ある野良魔導士の書斎

fureinet.exblog.jp
ブログトップ

第二話:呼ぶ声、呼ばれる者(9)

 イリュアスの診療後、エルデルグとベヒモスはもう一度彼女の部屋を訪れた。
「イリュアス、大丈夫かなぁ」
エルデルグはベッドの傍らに膝を付き、眠る親友を心配する。その横でベヒモスは用意した夜食をテーブルに置き、辺りを見やった。
「怪しい客は今の所着ていないが、一応結界は張っておく。そう簡単に入れはしない筈だ」
彼はそう言うともう一度年若い友達二人を見た。仲間を心配する気持ちは解かるが、どことなく、エルデルグの仕草を見て違う気がした。
「そうだ、エルデルグ」
「ん?」
呼ばれ、振り返る。と、ベヒモスは彼に一枚の銀貨を投げ渡す。狼のシルエットが刻まれている。それが何を意味するのか、エルデルグにはわかっていた。
「ベヒモス、まさか『バイオレット・ムーン』も動き出すのかよ」
『バイオレット・ムーン』はベヒモスが作り出した『仕事人ギルド』である。暗殺、恨み晴らしの代行や夜逃げの手伝い、盗まれたものの奪還などを主な仕事とする。了解の証が、この銀貨だったのだ。
「紫影狼(しえいろう)として動くのか!?」
「そうなる。第一、イリュアスは俺が責任を持ってあの方の場所へ連れて行かなくてはならない存在だ」
ベヒモスは人間の耳を触りつつ呟いた。普段は人間の姿で、狼の耳と尻尾を出しているのは顔見知りだけや家族団欒のとき、そして『仕事人』の顔の時だけだ。それでも、考え事をするとき、耳をかく癖は変わらないらしい。ベヒモスが何を考えているのか、エルデルグにはわからない。第一、彼の言う「あの方」とは誰なんだろう。竜の事に関係するんだろうか?
「さっき、イリュアスが海竜王の候補にとか言っていただろ。それに係わりあるのか?…心から愛した人のリミッターになれるかって…」
その言葉に、ベヒモスは何も答えない。ただ、真剣そうにエルデルグを見返すだけだった。
「イリュアス…」
エルデルグはなんと言えばいいのかわからず、イリュアスの手を握る。その中に、先ほど店でもらったアイテムを握らせて。握った相手の感情によって、色が変わるものだ。イリュアスの手に触れた途端、それはオリーブ色を示した。説明書によれば、困惑の色らしい。
(イリュアス、どんな夢を見ているんだろ?)
エルデルグは余計に心配になった。イリュアスには、いつでも笑っていて欲しいし、早く元気になって、共に戦いたい。元々傭兵だし、仕事が待っているのだ。
(それに、俺、イリュアスとどうしても行きたい所があるんだよ)
エルデルグは元気が無いイリュアスを見、どうにか元気付けたかった。だから、ちょっとしたデートに誘おうとか企んでいたのだが、叶いそうも無い。今はただ、回復を祈るだけだった。

 そんな姿を見、ベヒモスはふと、考える。
(お前は、イリュアスの事、好きなんだろ?…エル)
それもかなり前から、年若い二人を傭兵一年生の頃から見つめ、彼は薄々と感じていたのだった…。

(第二話:完)…第三話へ続く
[PR]
by jin-109-mineyuki | 2006-02-05 22:14 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://fureinet.exblog.jp/tb/3484793
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。