ある野良魔導士の書斎

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よく考えたらPBMのSSは初? (フーレイ、意外……)


 JJの言葉を聞き、空気が張り詰める。囚人たちと『ウォッチタワー』のメンバーが不安げな表情を見せ、1人の女性が一同を見渡す。
「さっきも言った通りよ。私は、渡されてもかまわない。
 ……それが、最良の決断ならば、私も悔いはないわ」
「ダイアモンド!」
ダイアモンドはそういい、名を呼んだ青年をみた。
「ヒジリ、ありがとう。でも……ここが潮時かもしれないの。レイヴンだって……」
ヒジリはその言葉に、苦虫をかみつぶしたような顔になった。腕に抱えた傭兵は、監獄で支給されたサプリメントを飲み、その禁断症状に苦しんでいる。
「…くそっ、情けねぇ……」
荒い呼吸のまま、レイヴンが呟く。相当痛むのか、声を押し殺してはいるが唸り声を洩らしている。それでも、彼は少しだけ体を動かし、どうにか起きようとしていた。が、思うように動かない。
「ヒジリ、悪い。ちょっと手を貸してくれないか?」
「ああ」
ヒジリの手をかり、漸く起き上がるとレイヴンは仲間たちの顔を見た。
(ここは勝負所だろうな。……それに、オレらしいし)
呼吸を落ち着かせる。一瞬だけ痛みが引き、視界がはっきりとした。ヒジリの黒い瞳が、横目に移る。
「……なあ、皆。ちょっと聞いてくれ」
レイヴンはのろのろと手を挙げ、自分に注目を向けた。囚人たちのリーダー格、ルオウと瞳が合う。
「何かいいアイデアでも浮かんだのか?」
それに首を横に振り、ルオウは目を丸くする。ヒジリも、ダイアモンドも、レイヴンが何を言い出すか予想が付かなかった。が、レイヴンは言う。

―オレは、JJの所へ向かう。

アンダーグラウンドチルドレンXX プライベートテイル
『Der Sieg der Bande』 著:天空 仁

「…………」
レイヴンに抱えられたまま【サイコキネシス】で縦穴をとおって行く。その光景を見ながらヒジリはぼんやりと考えていた。
(捕まってから、怒涛の日々だったな)
仲間たちとの脱走、『ウォッチタワー』との遭遇、ランカー達との戦い……。心休まる時があまりなかったのではないだろうか。最初共に脱走していた仲間達とは散り散りになってしまったが、恐らくは無事だろう。いや、それを信じたい。そう願っていると、レイヴンの横顔が目に入った。
(……生肉か)
彼との約束の事が何故かよぎる。「優勝したら生肉を手に入れて食べさせる」と言ったとたん、レイヴンに生気が戻ったのだ。それだけ好物なのだろうが……。
「なぁ」
「ん?」
不意に、レイヴンが声をかける。いつも通り平静な気持ちのまま、反応を返す。ふわり、と白と黒の流れが靡き、湿った風が頬をなでる。どうやらそろそろ天辺につくようだ。そう感じつつ彼の言葉を待つ。
「生き残るぞ」
「何を言い出すかと思えば」
ヒジリは僅かに苦笑した。一緒に行くと決めた時には既に覚悟を決めていたのだ。確かに戦闘には向かないだろうが、やってみなくては判らない。
「互いの得意分野と適正PSIを巧みに使えば奴らに立ち向かえる」
「それに……奴らにはない物をオレ達は持っている。そう、思っているよ」
不敵な声に、レイヴンもまた小さく微笑む。そして、2人はそのまま第五層にある『メール・イン・ブラック』の倉庫へと向かった。

 2人が倉庫につくと、JJともう一人、愛らしい少女が出迎えた。そして、すぐさまバトルが開始された。ヒジリの提案を飲んでくれたお陰で、タッグマッチが叶ったが、それは2人にとっても行幸だった。
(やっぱりな)
(予想通りだったかっ)
其々の口元に、強気な笑みが浮かぶ。ゼロエイトとゼロフォーの間に自分たちのような信頼関係が成り立っていない。
((いける!!))
「ヒジリ!」
【エオリア】で浮かんでいたレイヴンが手を伸ばし、すっ、とヒジリが掴んだ。そしてニヤリと笑って持ちあげる。

「確かに、俺たち1人1人では叶う相手じゃない。その上、おまえは禁断症状で弱っている」
「そこがネックなんだよな。でも、だからこそタッグに持っていけばいいんだよな」
「ああ。俺たちの予想が当たっていれば……トップランカー達の間に、信頼はない」

レイヴンが放った【スタンガン】はヒジリが放った【スプリング】の熱湯を通し、目論み通りランカー2人を倒すのに十分だった。地面に着地し、優雅にヒジリを下ろすとJJは少しだけ感心したように笑う。
「考えたな」
「さてね。……これは手始めなんだろう?」
ヒジリの挑発的な言葉に、JJは冷静な表情で肩を竦める。そして右手で合図を送ると次の相手が前に出た。
「さぁ、次の試合を始めよう」
JJの言葉に促され、レイヴンとヒジリもまたリングへ戻っていた。次の相手はゼロファイブとゼロセブンだ。
「……少しは楽しめそうだな」
ゼロファイブの言葉に、レイヴンがにこっ、と笑う。が、その額に薄らと汗が浮かんでいる。僅かにそれを危惧するヒジリだが、レイヴンはまだいける、と笑顔で語っていた。
「さっきの二人より、楽しませてくれるよな?」
レイヴンが囀り、ゼロセブンの表情が険しくなる。そう、この二人は一度『ウォッチタワー』のアジトで対峙しているのだ。
「言ったな。お前は俺の手で消し炭にしてやる!」
「できるものならば」
不意に、ヒジリの唇が動く。言ってしまってから我に帰り、自分がレイヴンに釣られていた事に気づくと僅かにレイヴンを小突いた。その様子に呆れつつも、JJは動いた。

―ゴングが、鳴る。

「【プロミネンス】!」
刹那、紅蓮色の炎が2人に襲いかかるもレイヴンは【エオリア】で宙に浮き、ヒジリもまた【スプリング】で凌ぎそれを避ける。が、既にゼロファイブが【ソニック】で彼に近づいていた。
「くっ…【ダークネス】っ!」
急に一瞬、場が凍りつく。レイヴンとゼロセブンは耐える事が出来たがゼロファイブは諸にそれをうけ、派手に地面へと転がった。どうやら、視覚を失ったらしい。
「【サイコキネシス】っ」
直ぐにレイヴンが叫ぶと廃材が動き、ゼロファイブの上へと覆いかぶさる。が、それは【イージス】で弾かれる。僅かにおこる砂埃。ゼロセブンはチャンスとばかりにレイヴンへと走っていく。
「あの時の謝礼をしないとなぁ!喰らえ!!」
【キャッチアファイアー】の炎が迫り、レイヴンは紙一重で交わす。が、それは目くらましにすぎなかった。隙をつき、重い拳をアルビノの傭兵に解き放つ!
「ぐっ……っ」
眩暈がしたのだろう。動きを止めたレイヴンめがけ、ゼロファイブが【シューティングスター】で襲いかかった。
「【スプリング】!」
ヒジリの放った熱湯が、ゼロファイブの顔面を襲う。それに目を眩ませた時、レイヴンはゼロセブンから【プロミネンス】を食らおうとしていた。
「レイヴン!」
ヒジリの声に、僅かにぼんやりとしたレイヴンの脳裏が鮮明になる。すぐさま【エオリア】で真上に上がり、その赤々とした蛇がゼロファイブを襲う!
「ぐあああっ!」
「くっ……」
ゼロファイブが炎に包まれて水たまりへと転がり、動かなくなった。死んではいないだろうが戦闘は続けられない。
「まだまだっ!」
視点が自分にないうちに、ヒジリが迫る。我に返った時、彼はヒジリとレイヴンの蹴りを受けていた。何のPSIもかかっていないただの蹴り。しかし、ゼロゼブンを跪かせるには十分だった。
「……なっ……」
目を白黒させながら、膝をつくゼロセブン。そして、その影は降りてくる。
「【ダークネス】」
ドゴッ!!
レイヴンの【エオリア】で足場を作ったヒジリの蹴りが炸裂した。油断したゼロセブンの気力を破り、音もなく神経を蝕む【ダークネス】。それが功を相したようだった。
「これで、二勝……」
息をつき、地面に着地した白衣の医者は…袖の埃を払いながらJJにそう言った。

 僅かにグッタリとしたように見えるレイヴンに、ヒジリは僅かな水を飲ませる。額の汗をぬぐいながら、ヒジリは次の相手を見据えた。
「……あと2戦か。これに勝てたら生肉がまってるぞ」
「おうっ」
レイヴンは強気な笑みを見せ、力強く頷く。それに小さく安堵しつつも、ヒジリもまた水を飲み干した。
(状況はあまり良くない。でも……)
ちらり、と横を見る。と、レイヴンはにこっ、とヒジリに笑いかけていた。
「ダイアモンドたちが待ってる。……行こうぜ、相棒!」
その言葉に、何故だろう、不思議と力が漲る……そんな感覚がした。
「もういいかな? 次の試合に移りたいんだが」
JJの静かな【テレパス】が脳を揺さぶる。それに頷きながらヒジリは立ち上がり、レイヴンに手を伸ばしていた。
「?」
「時間だ」


 三度目の試合の最中、『メール・イン・ブラック』のマシーナリー達が襲いかかってきた。その激闘の中で、レイヴンは覚醒し、ランクを上げた。そしてJJ……否、ジョーカーマンは彼らを含む4人にこう言った。

―お前たちの持つ力を俺に預けてほしい。
 このジョーカーマンの思い描く『力による秩序』のために!

『ウォッチタワー』と囚人たちを助けた後、彼は全てを語ってくれた。かつて悲惨な状況下から人類を守る為に作った『エデン法』に浸かりきった人間達に絶望した事、だからこそセシル・シールドとは別の立場から彼女の『理想特区』計画に手を貸していた事。

 ルシファーが出した『エデン法』を突っぱねる為に、ジョーカーマンは手を貸して欲しいと言いだした。レイヴンとヒジリは顔を見合わせる。
「……『エデン法』はいらない。けど『理想特区』もいらない」
レイヴンの呟きに、ヒジリは苦笑する。だが、彼もまた内心では似たような考察に到達していた。
(さて、どうする?)
ヒジリはジョーカーマンを見、自分に問いかける。そして、僅かに口元を綻ばせた。

(終)
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登場人物紹介

・ヒジリ・タカシナ
ダブルチャイルドの医者。

・レイヴン・スノウ
ダブルチャイルドの傭兵。

・ダイアモンド
ダブルチャイルド。『ウォッチタワー』の纏め役。

・ルオウ
オールドマンで最下層の囚人達にとってはリーダー格。

・JJ
=ジョーカーマン。伝説のダブルチャイルド。

・ゼロセブン/・ゼロファイブ
ランカーの一員。Aランクの能力者。


後書き
ども、天空 仁です。
……締め切り1日前で駆け足気味に書きました。ぼろぼろではありますが第8回Eテイルで省略されたバトルと前後のやり取りを書いてみました。最後で第9回Eテイル時点での状態も……。最後のテイルでどうなるか、どきどきです。

それでは。
結構ちょこちょこ書きたかった著者:天空 仁

因みにタイトルはドイツで「絆の勝利」という意味です。
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by jin-109-mineyuki | 2010-02-08 15:34 | PBM関連 | Comments(2)
Commented by シン at 2010-02-08 22:10 x
こんばんは。こちらでははじめまして、になりますね。いつもお世話になっております。
SS、拝読致しました。なんだかヒジリが凄く格好良く描写されていますね。嬉しいやら勿体無いやら、ありがとうございます!
バトルの描写も細かくて、なるほど、ランク差があってもこんな戦い方が!と感心致しました。テイル本編で省略されていたバトルが読めて、とってもお得な気分です(笑)
しかも、一日でこれだけ書けてしまうとは…テイルというベースがあるとはいえ、お早いですねぇ。凄いです。
とりあえずあと1回、お互いに良い結果が迎えられると良いですね。
実はまだアクトの下書きが出来ておりませんので(汗)この辺で失礼致します。
Commented by jin-109-mineyuki at 2010-02-08 22:42
シンさん、ありがとうございます。
こちらでははじめまして、フーレイです。

テイルを読んでいて閃いたのをやってみたわけですが……そう言ってもらえてうれしい事です。今日は休みだったので、ゆっくり考える事が出来ました~。

ただバトルシーンは若干悩みました。
楽しんでいただければ光栄ですし、略されていた部分はやっぱり考えたくなったもので……。

それでは。アクト、互いに頑張りましょう。