ある野良魔導士の書斎

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第一話:目覚めた眠り姫(5)


 昼食後、イリュアスは再び眠りだした。精神的な疲れだろうか?心配になったエルデルグは近くの椅子に腰掛けたまま、彼女を見つめた。一見、そこらにいる女の子となんら変わらないが彼女は傭兵だ。一体どんな理由で傭兵になったのかは解からない。
(大丈夫かなぁ、イリュアス)
腕の紋といい、頭痛ついい、何かある。絶対に、なにかあるぞ、と考えているとノック音がした。誰だろうか?
「はい」
エルデルグが答えると、穏やかなベースのような声が聞こえた。聞き覚えがある。料理長のベヒモスだ。
「ちょっと、いいかな?」
「イリュアスは眠っていますけれど、いいですよ」
その答えに彼はそうか、と呟き、ゆっくりと扉を開けた。ベッドの上では傭兵の女性が穏やかな寝息を立てて眠っている。料理長は顎の不肖髭を撫でながら彼女を見、僅かにだが表情を曇らせた。
「あまりいい具合ではなさそうだな」
そういい、もう少し歩み寄る。精霊であるためかイリュアスの身体から放たれる魔力をありありと感じ取れた。おかしい。怪訝そうな眉間の皺。それをみたエルデルグは首を傾げる。
「どうしたんですか?そんなにイリュの具合、悪いんですか?」
「…いや」
ベヒモスは首を軽く横に振る。しかし表情は曇ったままだ。イリュアスの身体からは常人以上の魔力が放たれている。それは制御しきれず、彼女自身を苦しめている。長年生きた精霊の勘が、ベヒモスにそう教えている。彼は長年生きた大地の精霊だ。エルデルグは彼の酷く心配そうな顔に不安を覚える。なんだが、胸が苦しくなってしまう。精霊は狼の耳を一度ピクリ、と振わせるとそっと彼女の顔を覗き込んだ。額に目をやると、いつもつけているサークレットが無い。十字架の付いた、あのサークレット。いつも彼女がつけているものが。
「エルデルグ。イリュアスのサークレットは?」
ベヒモスの問いかけに、青年は傍においていたサークレットを手にした。
「ここだ。…これがどうかしたのか?イリュアスはこれで頭痛を抑えていたって言っていたけど」
不思議そうに見つめるエルデルグに、ベヒモスは変わらぬ表情で貸すように手を伸ばす。若干躊躇したものの、エルデルグはベヒモスにそれを渡した。途端、彼は目を見開き、まじまじとそれに見入る。あらゆる角度から其れを見てはイリュアスを見た。精霊が何かを感じるほど、それに魔力があるのだろう。ベヒモスは一見ただの人狼族だが二千年は生きている地の精霊だ。それ故に普通の人間では考えられない程の魔力を内包していてもコントロールが利く。その彼が僅かながら苦しそうに見えた。エルデルグは不安になり、思わず声をかけた。
「ベヒモス…?」
「お前は感じなかったのか?…これは一応、特殊な魔力を制御する物なんだが…それの機能がかなり弱まっている。…イリュアスが持つ魔力が…弱めているんだ」
ベヒモスは僅かにだが興奮しているように思えた。強力な魔力に魔族や精霊は異常に反応する。自分よりも強力な力には逆らえず、場合によっては陶酔状態でその存在を消されてしまう場合もある。ある意味命がけの快楽とも言える。
「…あ」
エルデルグは何か思い出したようにピアスに触れた。彼は人間であるが曽祖父が精霊であったため常人より魔力は若干高い。それを押さえるためにピアスをしていたが…それが押さえたらしい。が、それにしてもおかしい。普通の其れならば、何らかの反応を示す筈。それなのに自分は全くなにも感じていないのだ。
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by jin-109-mineyuki | 2005-07-09 11:05 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
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