ある野良魔導士の書斎

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第一話:目覚めた眠り姫(3)


「!?」
 イリュアスは思わず痣を押さえた。左腕が、妙に痛む。紋に手を当てると、そこが何故か脈を打っているように思えた。いや、本当に脈打っている?
「イリュアス…?」
エルデルグが心配そうに彼女を見る。一瞬にして顔色が変った。それを左目は見逃さない。イリュアスは何故だ、というような顔をしていた。
「大丈夫か?傷でも痛むのか?」
「大丈夫だ、大丈夫…」
そういうものの、イリュアスはその場に崩れてしまう。今度は両手で額を押さえる。サークレットを押さえ、彼女は顔を痛そうに顰めていた。
「どこが大丈夫なんだよ」
ただ事ではない、と思ったエルデルグはそっとイリュアスを立たせると部屋へ入れる。そして靴を脱がせ、ベッドに横たえた。その間、イリュアスは額を押さえていた。
「お前、顔真っ青だぞ。一体どうしたんだ?」
彼の声に、イリュアスは何もこたえない。ただ僅かに呻き、頭を押さえる。
「頭、痛いのか?」
エルデルグの声に彼女が僅かに頷く。その仕草が何時もと違い、妙に可愛く思えるが愛でている場合ではない。急に沸いた汗を拭ってやると窓を開ける。澄んだ空気がいいだろう。イリュアスが僅かにうめき声を上げ、苦しそうに息をする。
「どうしたんだ、イリュアス…。なんで急に?」
「解からない。幼い事から、時々あったから」
ベッドの上から、イリュアスが途切れ途切れに答える。エルデルグは近くの椅子に座ると彼女の髪を撫でた。
「エルデルグ…?」
「いや、なんとなく。それにしても、なんで小さいときからそうなんだ?」
不思議そうなイリュアスの目。エルデルグは笑顔でごまかすと素直に疑問を口にした。彼女が持病もちとは思えないが。
「サークレットが無いと、腕の痛みや頭痛は激しいんだ。けれど最近、サークレットをしていても痛みが酷いときがある」
「だったら、外したらどうだい?」
友達に言われ、イリュアスは暫く考える。しかしゆっくりと首を横に振った。
「ちょっと…怖いな。あの痛みはなんともいえない。サークレットのお陰で人並みの痛さで押さえられているんだ。だから…」
妙に気になる。エルデルグは彼女のサークレットに触れ、首を傾げる。つけていても、いなくても痛い思いをするならば、別の方法で痛みをとっぱらえばいいのに。
「イリュ…」
エルデルグはため息をつき、苦しげに横たわる女性を見た。何時もの凛々しさは消え、儚げに思える。苦痛に顔をゆがめる彼女を、どうにか助けたかった。

 一方、イリュアスとエルデルグが知らない場所。一人彼らの様子を伺っている者がいた。彼はなにやら呟くと一つ頷き、その場を後にする。
「イリュアスが苦しんでいる。…完全な覚醒は近い、という事か」
彼が一人呟いていると、風が舞い上がる。顔を上げると彼の上司が待ちくたびれた、というような顔をしていた。背の高いエルフのような男だ。一方、イリュアスたちの動きを見ていた男は若干瘠せた、四枚の翼を背負う青年である。
「ご主人様、遅くなりました」
「待ちくたびれたぞ。…イリュアスの様子を報告してくれ」
エルフの男は黒髪を一本に編みつつ、青年に問いかける。青年は四枚の翼を閉ざし、その場に跪く。
「話によりますと痛みが増している模様です。例の文様が疼いているとの事。もしかしたら兆しかもしれません」
「そうか…。もう直ぐ目覚めるか…」
報告を聞いたエルフは一人、勝ち誇ったような笑顔を浮かべた。
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by jin-109-mineyuki | 2005-05-01 19:45 | 小説:竜の娘(仮) | Trackback | Comments(0)
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