ある野良魔導士の書斎

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第二話:呼ぶ声、呼ばれる者(1)

 イリュアスが目覚めると、エルデルグが心配そうに彼女を見つめていた。例のサークレットはベヒモスが修理する、と持っていってしまったためにそこにない。
「エルデルグ…」
ぼやけた頭のまま、首だけを彼のほうに向ける。魔力のうねりが音もなく全身を駆けている現在、身体が熱っぽくて気だるかった。
「大丈夫か?熱、あるみたいだけれど…」
エルデルグはイリュアスの額に浮かんだ汗をそっと拭いつつ問いかける。心配をかけている、と思うと胸が痛い。同時に左腕の紋様が僅かに痛んだ。…と、そこで何か思い出す。
「紋様!」
「イリュアス?!」
彼女がガバッ、と起き上がる。そして勢いよく服の袖を捲り上げたが左腕の紋様は異変を起こしていなかった。
(あれは、夢だったのか)
それを確認すると、ふぅぅ、思わず安堵の息が漏れてしまう。緩まった表情がエルデルグにはちょっと可愛く思えた。
「怖い夢でも見たのか」
「えっ?」
きょとん、としてしまうイリュアス。エルデルグは自然と優しい笑顔を彼女に向ける。そっと頭を撫で、そのまま髪の感触をちょっと楽しんでみる。
「エルデルグ?」
「いや、ずっと苦しそうだったから…」
彼はそっと髪を撫で続け、心配そうな顔になる。それになんとなく安堵感を覚えてしまった。だから口元が僅かに綻んでいた。
「すまない。ちょっと、な」
紋様が全身に広まったのは夢なんだろうか。口に出さず、首を傾げてみる。先ほどより大分呼吸が楽になったのか、イリュアスは身を起した。
「悪いが、水をくれないか?」
「いいぜ。ほら」
エルデルグは水差しから水を汲み、イリュアスに渡す。礼を述べて飲み干すといい味だった。先ほどベヒモスが持ってきてくれたからまだ冷たかった。火照った身体に滲みていく冷たさがとても心地よく、表情が僅かに緩んだ。深く吐いた息。首筋や額を流れていく汗の感触がわかると額の濡れタオルで拭う。サークレットがない額はちょっと違和感があった。ちょっと曇る表情を見、エルデルグが口を開く。
「サークレットの修理ならベヒモスに任せたよ。あの人の人脈は広いから」
「…そうか」
イリュアスは頷く。修理が必要、という事は魔力関連で何かあったのか、と納得したのだ(留め金とかはいつも点検していてわかっている)。彼女はもう一杯水を飲み干すともう一度眠ることにした。夕食になったら起こしてくれ、と言うと軽く目を閉ざし、深いため息を残して眠ってしまった。それを確認すると、エルデルグはそっと部屋を出る。気になる事があった。ベヒモスが紋に反応したがあれはどういう意味なんだろう。興味が湧いた。だから、彼に問う。まだ夕食の仕込みまで時間があるはずだ。彼はモノクルを正し、階段を駆け降りた。
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by jin-109-mineyuki | 2005-08-13 20:33 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
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