ある野良魔導士の書斎

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第六夜:紫苑の雷編


-紫苑の

紫紺と天の嘶きの、鋭き竜の騎士。
その鎧受け継ぎしは、孤高なる歌姫。
真なる思いに気付いたとき、竜は一つ成長する。

 黄昏時も過ぎた、街角の酒場。その一角にちょっとしたステージ1人の存在―クールな美貌を持つ若い女性―が竪琴を手に微笑んだ。彼女は本来溢れている筈の喧騒を沈めている。
―その蕾が開き、歌が零れ始めた。
初めは静かに、けれど徐々に熱を帯びた歌声がその空間に染み渡る。かき鳴らされる竪琴の音色と憂いを帯びた瞳に人々の魂が揺さぶられる。けれど、当の本人が深い孤独を抱えている事を知らない。

彼女は孤児院で歌いながら育った。その内職員の1人が才能に気付き、教育を施した。10歳の頃には『天才吟遊詩人』として名を知られ、沢山の人に囲まれ、ちやほやされて彼女は育っていった。しかし、彼女は気付いていた。誰も、彼女を対等に扱っていない。多くの人々が彼女を讃え、集ってくる。でも、一人で部屋にいれば、ぽつりといるだけ。心から「友達」や「仲間」と呼べる人などいない。孤児院でも他の子どもたちから「いい気になりやがって」というような目で見られ、誰も相手にしてくれない。
「結局、私は独りなんだ」
それが、何時の間にか口癖になっていた。名前はシア。知らない人は殆んどいない、歌の女神。

 ある日、シアは一人で何気なく故郷に戻っていた。ミール・セゾーの孤児院。そこに戻っても、何にもならないって解かっている。けれど心のどこかでは自分を懐かしみ、暖かく迎えてくれる人がほしい。そんな事を考えていた。そして、思い当たる人がいた。たった一人だけ、自分を対等に見てくれる人物が。
「…ティル兄…」
孤児院の門を開いたとき、その人物はいた。長身の青年はにっこり笑い、シアは自然と腕を広げる。兄的存在のティルハーニャとはいつもハグをする。
「元気だったか?体、無理しとらん?…シアは無茶しやすかけん、心配やったんよ」
「ううん、大丈夫。丈夫なだけが取り柄よ、私…」
シアは自分の中の孤独を隠し、笑う。けれど、ティルは心配そうに彼女を見つめた。そんな時の目に、なぜか逃れられない何かを覚える。何故だろう、急に胸が苦しくなる。
「それより、兄さんは何故戻ってきたの?」
「実は、長旅に出るんよ。やから、挨拶に」
長旅。それを聞いて、シアは目を細める。恐らく、研究の為だろう。仕方の無いことだ。本当は、暫く彼の元に厄介になろう、など考えていたのだが。兄の話も聞きたかった。が、そんな事を考えているとティルは何かに気付いた。腰に下げているシザーバッグから、淡い光が漏れていた。
「シア、ちょっ、それば貸してくれんね?」
「えっ?!」
ティルの逞しい手が、それに伸びる。シアが止められずにいたそれは、紫色の美しい宝珠を取り出した。
「…この前の舞台で、ファンから貰った。綺麗だったから、持っていたの」
シアが若干しどろもどろになりつつ答えるが、その傍ら、ティルは目を見開く。その表情は何故か知的な欲求からくる興奮と喜び。
「もしかしたら、仲間かもしれん」
ティルが呟くが、シアはそれが何を意味するのか解からない。そして、「仲間」という言葉に、何故か無性に腹が立った。
「…兄さん、何の事?仲間って…」
何処か曇った、険のある声。ティルが答えようとするよりも早く宝珠を引ったくり、彼女はきっ、と厳しい視線をティルに投げつける。
「シア?」
「私、つるむのは嫌い。群れるのは嫌いよ。何の「仲間」かは知らないけれど、入る気は無い」
「そ、そんなこと言わんでよ、シア!まだ説明も」
「説明も何も要らない。仲間はいらないわ」
シアは説明をさせない。ティルは妙なところで頑固さが出た、と若干困った顔をする。本当は仲間を欲しがっている事を知っているティルだが、こんな状態だとシアは誰の話を聞かない事を知っている。彼はシアと同じ孤児院で過ごした存在なのだから。
「仲間なんて…要らないのよ」
シアはそう言うとくるり、背を向けて走り出す。ティルはそんな彼女を悲しげに見つめた。内心では、まずかったか、と思いつつも。
「先ずは、話を聞いてほしいんやけれどね…」
後に、シアは宝珠の正体とティルが言っていた仲間の正体を知る。けれども初めのうち、彼女は中々仲間たちに打ち解ける事が出来ず、単独で行動し続けた。幾度変身を繰り返しても…。

 竜の力を持つドラグーン。そして、知らぬ間に手にしたその力。シアを一人の【竜騎士】として、仲間としてティルは手を差し伸べる。他の仲間たちも同じようにし、なかなか素直になれない彼女が漸くその手を取った事は…また、別の機会に話すとしよう。

(完)

お題:いまだにレジェドラが好きだという、小粋な人へ捧ぐお題
   出題者は三角 勇気さま。HP『碧緑翠』にお題はあります。
著:天空 仁(フーレイ)

…一番やばい気がする、シアの話。どうしても「私に仲間は要らない!」といったようなへそ曲がり…というか、天邪鬼というような雰囲気を出したかったんですがね…。ツンデレ?うーん、どうなんだろう。彼女の変化はまぁ、第八夜のストーリーで。次はいよいよ最後の竜騎士ですよ!オリジナル設定である少数民族の一員ってコトになっていますが、気にしないで下さい。頼みます(笑)。
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by jin-109-mineyuki | 2006-03-18 19:44 | 閑人閑話図書館 | Trackback | Comments(0)
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