ある野良魔導士の書斎

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第八夜:災いの雫編(前編)


-災いの- (前編)

嘗てはたゆたいし、静かに見つめる傍観者。
その正体は破壊神の器-『沈まぬ月』-
壊れ、砕けたその破片たちは雫となりて大地に降り注ぐ。

 レニとディオの双子は、空を見上げた。仲間たちは焚き火を囲み、眠っている。今日は野宿となっていて、その見張りにレニが起きている。ディオは眠れず、その傍に居た。
「お父さん、大丈夫だよね」
ディオの言葉に、レニは頷いた。赤いリボンは手に巻かれていたが。
「大丈夫だって。元は竜騎士なんだもの。ちょっとやそっとじゃ死なないって」
そういうものの、不安はある。旅を続けて知った事は仲間たちを混乱させていた。学者であるティルハーニャに至っては様々な書物を取りにミール・セゾーへと戻ると言い出す始末だ。結局、一度そこへ戻ることになるのだが…。一番の不安は、父親たちが壊したはずの『沈まぬ月』だった。その破片を、悪用している連中がいる。彼らに、父親は攫われたのだ。
「でも、お父さんは…」
不安げにディオが呟く。母親たちは各国の国王たちと協力して別方向から探っているようだが、進展は見られない。焦りが、レニの顔に薄っすらと浮かび上がる。
「父さんは…確か、神竜王の竜騎士になれる。だから、きっと…大丈夫な筈。ううん、大丈夫なのよ。そうよ、そうだわ…!」
「レニ…」
レニは必死に自分に言い聞かせ、手首のリボンを握り締める。こみ上げてくる不安を押さえ込もうと、泣きたくなるのを堪えて、強く、強く。同じように締め付けられるディオの胸。本当は、同じ思いなのだ。けれど、あえて口にしない。こうしたって、始まらない事を、冷静に見抜いていた。だから身を寄せて手を伸ばし、優しく片割れを抱きしめる。
「大丈夫、だよ。レニ、きっと大丈夫。君がそう、言うんだもの」
そういって、ディオは言葉を紡ぎなおす。
「僕らなら、きっと助けられる。お父さんも、この世界も」

 レニと交代の時間がやってきた。それを感じ、起きてきたのは最近漸く馴染み始めたシア。彼女は竪琴を手に立ち上がる。彼女に気付かず抱き合っている双子は、何故か愛しく思えた。だから真っ赤になる二人をからかいつつ見送った。それと入れ替わりにきたのはハルモニアとプラチナ。若干幼さが残る二人はとても眠そうだった。
「二人とも、眠っていたほうが懸命ではなくて?」
「あ…そ、それはそうなんだけどさぁ…」
「父様達が黙っていた事とか、【沈まぬ月】の事が気になって…」
プラチナとハルモニアは互いの顔を見合わせ、困ったような顔でシアを見つめる。歌い手は苦笑して肩をすくめて見せると、ぽろん、ぽろんと竪琴をかき鳴らす。
「それは、皆そうだと思う。ティル兄が本を取りに行きたくなるのも、無理は無い。あの月が、また元凶になっているんだから」
「また…、だよね」
シアの言葉に、プラチナが頷く。ダート達の戦いも全ての元凶は【沈まぬ月】だった、といっても過言ではない。
「メルブ・フラーマがあんな事をしなければ…ロゼさんも、ジークさんも死なずに済んだ。それどころか、多くの人が死なずに済んだんだ。初めから【沈まぬ月】さえなければ…」
プラチナが、拳を握り締めてそういう。バージルの王、アルバートが全てを話してくれた。この戦いは新旧両竜騎士が協力しなければ終わらない。その事を感じた旧竜騎士たちは過去の話を風の竜に託した。レニたちは驚き、それぞれ複雑な思いを抱く。
「…父様たちも、苦しかったと思う。今は、教えてくれた事に感謝するしかありません」
ハルモニアの凪いだ瞳に、プラチナの感情が行き場を失う。シアはただ黙って竪琴を奏でていた。
「ハル、お前はなんとも思わないの?」
「今まで黙っていた事には、怒りがあるけれど…、それ以上に、責任の重さを感じているんです」
王子はそういい、少し瞳を伏せる。薄っすらと浮かんだ涙を、二人は見逃さなかった。
「フォディオスが、あの月を利用して神になろうとしています。そんな事を私達は赦しません。そうでしょう?」
涙に濡れた、決意の目。意外と鋭い眼光に、シアとプラチナはちょっと驚いた。普段は優しい眼をしている。その目は時折、本当に刃物と化す。その鋭さに皆が言葉を失う。
「そうよ。全て遭った事は真実だわ。だから、振り返ったって仕方が無い」
「シア!それはどういう…」
プラチナはたじろいだが、直ぐに言葉の意味を理解し、一つ力強く頷いた。
「…そう、だね!オイラたちで、あいつを倒せばいいんだね!」

(後編へ続く)

お題:いまだにレジェドラが好きだという、小粋な人へ捧ぐお題
   出題者は三角 勇気さま。HP『碧緑翠』にお題はあります。
著:天空 仁(フーレイ)

 今回は3月 31日と4月 1日にかけてUPします!
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by jin-109-mineyuki | 2006-03-31 10:37 | 閑人閑話図書館 | Trackback | Comments(0)
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