ある野良魔導士の書斎

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第二話:呼ぶ声、呼ばれる者(2)

 エルデルグが食堂に下りると、宿の女将であるシルクレアが戻って来た所だった。彼女は友人に気付き、何時ものように優しくも深みのある笑みを零した。
「シルク姐さん、おかえりなさい」
エルデルグは見習い傭兵の頃から彼女を慕っており、姐さんと呼んでいる。シルクレアはただいま、というと辺りを見渡した。
「ベヒモスはいる?」
「実はオレもおっさんに話があって…」
夫である料理人を探すが、厨房にも居ない。まだ戻っていないのだろうか?シルクレアの表情が若干曇るが、エルデルグはその瞬間をちゃんと見ていた。
「姐さん、何かあったんですか?」
「えっ?」
女将が眼を丸くする。気付いていなかったらしい。しかし、何時もの笑みへとすぐに変わる。
「ちょっと、ね。出来るだけ早くあの人に伝えたくて…。困ったわ…」
シルクレアはふう、と溜息をつき、手を頬に添えた。ちょっとした仕草に彼女が元々内包する妖艶さが滲み、ほんの少しエルデルグはドギマギ。気付きつつも彼女はもう一度辺りを見渡した。
「仕方ないわね。戻るまで待ちましょう」
そういって、カウンターの席へ行く。厨房に居た料理人の一人に水を頼むとシルクレアは頬杖をついてその中を覗いた。待ってても仕方ない、とエルデルグは出入り口へ歩いていく。
「姐さん、少し出かけてきますね」
エルデルグはそう言うと、樫で出来た大きな扉を開けた。

 日が傾き出した町は人で賑わっていた。市場には新鮮な食材や遠くの町から運ばれた洋服や靴、アクセサリーなどの装飾品だけでなく、楽器や薬、武器も揃っている。大抵の物は市場で手に入ったりする。時には怪しいマジックアイテムの店があったりした。
(見舞いに何か買っていくかな…)
知り合いの所へ行こうと思っていたエルデルグだが、イリュアスの見舞いに何か買う事にする。賑やかな場所が好きな彼は時折、一人で市場を彷徨う事がある。その結果得体の知れない店で奇妙な物を買うことも少なくは無い。過去に変なカードを買ったらそれが隠された娼館へのパスポートだった事がある(何かの縁だと思って何度か行った)。そんなある意味お宝だったこともあれば役に立たないガラクタを高値で売りつけられたこともある。今では多少鑑定眼も見につき、簡単には引っかからなくなったが。
「兄さん、何か買っていくかい?」
ふと、声がした。青い布を屋根にした、若干古いテントだ。ミントの清々しい匂いがする。その正体は水香(すいこう。マジックポーションの一つで消臭効果と冷房効果を持つ)で、声を発した男が持っている玻璃の器に入っていた。透き通ったエメラルドグリーンが美しい。男の目と同じ色だ。僅かだが店全体から質の良い魔力を感じ取る。
「…珍しいな。質がいい」
「なんのことで?」
「とぼけても無駄だよ。普通、こういった市のマジックアイテムは魔力の質が粗く、悪いんだ。けれどここのは質がいい」
そこまでいうと、男は参った…というような顔になった。肌はこんがりやけた小麦色。髪は淡い栗色。顔立ちは若者とも壮年にも見える。しかし、一ついえることは美しさを隠そうとしている…?
「あんたで三人目だよ、解かってくれたのは」
「三人目?」
エルデルグは思わずそう言ったが…あえて気にしないことにした。男はにっこり笑うと玻璃の容器を置き、僅かにだが目を細めた。
「今日は珍しい。オレが揃えた商品の価値を見抜いてくれる人が三人もいるなんてね。一人目は背が高いエルフの兄さん。二人目は狼のような雰囲気纏ったおっさん…多分精霊だな。兎に角、嬉しいからサービスするよ」
彼はそういい、懐から一つのガラス球を取り出した。一見無色透明に見えたが、僅かな光を浴びると様々な色に変化した。暫くして、黄色になる。
「言霊写し。握らせた相手が発する言葉…その感情に反応して色を変える」
今は嬉しいから黄色になっている、と付け加え…それをエルデルグの手に握らせる。一瞬にして黄色からハチミツ色へ変色。
「!?」
「驚いただろ?…まぁ、気まぐれな贈り物さ。何かに使ってくれ」
男はそういうと序に、と言ってそれの説明書を渡した。
「…有能なアイテム商人が何故ここに?」
不思議に思いつつも、エルデルグはその店で何か買っていくことにした。これから合う友人と、イリュアスへの土産にするつもりで。
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by jin-109-mineyuki | 2005-08-22 17:45 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
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