言っていることを。
「だから、戦うんだよ。…自分達の為に」
コーラルは胸元を押さえ、少しだけ微笑んだ。この旅が、仲間を守る事が、自分の誇り。ハツバサの民として、彼の願いを、成就させたかった。

 それは…闇に浮かぶ冷たい光。嘗て月が破壊された場所に、嘗ての竜騎士は捕らえられていた。
「どうだい、この空間は」
「懐かしい、な。それでいて、酷く滑稽だ」
二人の人間が、檻を挟んで向かい合っている。二人とも若々しく、二十代後半ぐらいだろうか?牢の中に居た青年は溜息混じりにつぶやいた。
「こんな事をして、どうする心算だ?これはお前の手に余るんじゃないのか?」
「大丈夫だ。私はメルブ殿と違う。あの方のミスを繰り返さないさ」
檻の外にいた青年は白衣を靡かせ、懐からふしぎな輝きを持つ宝珠を取り出した。それは、囚われの存在から奪ったもの。そして、嘗て彼に力を与えた物。
「神竜王の魔眼…。うむ、まさに王者の魂として相応しい」
「お前には、到底発動できないだろうな」
白衣の青年に、檻の青年が言い放つが、白衣の青年…ファディオスはただ微笑んでこう言った。
「おそらくな。…神竜王に認められし者、ダート」
ダートと呼ばれた青年は表情を険しくした。今まで起ったことはあの戦いで飛び散った【沈まぬの月】が原因だ。それらを操っていたのがファディオスたちである。
「子どもに月の欠片を埋め込んで実験台にするのも赦せねぇ。それなのに何故更に世界に手を下すんだ!」
ダートの問いに、ファディオスは醒めた目で彼を見やる。それは解かっているだろう、と問うかけているようでもある。
「世界には、お前が思っている以上に悪意があるんだよ。それを溜め込んでいるといずれ世界は終わるに決まっている。だったら…解放して、管理する。それもまた一興と思わないか」
「馬鹿げているぜ」
彼の言葉に、ダートは呆れた、とでもいうような目を向けた。しかしファディオスは気にせず檻に背を向ける。何気なく照明に魔眼を翳し、うっすらと口元を綻ばせながら、目を細める。
「生贄は生贄らしく、大人しくしていろ。ま、これで罪も償われるというものだろう?」
その言葉の意味が解からず、首を傾げるダート。しかし、白衣の男は振り返らず、ただ魔眼を見つめたまま、呟いた。
「破片が、騒動を引き起こしているんだよ。【沈まぬ月】を撃ったのは、お前だろう?」

世界の彼方此方で災いが引き起こされる。それを辿ればあの男に会えるかもしれない。レニはそう思っていた。父親を攫い、色々な人々に混乱をもたらした存在に。
「レニ…、思いつめちゃだめですよ」
一人考えていると、ハルモニアが傍にいた。どこからともなく、シアのハープが聞こえてくる。他の仲間たちも、優しい目で彼女を見つめていた。
「うん、ありがと…」
レニはそういい、彼に笑いかけた。

―きっと、全てを終わらせるから…。

(終)

お題:いまだにレジェドラが好きだという、小粋な人へ捧ぐお題
   出題者は三角 勇気さま。HP『碧緑翠』にお題はあります。
著:天空 仁(フーレイ)

 全八週にわたった物語もこれでおしまいです。『勝手にシリーズ・延長戦』だったわけですがまずお題を考えてくださった三角さんに感謝します。そして、読んでくださった皆さんにも感謝します。一応あと三つ、書く予定ではいますが「もうええわ!しつこい!」など苦情がありましたらやめておきますよ。…止めるなら今のうちです(笑)。

 そーいえば、初めてゲームのキャラクターが出てきたよーなきがする。ダートが囚われの身ですよ?!そしてファディオスも登場!ゲーム本編ではジーク、えらいこっちゃで息子と戦うことになったけれど、これではそんな事はなくむしろダートが自力脱出を…なども考えています。あの人、ただで囚われるような人じゃない気がするもん。

と、いう訳で本当に長い間ありがとうございました!
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by jin-109-mineyuki | 2006-04-01 10:11 | 閑人閑話図書館 | Trackback | Comments(0)
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