ある野良魔導士の書斎

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第一話:目覚めた眠り姫(7)


 イリュアスはまた夢を見ていた。幼い頃の夢だ。樹海の奥深くにある小さな武道を重んじる集落。そして、そこに伝わる一つの伝承。

 嘗て、集落の祖先たちは別の島に住んでいた。しかし島は沈み、命からがらこの大陸に流れ着いた。川を伝って歩き、島と似た環境の場所を探したところ今の場所に落ち着いたという。しかし、そこには強力な魔獣が封印されていた。安心して暮らすために祖先たちは態と封印を解き、魔獣と戦った。しかし、それは強く、何人もの人が食べられたり、殺されたりした。そこを救ったのが代表して封印を破った若者、イリュディアだった。彼は愛用していた斧で魔獣の懐に潜り込み、その心臓を切り裂いた。魔獣は消滅し、イリュディアは民の英雄となった。彼の左腕には奇妙な紋様が浮かんでいた。

それから数年後。村の中から同じ紋様をもつ男の子が産まれることがあり、彼らは皆、成長するとイリュディアのような英雄となった。

 そんな事があり、紋様を持って生まれた赤ちゃんには古代の言葉で『封印』を意味する『イリュ』をつけた名前を与える事になった。この紋様を持った人間は、大きな力に目覚めていく存在だった。

 しかし、イリュアスは女性だった。それは集落が出来て以降初めてのことだ。だから彼女は…十歳になるまで男の子として育てられたのである。そして、魔力の制御を行うためにサークレットを与えられていた。

(何故女である私が…紋様を持つ?)
イリュアスはずっと不思議に思っていた。村には一切資料がない。紋様をもつ人間は彼女以外男しか生まれていないのだから。イリュディアを初めとする紋様保持者は約五十年周期で生まれていた。彼女で丁度十人目にあたる。
(何故私は…この紋様を持つんだ?)
イリュアスは夢の中で、何度も紋様を撫でていた。鉤束のような、奇怪な紋様。僅かに脈打っているような、生きているよな…。
「私の力とは…何なんだ?」
彼女はそっと、紋様に問いかけた。

―瞬間。

ピキッ、ピキピキッ!
「!」
イリュアスの目が見開かれる。紋様が生きたようにその線を延ばし始めたのである。クモの巣をも思わせる、細い模様もあれば太いラインで鎖のような模様もある。腕から広がり、手の甲にも幾何学的な紋様が走る!
「ああっ…!」
身体が火照り始めた。黒い線が身体を掛けていく。顔、身体厭わず漆黒の線に彩られる。走っていくのがありありとわかった。僅かな痛みと快楽が、全身を覆っていく。頭がくらくらとした。けれど全身から力がみなぎるようだ。それに酔いそうで怖い。力のままに暴れそうだ。
(耐えなければ)
そう思うが、口からは甘くも荒い息が、呻きが漏れていく。
(私の力は…一体…?)
苦しみながらも、ふと、考える。その力はこれなのか。そして、何のための力なのか。何度も、胸の中で繰り返す。その間にも線は身体をなぞって行く。
(なんだろう、この絶対的な力は。なんだか、深い。そして、優しい…)
頭が痛くはない。魔力が上手く流れていく。これだったら何でも出来そうだ。そんな気がする。
(私は、この力をどう使えばいいのだろう?)
ふわふわとし始めた意識の中、イリュアスはふと、こんな事を考えた。自分の力が何かはちょっとわかった気がする。けれど、はっきりとは判らない。
「くっ……」
身体が軋む。その振動が全身に響き、思わず顔を顰める。それでも、彼女は眼を開いた。
「私の…力は…」
身体の痛みと、全身に回る紋様。ふと、両腕を見る。と、それは何処か竜のような印象を持った。途端に、それが何か解かったような気がした。
(もしや、この紋様は竜紋なのか?…だとしたら…)
竜紋。竜の力と共鳴する存在、竜と契約した存在が貰い受けるもの。そして、それが全身に回るという事は三つの可能性を秘める、とされていた。一つ目は竜と、彼らが生きる場所を守護する『竜の近衛騎士』。二つ目は竜に見初められ、祝福を受けた『竜の婚約者』。そして、三つ目はいつか竜となる事が運命付けられた『竜の後継者』。このどれかに、自分は選ばれたことになる。イリュアスは思わず息を呑んだが、そのまま意識が闇へ引きずられて行った。目覚めた竜の力を感じながら…。

(第一話:完)…第二話に続く
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by jin-109-mineyuki | 2005-07-24 20:39 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
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