ある野良魔導士の書斎

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大好きな人だから、独り占めしたい、一緒に居たい (咲乱、どきどき)


―2010年 2月 16日

 夕暮れの街に映える街灯。その下で、1人の女性が顔を上げた。視線の先には走ってくる青年の姿があった。黒い詰襟の衣服からして、銀誓館学園高校の物だとすぐわかる。
「咲乱が女の子を待たせるなんテねぇ」
「悪い。日舞のお師匠さんに電子レンジの使い方教えててね」
苦笑する女性に、咲乱と呼ばれた青年が頭を下げる。ちょっとしょんぼりしたような顔を見るなり、彼女はクスクス笑っていた。
「えーにーしー……」
「はいはイ。しょうがないナァ」
そう言いながらも、縁と呼ばれた女性は手を差し伸べる。青年は手を掴み、口元を綻ばせた。

シルバーレイン・プライベートSS
『あるアフターバレンタイン』 (著:フーレイ)

 バレンタインも過ぎ、店ではチョコレートが割引されて売られている。それを横目に見ながら1組のカップルがスーパーマーケットの中を歩いて行く。2人ともポニーテイルを揺らし、楽しげに話しながら買い物をしていた。
紺色の瞳に、学校の制服なのが水繰 咲乱(b36038)。
赤い瞳に、軽やかなジーンズと白いシャツなのが海堂 縁(b30348)。
2人とも、こうしてみるとごく普通の若者だが……まぁ、色々深い事情を抱える『能力者』である。時が来れば、何も知らないごく普通の人々の命を陰ながら守る為に戦へと身を投じる存在であり、それを除いても似たような境遇の人間にしか言えない事だって抱えている。が、今はごく普通の若者であった。
「しっかし、最近仕事続きで大変だったな……」
「まぁ、ネ。でも全てうまくいったシ。これで暫く休みだといいナァ」
咲乱の言葉に縁が苦笑する。忍である彼女は鳩によって任務が齎されたら、行かねばならない。その事を知っているが故、咲乱はじれったく思っている。
「鳩がこなけりゃいいよな。バレンタインの日だってちょっとしか会えなかったし…」
咲乱はそう言いながら縁に苦笑しつつ、精肉コーナーに並んだ肉を見た。
「今日は鍋にするけど、縁は何がいいかい?」
「そうだネェ、……鶏団子鍋がいいネ?」
「よし来た。鶏挽肉に柚の皮をちょいと仕込んだものにしようかね」
少し思案しながらリクエストする縁に、咲乱は頷く。その後も色々話しながら買い物を済ませ、2人はそこを後にした。

―『宵闇館』
 ここは咲乱が下宿している洋館。咲乱の部屋ではキッチンで調理した具をカセットコンロの上に置いた鍋でぐつぐつ煮ている。整理された部屋の片隅では三毛猫のホームズがキャットタワーの上で丸くなっている。
「相変わらず手際がいいネェ♪ 惚れ直しチャウv」
「おだてても何も出ないぞ」
縁が笑い交じりに言うと、咲乱は苦笑しつつもほんのりと頬を赤くする。鍋に具を足しつつも嬉しそうににやにやしている。そうしている間にも縁は豆腐や白菜を器に盛って、ふうふういいながら食べていた。
「最近は仕事が多くテネ。中々会えなくて寂しかッタんじゃないのカナ?」
と、縁。
「……まぁな」
ぼそっ、と答える咲乱の顔は複雑そうだ。縁のやっている仕事が何かは十分承知している。が、その内容が若干そんな表情にさせるらしい。彼女が「忍びだからネ」と答えるのは判り切っているので口にはしないが……。そんな姿も、からかい対象になっていたりする事に、気付いていない。
「だってさぁ。俺は……その……縁をひとりじめしたいっつーか…なんつーか…」
「ははっ、相変わらずだナァ♪」
更に赤くなる咲乱の頬に、縁が手を伸ばす。そして口元についたご飯粒を取るとひょいっ、と口にした。修行が足りない、と言うべきか益々咲乱はたじたじになる。
(あー、やっぱ俺……縁に敵わないんだよなぁ、こーいうの)
頭から湯気が出そうな程紅潮しているが、それでも平静を装って食事を再開する。口にした鶏団子が何時もより美味しく感じ、ふと、縁と目があった。
「よく考えてみれば、俺達……付き合って一年になるな」
「覚えていたんダネ。色々あったから忘れたんじゃないカッテ思ってたヨ?」

 約一年前。バレンタインが過ぎても屋上は多くの生徒たちで賑わっていた。偶々カレーを振舞っていた咲乱はそこで縁と出会い……互いに惹かれあった。そして、一緒に幾つかの戦争を乗り越えここまで来たのである。

「いつの間にか、だったネ」
「あっと言う間の1年だったよ」
2人で思い返せば、楽しい思い出がよみがえる。確かに喧嘩する時もあったが、一緒にいると互いにくつろげて、幸せだった。互いに深い事情を抱えてはいるが、その手があれば乗り越える自信もある。そんな事を感慨深く思っていると、縁はある事に気が付いた。
「咲乱も今年3年生カ。進路は考えてるの?」
「うん。大学の教育学部か理学部に行きたいと思ってる」
彼女の問いに咲乱がスムーズに答える。この学園に来てから「学校の先生になりたい」という夢が出来ているのだ。その話をする度に、紺色の瞳がきらきら輝くのを縁は知っている。口元を綻ばせ、茶を飲みながら恋人を見つめていた。
「まぁ、試験は苦手だ。でも頑張るさ」
ぶっきらぼうに言い放つ咲乱の横に座り、縁はさり気無く鶏団子を差し出す。
「なら、たっぷりスタミナをつけないとネ?」
「あはは、言ってくれるね」
「はい、あーんしテ」
「……あ、あーん…」
咲乱の口に運びこまれる鶏団子。こうして食べると妙に気恥かしくてならない。けれど、愛する人の温もりが、なんとなく嬉しい。
(守る為だったら、俺は何度でも戦える……)
一つ頷き、縁を見る。と、縁も穏やかな笑顔を見せてくれた。この笑顔を見るたびに、出会った頃よりも豊かになったなぁ、と実感する。
「味はどうダイ?」
「ん……おいしいよ」
と、2人見つめ合っていると……

ガタッ ガタガタッ!

と、窓が震える。
「もしかしたら、そろそろ行かなきゃいけないのかもネ」
縁はちょっとだけ苦笑し、窓へ行こうとしたが咲乱がそれを手で制して席を立った。
(……ちっ、鳩か)
そう内心で言いながら咲乱が窓を開けると……見覚えのある少年が顔を覗かせていた。白い髪をポニーテイルにし、学ランに身を包んでいる。あと、白いマフラーが暗闇に映えていた。水繰家と協力関係にある忍びの末裔、雨月 寒凪がにこやかな笑みで手を振っていた。
「よーっす、咲乱様、縁様。近所まで来たんで挨拶にきたっすー♪」
「「……」」
咲乱と縁は言葉を失う。そして僅かな沈黙の後、咲乱と縁は黙って窓を閉め、カーテンを閉めた。
「ちょっ、お二人とも!! それは無いっ!」
「緊張の糸が切れたわっ!!」
咲乱の言葉に寒凪は何が何だか分からず、首を傾げるだけだった。

(終)

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後書き
ども、フーレイです。
まず縁さんのPLさん、出させていただき誠にありがとうございます。
甘甘目指したけどおかしかったらごめんなさい。あと、オチ担当としてオリジナルキャラクターもでちゃったりしております。

 縁さんと咲乱が恋人同士になって1年。その記念にと思って執筆しました。縁さん、今後も咲乱をよろしくお願いします。

それでは。
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by jin-109-mineyuki | 2010-02-19 23:29 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)