ある野良魔導士の書斎

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第三話:海色の聖地(1)


 イリュアスが夢から醒めたとき、既に真夜中だった。薄暗く、月明かりによって見えた時計によると、午前三時になったばかりだった。
(長い間、眠っていたんだな)
よく考えていたら何も食べていない。気を利かせたのか、テーブルの上には食事が置かれていた。
(ベヒモスさん、ありがとう)
イリュアスは内心で礼を述べた。丁度空腹だったが、それよりも倦怠感が凄い。痛みは治まっているし、熱もパトスからの薬で下がっている。僅かにぼーっ、としていると、夢のことを思い出していた。魔力が暴走しているのは彼女自身に原因がある。竜はそう言っていた。心当たりはあるが、イリュアスはそれを原因とは思いたくなかった。もし、そうだとするならば…恥ずかしい。言えるわけの無い事が、自分の心を乱し、魔力を暴走させ…。
(そんな筈、ない!)
そう、思いたかった。そんな事で壊れるなんて、嫌だった。
(そうだ。これは何かの間違いだ!…他に問題があるに違いない!)
イリュアスはゆっくりと毛布に潜り込んだ。あの事は、誰にも言うモノか。再び、固く決めて。
「目覚めたか」
不意に、気配と声がする。瞬時に神経が、脳裏が研ぎ澄まされる。
「誰だ…」
体が思うように動かない。神経と脳裏が鮮明になっても痛みが治まらない上に倦怠感が器にこびり付いている。何時の間にか、ベッドの真横にマントらしき物を纏った男がそこにいた。魔力を感じる。侵入者の物ではなく、布から…。
「悪い、もう一度眠ってもらうよ」
「!」
淡い闇を切り、白い布が彼女の口元へ押し付けられる。イリュアスは抵抗できず、思いっきりその布越しに息を吐いてしまう。背中に、彼のものであろう逞しい腕を感じた。視界の闇が度合いを深める。
(しまったっ!)
そう思ったときには既に遅い。どこか覚えのある薬草独特の匂いが鼻を通り抜け、喉を満たし、食道を通っていく。僅かに重い空気の塊が、まどろみの中へと意識を沈めていく。
「うぅ……」
イリュアスは呻き、瞼を落とす。が、無意識に相手に爪を立てていた。僅かに皮膚が切れ、月光に鮮やかな、小さな紅が浮かび上がる。
「竜の力が、変化を促しているんだろうな」
侵入者はそう呟き、ゆっくりとイリュアスを抱え、窓へ向かっていく。そのまま歩き続ける。このままではぶつかってしまうのに、それでも進んでいく。開けようともしない。僅かに明けられたカーテンにすら。
「主が、君の存在を求めているんだ」
彼はそう呟くと勢い良く窓へ肩をぶつけた。瞬間、彼は水飴の中へ落ちるように窓を抜け、夜風に抱えられる。腕の中には眠るイリュアス。完全に宿から出ると、彼は自慢の翼を広げ、海の方へと飛び立って行った。
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by jin-109-mineyuki | 2006-02-13 14:19 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
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