ある野良魔導士の書斎

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第三夜:碧緑の風編


-碧緑の

深緑たりて若々しき、知恵深き竜の騎士。
その鎧受け継ぎしは、夢抱く幼き王子。
旅立ちを決意した瞳に、強き意志の光が宿る。

 一人、華奢そうな少年が外を眺めていた。半分ずれた眼鏡が僅かに空を映し、薄っすらと涙が浮かんでいるのを隠していた。
「父様の様にも、母様の様にも…ましてや姉様やエオスのようにもなれない」
少年はテラスから離れ、部屋に戻る。簡単に纏められた荷物がベッドの上に転がって、王子を待っていた。
「…だから、旅に出ます」
行き先は嘗て父親が行ったミール・セゾーの国立図書館。幼い頃から旅の話を幾つも聞いていたが、その中で一番興味を持ったのが現在も修繕中の『英知の宝庫』だった。幼い頃から本が大好きなので、憧れているのだ。
(それに、僕自身の腕でどこまで行けるのかも知りたいのです)
セルディオの第一王子、ハルモニア。彼は、一つ頷いて荷物を手に部屋を出て行った。

 ハルモニアは母親譲りの髪を一本に編みなおすと、こっそりと父王の書斎へ入った。城を出る前に、見ていたいものがあったのだ。
(確か、机の引き出しに…)
誰もいない事をもう一度確認し、慣れた手つきで引き出しを開け、奥に隠されていたモノをそっと取り出した。父親が大切に持っている、緑色の宝珠だ。顔を上げると、父親が愛用しているマントが出されている事に気がついた。外に出るときはいつも纏っている。
(外に出るんだ。…そういえば、最近奇妙な噂もあるし)
セルディオを含む世界の彼方此方でモンスターの巨大化や異常繁殖、一部地方のみの異常気象などが起っている。それと同時に、彼自身も奇妙な予感がしていた。自分は近い将来、長い旅に出るのではないか、と。まあ、今回は家出という形で出るのだから、違うのかもしれないが。ハルモニアの手が、そっと、宝珠を握り締める。
「父様、ごめんなさい。僕は…」
その先を紡ごうとして、僅かに躊躇う。何故だろう、僅かに罪悪感を覚える。と、その刹那。人の気配が近づいてくるのを感じ取る。
(拙い!)
手は宝珠を包んだまま身を翻す。咄嗟に、持ってきてしまった。勿論マントも。自分のみには若干大きすぎるのに。それでも、手早く纏うと慣れた動きで窓から外へと飛び出した。外の畑には前日から隠していた槍がある。
「いってきます、父様!」
ハルモニアはそういい、地面を力強く踏みしめた。

 手の中の宝珠は嘗て父親がお守りにしていたらしい。詳しいことは知らないが、長い旅に出ていた事は聞いている。その話を聞きながら、三人兄弟はすくすく育っていた。
(僕も身分を捨てて、いつかは旅に出るんだ!)
ハルモニアも、幼い頃から夢を持っていた。姉のように聡明でなく、弟のように賢くはない。そう、思い込んでいた彼はちょっと前から疎外感と劣等感を覚えていた。実際には槍の才能と思いやりに恵まれた王子なのだが、己の美点がどうも見えていないらしい。小さな王子は溜息混じりに父親を見ていた。
(父様には、姉様とエオスがいる。僕は…多分…)
何故だろう、時折、胸が苦しくなる。その先の言葉を思い浮かべるといつもこうだった。そんな自分が嫌で、仕方がなかった。だから、家出を決意したのである。けれども、不意に、数日前の事が蘇った。
『誰かが呼んでいる気がするんだ』
真夜中に出会った、《別の可能性》の世界で生きる『もう一人の自分』が、呟いていた。何かの大きな力が、自分たちを引き寄せている。もしかしたら、これは始まりかもしれない。
「……、僕、頑張りますからね」
ハルモニアが呟いたとき、影が降りた。顔を上げると、親友のレニとディオが笑いかけている。小さな王子は決意を胸に、彼らの元へ駆け出した。

遠くで、誰かが手を伸ばしている。
美しい緑色の光が穏やかに満ちた『誰か』
その人は言う。
「私と共に行こう」と…
そんな夢を、繰り返し見続けた。
導かれるように、今、僕は一歩踏み出す。

 後に王子はその宝珠の正体を知り、同時に疼いていた力にも目覚める。その時、国王たちに家出の事がばれてしまうのだが、励まされ無事に旅立った。それぞれがそれぞれの役目を持ち、力を持つ。それに気付き、本当の意味で力を得るのは…まだ本の一寸先のことであるが…。

(完)

お題:いまだにレジェドラが好きだという、小粋な人へ捧ぐお題
   出題者は三角 勇気さま。HP『碧緑翠』にお題はあります。
著:天空 仁(フーレイ)

 …三角さんに期待されているらしい…ハルモニアの物語です。皆様、いかがだったでしょうか?この王子、自分の美点に気付かないという欠点があるんです(それは姉と弟にも言えることなんですが:汗)。因みに裏設定ですが、姉のプシュケも槍は操れます。そして、彼女は父親より長身です。弟のエオスは体が弱く、槍は操れません。…あ、長めになってしまった(汗)。
今回も、一日早くアップしてしまいます。いえ、なんだか「はよせな!」という声がスタンバイしている皆(キャラクター)聞こえてくるもので…。
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by jin-109-mineyuki | 2006-02-24 21:15 | 閑人閑話図書館